黒鍵

 なまなましい。夜。写真集にはさまれた栞。ページをひらいて。深くて濃い、青の色。

(わすれたの?)

 なにを?
 きっと、なにかを。
 忘れ去りたい記憶の断片が、ちいさな棘のように、指の腹に刺さって抜けない。真夜中にアイスクリームを食べる背徳感と似たものに支配されて、だれかのことを憎んで。しらないうちに壊れてゆくのが、にんげんのこころだと、人工的に生み出されたエヌが憐れんでいる。つめたい絵画。美術館で眠るあいだにみる永遠の、夢の淵で、きみと揺蕩う。

 ラジオから。
 いつも、やさしい歌が流れてくるとは限らないのに。

黒鍵

黒鍵

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2023-02-27

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