3と4番線の獣

こないだの木曜日だったかな。見ました。

浦和駅の5、6番線のホームで、PARCOの方を眺めながら電車を待っていた時です。
浦和駅の5、6番線のホームからPARCOの方を眺めているという事は、5、6番線から一段下がった所にある3、4番線のホームやら、1、2番線のホーム、京浜東北線のホームやらが望めるという事です。
で、その日、その日はkindleに入っている本を読む日ではありませんでした。実物の本を読む日でした。でもそれはカバンに入っていて、出すのが面倒だったので、とりあえずまあ、ホームからPARCOの方を眺めていたのです。
そうして眺めている時、ふと目の端に、何か違和感が生じました。何かが見えたんです。それが何か、何だろうと思って、視界をさまよわせて焦点を合わせると、3、4番線のホームに会った、看板というか、なんか立て看板みたいのがあるじゃないですか。自販機の横に。背中合わせで、8人位が座れるベンチがあって、その横に立て看板みたいなのが、あったんです。その下、看板は下の部分が抜けている造りのやつで、そこから、何か見えました。違和感の正体はそれでした。
「なんだろうあれ」
獣の足でした。四本足の獣の足。灰色の、例えるならまあ、そうだなあ。犬、狼。犬神。みたいな。3、4番線のホームの看板の下の空間に、そういう獣の足が見えたんです。
最初、誰かのペットか何かかなと思いました。思考が追いついてませんでしたから。そう思ったんでしょう。でも、見ているうちに、私とは別に頭が、それをおかしいなと思い始めてきたんです。
私とは別に、頭がおかしいなと思い出したことに、私自身も確かにそうだなと思いました。
例えばそういう獣、ペットがいたとしてペットケージみたいなもんに入ってるだろうなって。ホームと言えども、出しっぱなしにしては置かないよなあって。盲導犬?それにしても灰色だし。いやまあ、灰色の盲導犬もいるんだろうけども。でも、それにしても、それにしては大きいし。なんか体感豹とか、ジャガーくらいありそう。大きいな。ゴールデンレトリバーよりも大きい気がする。虎くらい。足だけだからよくわからないけども。
獣の足は、看板の下で止まっていました。
何かに狙いを定めている様にも見えますし、あるいはただリラックスして立っているだけのようにも見えました。周りの人だって誰もそれの事を見たりはしてません。まるでいないかのように。そこには何もいないかのように。ただ、思い思いにホームに立っているだけです。獣の足も看板の下に留まったまま動く感じはありませんでした。
だから、
いや、どうなんだろう。だからなのか、あるいはそのホームの、3、4番線のホームの感じを見たからなのか、不意に、頭にある考えが去来したのです。
「あれってもしかして、私にしか見えてないのかな」
5、6番線のホームのまわりの人を見てみました。しかし、誰もがスマホをいじって下を見ていたので、誰も、それを、自分みたいに注視している人間はいませんでした。
そうしてその時です。私が見ている事に、その獣を、獣の足を、見ていることに気が付いた、気が付かれたのか、その獣の足が、一歩前に進み、進んだんです。獣の全体像は看板に隠れて見えません。足しか見えません。
それが、看板の下から、一歩足を前に、前足を、出して、ああ、見える。見えちゃう。もうすぐ全部見えちゃう。見えちゃう。観ちゃう。浦和駅の3、4番線にいる得体のしれない獣を見ちゃう。見ちゃうだけならまだしも、もしかしたら、
目が合うかも知れない。
その、得体のしれない獣と。
目が合う。
目が合ったらどうなるんだろう。
そう思った時、目の前に電車が走り込んできました。
3、4番線のホームも見えなくなりました。
その後、その電車に乗って、でも、なかなかに混んでいたので、3、4番線のホームを見る、望むことは叶わず。
電車は走り出しました。
その後、その後は5、6番線のホームとか3、4番線のホームも使い、使ってますけども、あの獣を見ることはありません。
今の所は。
だから私の見間違いだったのかなって思います。
思ってます。
今の所。
そうじゃなきゃ困ります。

3と4番線の獣

3と4番線の獣

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2023-03-06

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