シンビジウム
夜明けの寒さが過ぎたら歩きはじめる、金色の折り紙でできた特別賞のしるしを探して、電柱の裏、ポストの底、それから束ねられた木の枝のすき間と路駐の後部座席を覗きこんで、最後に長くはない、この廊下を。
白いシンビジウムが並んでいる。
静かな夜のためには雪が必要だったから、けれど優しい花のためには光が必要だったから、次の停車場で休憩をしよう。思考の整理なんて所詮は振りだと訳知り顔で、ただ笑って、肩の力を抜いて。
時計の針の一周はひどく早い。
要請され続ける物語がいつか擦り切れてしまうことを恐れても、すでに歩きはじめたのならば止まれないのだ。模倣と複製のうえにつくられる風景から取りこぼされるものがあることは、すでにここでも定説化している。
あの人はもう、ふるさとの訛りを話せない。
いつからか消えた注意書きのようだ、記憶がすべてはがれ落ちる日も、老いが成長に取って代わる日も、音無く変わる日常の要素だ、新たな手触りに馴染んでいく日々の集成だ。
梅の香を待ちわびる今日も、星がきれいだ。
シンビジウム