感情のなまえ

 春が、はじまりました。ので、冬はおわりました。感慨に浸ることはなく、夏がきて、秋もすぎれば、また、逢えるのだからと、名残惜しむようなこともなく、そういうふうにできている、この星のしくみにぎもんをもたずに、ただ、淡々と、季節のうつりかわりを感じています。

 こどもたちが、光り輝いている。
 反射して、輪郭をうまくとらえきれない。
 気づけば花のにおいがしている。なまえはしらないけれど、春になるとよく咲いている花だと思った。眠っていた生命体が目を覚まし、にぎやかになっていく。濃密になる、せい、と、し。テレビのむこうのだれかが、ひとびとにあたえるものがある。いいものも、わるいものも。一緒くたにあふれてくる。うけとめる。窓をあけて、頬を撫でる風に、冬の残滓。踏切と、電車が走る音。どこかの家からもれきこえてくる、歓声。あしたもおだやかでありたいと思いながら、しろくまが淹れるコーヒーの香りと交わるように、たばこを吸う。

感情のなまえ

感情のなまえ

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2023-03-12

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