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ノエル。星の心臓となった。
夜の声がきこえるとき、わたしのからだは、骨から浮遊する感覚をおぼえる。だれかがたいせつに育てた、うつくしい花を、慈しむ余裕がない三月のある日に、月からの新人類が、あなたたちの棲み処はいつまでも青くあるべきだと云って、海をみつめていた。写真家だというひとがまるで、なにかに取り憑かれたように、貪るみたいに、その新人類の横顔を撮影していた。春、と呼ぶよりは初夏を思わせる空と、気温と、おだやかな波の音に、すべてをゆだねなさいと、わたしに耳打ちする者がいて、すこしはなれたところからはたくさんの、おとなの、こどもの、たのしそうなざわめきがつたわってきて、ときどき、わたしになにかをささやいてくれるのは、きっと、ノエルなのだろうと思うと、どんなにちいさなことにも感動がうまれた。
写真家が切るシャッターは、けれど、無限にやさしい。
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