黒鍵
なまなましい。夜。写真集にはさまれた栞。ページをひらいて。深くて濃い、青の色。
(わすれたの?)
なにを?
きっと、なにかを。
忘れ去りたい記憶の断片が、ちいさな棘のように、指の腹に刺さって抜けない。真夜中にアイスクリームを食べる背徳感と似たものに支配されて、だれかのことを憎んで。しらないうちに壊れてゆくのが、にんげんのこころだと、人工的に生み出されたエヌが憐れんでいる。つめたい絵画。美術館で眠るあいだにみる永遠の、夢の淵で、きみと揺蕩う。
ラジオから。
いつも、やさしい歌が流れてくるとは限らないのに。
黒鍵