くしゃみの原因
[ 400字小説 / 09 ]
「ふぇくしゅっ」
起き抜けにくしゃみをひとつ。隣りに眠る恋人が身じろいで、慌てて口を塞いだ。犯人は分かっている。足元で丸まって眠っている真っ白でフサフサな毛並みの子猫、クロだ。先代の黒猫のクロが亡くなった日に拾ったからこの名前をつけたが、名前に似つかないとても綺麗な美猫だったりする。
隣りで眠る恋人とクロを起こさないように、そっと布団から出る。足元に散らかった下着や部屋着を拾い集め、裸のままで洗濯機へと向かった。
「ふぇくしゅん!」
そこでまた大きなくしゃみをひとつ。ぶるりと身震いしながら、そう言えば今日は冷え込むなあ、なんて思ったりして。またくしゃみが出そうになり、そろそろ起きて来る恋人に聞かれてもいいように、
「へっくちっ」
極力小さく可愛くおさめた。着衣に付着したクロの毛を取り除くのに夢中になっていたわたしは、くしゃみの原因が彼女の毛並みじゃなく、風邪のせいだと気づかずにいた。
くしゃみの原因
2022/12/17
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