さようなら
竹内まりやの曲をヒントに筋書きはoriginal。
帰宅途中の足立亜弥は竹内まりやのfanである。
まりやが作曲しいろいろなtalentにpresentした曲をiPhoneで聴きながら街を歩いていたのだが・・。
何か或る曲の歌詞が、且つて自分が経験した状況に似ている事に気が付く。
そんな事を考えていて、一瞬胸がキュンとなるのを覚えた。
高校生の頃の事だった。
其れは亜弥にとり初めての経験。三年の時、秋の体育祭で借り物競争がプログラムに組まれていた。
借り物競争とは、在校生だけでなく場合によっては見学している父兄や学校関係者等も飛び入り参加して行われる事も少なくない。
市内で亜弥が通う松岡高校はどちらかというと男子生徒より女子生徒の方が多い。
男子生徒は数で勝る女子生徒に頭が上がらない様な・・?
亜弥のクラスもいざ教室に入れば、まだ若過ぎる様な女子高生の微かな匂いが漂ってくる。 男臭さというものはあまり感じられない。多勢に無勢のバランスというだけで、何事も無さそうでもあるが・・。
其れでも同級の女子の中には、数少ない男子を獲得した者もいるから、カップルもちらほらと見られる。
亜弥にはクラスメイトであり・・親友といって良いのだが、根岸久美という女子と仲が良い。
二人は偶々家も近かったから、通学途中で一緒になる事があった。
一年の時はクラスが違ったから特別に意識する事は無かった。
其れが二年になり同じクラスになってから、帰り道で顔を会わせたりすると、何方からともなく互いの存在を意識し目で挨拶をする様になった。
其れが席が隣同士になってからは一段と仲が良くなるのだが、こんな事もあった。
授業中、教師の質問に答える様に二人が手を挙げた。
二人共ほぼ同時だったのだが、他のクラスメイトがやや遅れて手を挙げた時、三上教師は迷わず亜弥の名を呼んだ。
ところが、三上の視線は久美に注がれている。其の視線を二人はどう解釈して良いのかと迷ってしまった。
結局、亜弥が聊か自信なさそうに返事をし立ち上がった時、三上が。
「あ・・そう?君が亜弥君か」
と少し慌てた様に頭を掻きながら改めて。
「其れでは亜弥君」
と言い直したから、教室に皆の笑い声が響いた。
此の三上は国語の担当教師だったのだが、授業中に教科書から脱線しだし、挙句、時代物を話し出し、遂には忍者が登場したりしたからクラスで人気者の教師だった。
其の日の授業が終わった後、三上は二人の顔に交互に目を遣り、
「何か二人は似ているから・・いや御免」
と笑った。
三上でなくとも同じ様に間違えてもおかしく無い程二人は顔立ちだけでなく表情までもが似ていた。
其れだけにあらず、二人一緒に買い物に行った時など。
亜弥が気に入った服をハンガーラックから取り外し試着しだす。
すると、其れを見ていた久美が試着室の鏡に映っている亜弥の姿が気に入ったのか、自分も同じ服を試着する。
隣り合わせに並んでいる試着室は同じ様な顔をした二人の笑顔で占領されていた。
それ程気の合う二人は、私服でいる時でさえそんな感じだったのだ・・。
増してや同じ制服を着た二人の姿は、クラスメイトでも見分けがつかない程であり、しばしば、クラスを混乱させる事に繋がったりもした。
ひょっとし、二人の何方かが意識していなくとも相手の仕種を自分のものにしてしまう様な事があったからなのかも知れない。
教師でも三上の様な痛快な役者もいれば、化学の教師片田の様に人気の無い・・と言うか生真面目(きまじめ)?タイプも。
或る時席替えがあり、二人は同じ列の一番後ろと其の一つ前の席に座る事になった。
一番後ろだから片田からは当然ながら見えにくいのだが、其れをいい事に二人はこっそり、しかし乍ら大胆に、バンカースというボードゲームをやり出した。
他のクラスメイトの様に流行の小さな電子ゲームなどをやるのならまだしも。
最後部の亜弥の机の上には赤や青・緑・黄色の駒が並んでおり、久美が振り返ってはサイコロを転がすと亜弥がその駒を進めてあげ、次は亜弥が同じ様にしゲームを楽しんでいた。
片田は其れを知ってか知らずか、何時も乍ら手にした教科書で顔を隠す様にしながら極めて単調に読み進めている。
それであれば、二人が大人しくやっていれば気が付かれずに済んだのだが・・。
久美がサイコロを転がし亜弥が進めた時、ゲームルール上最悪のスポットに駒が止まってしまった。
二人は同時に。
「あ~あ、やっちゃった!」
思わず大きな声を。
片田は静けさを破る様な騒動に気が付き、視線を二人に合わせ。
「な・・なんだ、其の赤や黄色や・・」
と仮面顔に。
普通の教師ならつかつかと近付いて来、目玉を大きくしたままゲームを取り上げるだろうが、其処は生真面目な彼の事?
温厚なのか何なのか、其れはしなかったのだが。クラスメートの間にはざわめきと笑顔が広まった。
また体育の井口教師の実技試験の折、生徒達は順番に二列で整列し逆上がりのチェックを受けていた。
難なくこなす者も多いが、校庭では最も高い鉄棒故。
中には最初から無理だとの諦め顔で、鉄棒にアシストを擁しぶる下がったものの、すぐにギブアップをする者も。
ほとんどの者はその何方か。
亜弥と久美は顔を見合わせると、
「頑張ろうね!」
と気合を入れる。
偶々二つの並んでいる鉄棒に同時にチャレンジする事になった久美と亜弥。
アシストにOKと目くばせをしたから、井口も生徒たちも、
「お~」
と感心。
鉄棒に順手で飛びついた二人。余裕の表情で調子を窺うように軽く身体を振る。
ところが井口に向かい、
「逆手に変えます」
と宣言をしたから、此れは一体どんな・・美技が?
と一同の注目を浴びる。
何回か二つの振り子の様に身体を動かした後、澄まし顔が揃って鉄棒から手を離すと・・前の砂場に両手を水平に拡げウルトラC並みに着地。
井口はいい加減・・呆れを通り越し高笑いを。
生徒たちも雪崩の様に横に習えでずっこけながら笑みを浮かべた。
そんな事もあって、二人は其の特異な存在感を教師・生徒達に示し、暗黙のうちに・・いや・・兎も角、何らかの認知をされ。
やがて二人も三年となり、卒業を意識し始めた。
或る日の昼休み、久美が亜弥に、
「クラスではcoupleもちらほら見られるけれど私達は縁が無いのかもね?まあ、ナイスガイがいないから。ところで秋の体育祭がもうすぐだけれど、其れが終わったら期末試験、その後は卒業と早いわね?」
と、亜弥も頷きながら。
「本当に早いものだね。私達成績は同じくらいだし、卒業したら就職はどうなるのかな?」
二人共、その先の事を考える時期を迎えていた。
借り物競争のスタートが近付いてくる頃には、父兄等に混じり近くの男子校である川戸高校の生徒達が見物に来ていた。
借り物競争とは、スタートしてから途中にあるコーナーに置いてあるカードを拾い、そのカードに書いてある事柄を満たしてから如何に早くゴールインするかというもの。
カードに明記してある器具などの物体を見つけて手に入れてから。
或いは事柄の記載してある条件にあった人物を捜してから共にゴールインという事になる競争。
生徒も教師も此の種目に付いては、係を除き一休みしながら見学する事になる。
スタートの号砲で飛び出した人々が、銘々カードを拾い文面を理解し、其の通りに目的を果たしてゴールを目指し始めた。
中にはカードに「校長」などと書いてあれば、本部のテント内に座っている校長の手を取り、二人並んでゴールインなどという事もある。 運動場は赤白各組の点数争いとは、また装いも異なる明るい雰囲気で包まれる。
何組目かのスタートで飛び出した走者と共に父兄などの顔も窺える。
走者はカードを手にすると辺りを窺う。或る走者は走りながらトラックを取り巻いている人々を物色し始める。
と、目指す相手を探し出した。
亜弥も走者であるからトラックの周囲の人々を見ている。
彼女は素早く男性に駆け寄ると声を掛け、一緒に手を繋いで走る。
順位は二着だったので、体育祭の係の生徒が順位番号の旗を持っている場所に列を作ってしゃがむ。
どの列にも目的を成し遂げたという安堵感と、笑顔に包まれた走者が座っている。
亜弥もその一人なのだが、連れだった男性の顔を見、カードに書かれた文面をもう一度確認してみた。
「好きな男性」
好きかどうかを考えている時間は無かったのだが、慌てて探したのは、川戸高校の男子生徒だった。
男子生徒は最初は照れ笑いを浮かべていたが、亜弥の笑顔を見ながらカードを見せて?と。「好きな男性」
と書かれてあるのを見た男子生徒は、今度は亜弥と話をし始める。
周りを見回せば、探している時間が無かったからと中年の婦人を連れて来た者もいる。
亜弥も男子生徒を選んだのは時間が無かったから取り敢えず選んだのだが。
男子生徒は自ら名を名乗った。
「神田充って言うんだ。突然で驚いたけれど、女性に選んで貰えるとは思ってもみなかった」
と亜弥に微笑みかける。
亜弥は自分が選んだのは単なるハプニングだとも思うのだが、二人で少し話し始めた時には、正解だったと思うまでに其れ程時間が掛からなかったとも。
其処は若いもの同士だからとすぐに打ち解けたのだが、競技として巡り合ったというだけでは無い様な気もしだした。
競争も終わり次の種目が始まっている間、クラスの席に座っている亜弥の背後の人垣の中に充の顔が見えた。
当然、久美も隣に座っている。久美は亜弥の様子を見ていたのだが、カードに書かれていた内容に付き、
「何かあったの?」
と亜弥に聞く。
其の質問に単純に答えるだけでも構わなかったのだが、亜弥は少し充の事をどんなふうに感じたのかと自問自答をする。
「好きな男性」
という意味は、案外実際に好きかどうかではなくとも、満更でも無いという気持ちに通じていた様な気がした。
亜弥は照れたようにカードの文面の事を話してから、何か久美に申し訳ない様な感じがしたのはどういう訳だろうと思った。
最後は快速選抜選手によるリレーだ。亜弥も久美も足は速い方だったからリレー走者として、次々にトラックを走りバトンを渡した。
亜弥が走り抜けて充の前を通った時に充が大きな声で、
「亜弥ちゃん」
と声援をしたのを聞いてから初めて自分があの時名を名乗っていたんだと気が付いた。
亜弥と久美は何から何まで似ているといっても良いくらい・・ばかりでなく類まれな親友。 久美は亜弥を声援した学生の姿を追っていた。
亜弥は亜弥で再び声援という形を伴い自らに接近してきた学生の事が何となく気になった。 と同時に、久美の目を気にしている自らにも聊か面倒な気がする。
久美は笑みを浮かべている。
おかしな事に、久美は微笑んでいるのだが、何かいつもと違う久美の様な気がした。
体育祭も終わり暫くしてからの事。
充から亜弥のスマフォにメールが届いた。
あの時、亜弥は充にスマフォの番号まで教えていた事に気が付く。
「良かったら、会わない?」
其の時、亜弥と久美は一緒に下校途中だったから、亜弥は久美に其の事を話した。
久美は相変わらず明るい顔で、
「良かったね」
と亜弥の目を見た。
亜弥は今まで久美と話をする事が殆どで、久美の事は親友以上だという認識をしていたから、久美とは今迄通り仲良くやっていけるだろうと思っただけ。
二人が其々の家の方に別れてから、亜弥は歩きながら、
「其れなのに・・、此の人は私の事をどう・・?」
と、呟きながらメールの文面をなぞる様に確認した。
亜弥は取り敢えず、充の希望を受け入れて会う事にしたのだが、どうしても久美の顔が浮かんで消えない事が気になった。
充と会った。
二人で彼方此方遊びまわり、亜弥は気が付いたら自分が何か今迄と変わっていきそうな気がした。
そして、二人が別れる時には次の約束もした。
其の日が来た。
久美と一緒で無いのが何かおかしな気がした。
同時に・・亜弥は久美も自分と同じ様になったらいいのにと思った。
久美とは相変わらず登下校を一緒にしていたが、次第に休みの日に二人で遊ぶ事が無くなっていった。
その代わり久美からのメールは以前にも増して頻度が増えていく。
其れに充からのメールは毎日。
充と亜弥は既に何等かの感情で繋がれていっている。
期末試験が終わった頃だった。下校途中、久美が亜弥に、
「話があるんだけれど・・、」
と何かを話そうとしてあとの言葉が出て来ない様な・・何か深刻に考えている様な素振りが窺えたのだが、亜弥は一体何だったのだろうと思ったりもした。
亜弥と充の繋がりは・・何か切れないという様な気がする。
ところが、気になる事があった。
充からのメールの回数が極端に減った。其れに連れ、二人が約束をして会う事も次第に減っていった。
卒業が次第に近付いて来た。
亜弥が充にメールを送っても返信が来なくなった。
亜弥は充に何かあったのかと思う一方、それにしても自分にメールを送って来ない訳を知りたいと思った。
久美はと言えば、亜弥と学校では会うのだが休みの日などに会う事は無くなっている。
久美も卒業を控えて忙しいのかなと考えていたところに久美からメールがきた。
「御免・・」
その言葉の意味が最初は分からなかった。一方、充には何度もメールを送ったのだが、返信が無い。
亜弥は次第に事の次第が分かってきた様な気がした。
充は自分から離れたがっている。
しかもその理由は、自分以外に誰か好きな人ができたのではと。
久美にもメールを送ったのだが返信が来ない。
学校は卒業前で登校しなくても良い期間に入っていた。
久美と会えない事も淋しいと思ったのだが、「ひょっとして・・、充の・・は・・久美?」 などと考える様になった自分はみすぼらしいと思う。
だが、二人共メールを送ってこないのは、ひょっとしたらそうなのかも知れない、と亜弥は考えた。
もうこれ以上、二人にメールを送っても無駄かな?そんな気がした。
亜弥は思い切って最後のメールを送る事にした。
「あなたの好きな人は・・私の好きな・・」
返信が来ない事は分かっていた。
其れでも仕方がないと思った。
相手が久美であるのだったら、残酷ではあるけれど、私は二人共好きだったのだから。
「さようなら」
のメールを見慣れたアドレスの二人に送った。
思いもかけない事があった。
久美からメールが届いている。
亜弥は一体どういうことなのか分からなかった。
只、少なくともスマフォには紛れも無く「久美」の二文字が。
卒業式の日が来た。
亜弥は朝何時もより早めに家を出、何時も久美と落ち合う場所で久美を待っていた。
手を振って走って来るのは久美。
亜弥は何事も無かったかのような久美の顔に目を遣り、何も聞かない事にしようと思った。「だって、二人は好みは同じだし、考える事も同じだから」
と。
卒業式の時も、隣にいるお互いを確かめる様に笑顔を重ねた。
校長の横には教師の顔が並んでいる。
もう、教えて貰える事は無いが、想い出は尽きない。
二人は卒業証書を持ち、学校の門を出並んで歩いて行く。
亜弥が何かを言おうとするのを久美が制するように。
「二人で同じ事を言う必要はないでしょ?だって、私達って何でも一緒なんだから。
其れは・・何時までもって事・・ね?」
亜弥が卒業式の荷物を持っている久美の片手を握ると、久美は荷物をもう片方の手に移してから、陽気が良くなったせいなのか・・暖かい手で・・強く握り返して来た・・。
まだあどけなさが残っている様な二人を見て見ない振りをしていた春の陽だが。
つい堪えきれずに思い切り笑顔をつくると、輝きを一層増していく・・。
日向ぼっこをしていた春風が・・そよそよと吹き抜けていった・・。
(此れ、実を言うとかなり以前に即興で書いたものでまだ、母の存命中に、地方で毎日施設・病院に通いながら書いた。で、当時、RentalCDで新しい物の中に、同窓後輩でもあり、素晴らしいシンガーソングライターである、竹内まりやの新譜を聴いてimageを浮かばせたもの。其のアルバムには、彼女の何時もながらのドラマチックな曲・・例えば、「夜景」、当時TVでやっていたドラマのテーマソング「深秋」等の他に、タレントたちにpresentした曲も収録されていて松田聖子には「声だけ聞かせて」薬師丸ひろ子には「終楽章」など、私は知らないが松浦亜弥というタレントがプレゼントされた曲の様です。「subject さよなら」
まりやの曲は火曜サスペンスなどにも使われる様に本物の良い曲が多過ぎる程。
ドラマの内容に寄りガラッとメロディーを変えて書く。曲数と良い物の確率などはbeatles以上ではないかな?
女性でよく創れると思うが、やはり感性が研ぎ澄まされている事に付きるでしょう。
ご主人の山下達郎氏のArrangeがなされているものも有ったり、演奏もあったりと、中々、夫婦で素晴らしいミュージシャンと言える。
曲からドラマが窺えるという作曲家には、例えば、故平尾昌晃氏も同様の、特に時代物のテーマなどは思い付きで創るんだと思うくらい、上手いです。彼は若い頃ロカビリーで活躍したのだが、作曲家の才能があった事と、ロカビリーとは似ても似つかない、歌謡曲・時代もの等のメロディックな作品には感心をします。
火曜サスペンスなら、少し怖い筋書きでも良いのだが、ちょっと此の曲には彼女の作詞をそっくり筋書きにすると深刻なものに成る事を嫌って、簡単なものにしたという事です。小生の書き物には時間も三時間程度しかかけられないので仕方がない。
著作権の関係でguardされているので、興味がある方はYouTubeで検索してみてください。
最近はUSAの企業は相次ぐ解雇等で、Intel・Microsoft・Google・Amazon・FaceBook・Dell・Disneyその他多くの企業。Googleも人員整理で、私も演奏をアップロードしたいのだが、出来ない実情。
増してや、他人の曲や演奏は明らかに著作権に抵触するのでYouTubeで聴くしかない。)
さようなら
数年前に書いたもので。