不文律
二十五グラムの、愛と。歌。血液のあたたかさ。
あれは夜の終わりのできごと。やさしかったにんげんたちのなかで、なにかがこわれて、指の爪を剥がされたみたいな痛みをこらえながら。まるで暴徒。割れたガラスが、ダイヤモンドダストのように舞い上がり、星に存在するやわらかいものを傷つける。(嗤ってる)春の影が濃くなって、呼吸ひとつで軽やかになる頃の、ドーナッツ屋さんのテーブル席で展開する知らない誰かの恋。黒い鉄格子の向こうから、雑音に気が狂いそうになっている誰かの祈り。まじわることはなく、からまることもない。
生命の営みを疎かにしはじめている。ノア。
桜が咲いたら逢いにくるねと言った。きみ。
スローモーションで砕け散ってゆく。
ひとつの季節。
不文律