不文律

 二十五グラムの、愛と。歌。血液のあたたかさ。
 あれは夜の終わりのできごと。やさしかったにんげんたちのなかで、なにかがこわれて、指の爪を剥がされたみたいな痛みをこらえながら。まるで暴徒。割れたガラスが、ダイヤモンドダストのように舞い上がり、星に存在するやわらかいものを傷つける。(嗤ってる)春の影が濃くなって、呼吸ひとつで軽やかになる頃の、ドーナッツ屋さんのテーブル席で展開する知らない誰かの恋。黒い鉄格子の向こうから、雑音に気が狂いそうになっている誰かの祈り。まじわることはなく、からまることもない。
 生命の営みを疎かにしはじめている。ノア。
 桜が咲いたら逢いにくるねと言った。きみ。
 スローモーションで砕け散ってゆく。
 ひとつの季節。

不文律

不文律

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2023-03-01

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