うららか
ねこは、三月はなんだか、そわそわするね、と言った。わたしは、そうね、と答えて、早咲きの桜の木のしたで、甘酒を飲みながら、芝生で遊ぶ知らないこどもたちを見ていた。木製のベンチは、太陽の熱を吸いこんで、温かくなっていた。ぬくいなぁと、ねこはぽやぽやした調子で言って、わたしは、ずずっと甘酒を啜り、春の、やわらかな陽射しが一年中、つづけばいいのにと思ったりしていた。
いま、確実に、平和、と呼べるかといったら、そうではないのだけれど。
もう、となりの、となりの街にまで、カマキリにんげんは勢力を拡大しているという。いっしょに本屋さんでアルバイトをしていた、ロックバンドにくわしい女の子が、カマキリにんげんってちょっとかっこいいですよねとうっとりしていたことを思い出す。わたしには、よくわからない感覚だった。テレビにうつる、カマキリにんげんを、ねこは、こわい、と怯える。わたしも、どちらかといえば、こわい、と思う。でも、カマキリにんげんに対して、ただのにんげんは、どうすることもできないらしくて、えらいひとたちはみんな、成り行きを見守っているという感じ。(手も足も出ない?)傍観。あきらめている、ということで、わたしたちも、あきらめるしかないのかもしれないなぁと思ってる。他人事みたいに。
紙コップのなかの甘酒を飲みほして、きのう買った文庫本のページをひらく。
しゃべるクマと、にんげんの女のひとのおはなし。
ねむいーと言いながら、ねこがぐんっと伸びをする。
こどもたちの声が、なんとなく遠くの方にきこえる。
うららか