『プールサイド』について

今現在何処にやったか覚えてないけども、何度も読んだんですあの本

父は七十四歳で死んだ。去年の十月に死んだ。その父の葬儀の為に帰省している時に、六代目 三遊亭円楽師匠が七十二歳でお亡くなりになったというニュースがヤフーとかで流れてきた。父が死んでから、一週間くらい経ったら今度はアントニオ猪木さんが七十九歳でお亡くなりになったというニュースが同じくヤフーとかで流れた。
それを受けて私は、
「人間って大体七十台で死ぬんだな」
と思った。んで更に、そう思ったことで、更に、村上春樹さんのプールサイドっていう話を思い出すに至った。
今更、ここで、そのプールサイドについて詳しく説明しようとは思わない。興味のある人はグーグルか何かの検索バーに、プールサイド 村上春樹 とでも入れたらいい。それについて色々と出てくるだろう。
で、そのプールサイドには三十五歳が自分の折り返し地点だと言う人が出てくる。だから七十で終わるというような考えを持ってる人の話。多分。最近読み返してないし、今現在どこにやったか覚えてないから、確認してないんだけども。
で、その人は、その話の中で、七十を過ぎてもまだ生きれるのであれば、後はありがたく生きたらいい。みたいな事を言っていたと思う。
「父は四年、ありがたく生きたのかなあ」
その事を思い出して、私はそう思った。
父にとって最後の四年間はありがたく生きた四年間だったのかなあ。って。最後の一年はでもまあ、もうほとんど入院していたし、終末病院に入ってからは意識も無かったみたいだから、まあ、三年かな。
私が歩く父を最後に見たのは、お正月。お正月の帰省の時。父はガリガリに痩せており、立って歩くのも辛そうだった。何も食べなくなっていたし、ほとんど寝たきりみたいになっていた。でも、お正月の恒例として一緒に箱根駅伝を観た。創価大学がゴール直前で抜かれてしまった年のやつ。父はテレビの画面をほとんど見てなくて、俯いてばかりいた。その後になってわかったんだけど、父の大腸だか小腸に癌があった。で、病院でそれを切除した。だから、その時だって絶対にしんどかったはずだし、体に異変が起きてるのは知っていたと思う。入院した時なんて足がむくんでいて靴が履けなかったらしい。でも、父は生まれてこの方病院なんかに行ったことが無い人だったので、それを言わなかった。母が泣いて頼み込んでようやく病院に行ったんだという。そして癌が見つかった。それから一年と経たずに父の意識が無くなり、終末病院に転院して、そこで死んだ。
そう言えば、最後の三年間の父の口癖は、
「うまく老いさらばえてきただろう」
だったなあ。
七十を超えた頃から、父の髪の毛は抜け出して、歯も抜け出した。髪はともかく歯医者に行きなよ。と私が言うと、
「いいんだ。うまく老いさらばえてきただろう」
と父は言った。今思うと、もしかしたら父の言う通り、父はうまく老いさらばえてうまく死んだのかもしれない。ガリガリに痩せて、癌が見つかって、入院して、終末病院に転院して、一年と経たずに死んだ。終末病院の副院長先生がある日、
「もうそろそろだと思いますので、最後に会わせたい人がいたら会わせてあげてください」
と母親に言った。私達は、私と姉はその連絡を受けて、帰省して見舞に行った。
意識のない口開けっ放しで、目は上の方を向いている父を見舞った。
その帰省から関東圏に戻って、その日の晩、日付が変わった時、父が死んだと連絡が入った。だからまた帰省して、葬儀なんかをした。
少なからず、昨今、介護疲れ等による心中とかそういうのをニュースで見る。そういう事も無く父は死んだ。ダメになって一年、母親からしたらもうちょっと長かったかもしれないけども、でも、長くても二年くらいじゃないかなあ。父はダメになってからそれくらいですぐ死んだ。すぐに死んでくれて助かったと思う。多分。家族の誰もそういう心中のニュースとかの当事者になる事も無かったし。
で、そういうことを考えると、無性にその『プールサイド』が読みたくなるんだ。また読みたくなるんだ。何処にやったかなあ。
『プールサイド』は『回転木馬のデッド・ヒート』という本の中に収録されている。もっと若かった頃に読んだ時は、プールサイドはどちらかと言うと、私の中では不倫している人の話だった。『レーダーホーゼン』やら、『今は亡き王女のための』の方が、面白かった。
でも、今はどうだろうか。
今読んだらどう感じるだろう。
何処にやったかなあ。読みたいなあ。
私ももう折り返し地点は超えている。
とっくに超えている。
父みたいにダメになったらすぐに死ねたらいいなとなんとなく思っている。

『プールサイド』について

『プールサイド』について

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2023-03-01

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