三月の女子会

 ひんやりとした、くうき。冷凍庫より。
 海をみたことがなかったのに、みたことがあるような気がしていた。既視感に近い。小型の通信機器を、にんげんの大半が持つようになって、狂ったところもあると思った。わに様と、白い蛇が、世も末だと話していたのは確か三年前で、三年経ってもあいかわらず、わに様と白い蛇は、世も末だと嘆いている。おおきな冷凍庫にねむっているのは、生存しているものがもうあとわずかしかいない稀少生物で、にんげんの都合で仮死状態(冷凍睡眠)にされた彼らのことを、わたしは漠然とかわいそうだと思って、でも、漠然では、なんだか説得力に欠けるから、かわいそうとは思っていても、思っているだけにしている。わに様と、白い蛇と、わたしと、三人で、月がよくみえる丘の上の公園から、おそらく、表面上ではわからないけれど、確実に、内面は腐りはじめているだろう、この星のゆくすえを、なんとなく心配しているときの感情線は、フラットである。一ヶ月に一冊も本を読まないにんげんが増えている、というインターネット記事を読んで、わに様も、白い蛇も、まあみんな忙しいからねと平然としていて、わたしだけが、一冊も本を読まないなんて信じられない、とひそかにショックをうけていたけれど、テレビが好きなひとからすれば、一日に一度もテレビを観ないなんて信じられない、と思うのだろうし、価値観とはそういうものかねとふたりに話したところ、わに様も、白い蛇も、あんたはちょっと極端よねと呆れられた。

三月の女子会

三月の女子会

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2023-03-13

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted