Pasando 邦題 すれ違い
部下のおかしな事から。
社内の飲み会の席で隣になった佐藤和夫が。
「好きな女性がいるのですが、なかなか声を掛けられなくて・・」
というような事を話しだした。
「ある女性にメールを送ってみようと思うのですが、文面はいきなり『交際して貰えませんか?』としたらどうでしょうか?」
と。
「うん、其れもいいけれど若者同士なんだから
『・・に遊びに行かない?』でもいいんじゃないの?」
と。
佐田啓二の、佐藤と同年代の頃は、誰であろうと気軽に声を掛けていた事を思い出し、随分、奥ゆかしいんだなと思うが。
あまり構えすぎると、女性によっては、不自然なセンスで詰まらないと思うか、堅苦しく思い腰を引いてしまう事もあるような気がする。
「声を掛けた方が早いと思うけれどね?」
と提案してみたら、社内でも人気のある女性だし、誘って断られた者も少なくないようだから・・などいろいろ考えた末の事らしい。
どんな女性なの?と尋ねたら、六階の業務課の須藤美智子だという。
和夫は三階の審査課長である啓二の課員だ。
其の須藤という女性の上司である六階の課長は、啓二と同窓の杉山だから社内で会った時などによく話をする事がある。
其の日は社員食堂で杉山と顔を合わせたから、テーブルに並んで座り其の女性の話を。
杉山は其の女性を探す様に食堂内を見廻してから。
「今はいないようだが多分外に食事に行っているんじゃないかな?美人との評判だけれど、案外声を掛ける社員は少ないようじゃないのかな?」
との事で、女性が鼻が高いのかそれとも男性の好みが激しいのかよく分からないと笑う。
翌日、六階に行く用事があった時に、杉山のデスクに顔を出し。
「どの女性なの?・・ああ、あの女性かな?」 と思う。
確かに色は白いし健康的な澄まし顔は美人を絵に描いたようだ。
杉山に書類を渡しながら、啓二が女性に目を遣るのを見た杉山が頷く。
間違いはないようだ。
自分のデスクに戻る途中、和夫の後ろを通る時に振り向いた和夫の目に笑顔で。
「了解」
と一言。
暫くしてから、トイレで和夫に会う。
「やはり、メール送りました。何か落ち着かない気がして?」
素直な性格だから・・上手くいくと言いなと思う。
其れから暫くし、啓二が和夫と帰りが一緒になった。
「・・まだ、返事は貰ってないんで?」
二人肩を並べ歩くと、地下鉄の改札の手前で別れた。
帰りの車内がラッシュで混んでいるのは毎度の事。
人に揉まれながらも気にもせずヘッドフォーンで音楽を聴く。
以前はイアフォーンだったのだが、彼方此方から音漏れがするという苦情が出るのでそんな事になった。
恰好などどうでも良いと思う方ではあるが、服装が若向き思考なのか年寄り臭いのかまでは分からない。
グレー系統のスーツが一番何にでも合わせやすいが、紺や薄茶なども持っている。
シャツは白が多いがスーツがグレーで無ければ薄グレー数%だけシルクでアルファベット文字が幾つか入っている。
カフスや時計はデパートでブランドでもデザインさえ気に入れば手頃なものを購入する。
眼鏡もbrandだが案外高いなと思う。一度、何処かの子供に、
「叔父さんウルトラマンみたい」
と言われた事があるが鼻の上のいぶし金のブリッジが二本になっていて上のブリッジがその様に見えるのだろう。
啓二はお洒落では無いと思うのだが、自分の気に入ったものを直感で見つけると、案外簡単に購入する方だ。
以前、社のお局さん・女性から、佐田さんがつけている物はみな高そうに見える、と言われた事がある。
だが、実際高くは無いし、その女性は社長と関係があるという噂の女性。
社長が金持ちで身成にも金をかけているだろうから?どういう意味かなと思った事があった。
若い頃はサングラスが好きで友人のハワイの土産のレーバンなどをかけていた。
学生時代は夜でもサングラスが好きで、一度Discoに一緒に行った学友の京都の女子高校生の従妹から原田芳雄みたいと言われた。
が、決して二枚目では無かったから、何処が?と尋ねたらサングラスが・・と言われ納得した。
その娘と夜の公園でkissをした事があったが。
「酔っぱらっていてお酒臭いでしょう?御免ね?」
と言ったら。
「うちかてスケベやし・・」
と言われ、京都弁でスケベなど・・生々しいとびっくりした事もあったが遠い思い出だ。
自分は大体が顎が出ていない平凡な顔立ちだから、若い頃は顔がどうとかではなく、高学歴とやわな感じが抵抗感を感じさせず、人畜無害と思われたのかも知れない。
翌日、和夫とどうだったかと話す機会があったのだが、まだ結果は分からないとの事。
社では個人のものとは別に仕事用のスマフォが貸与されていたから、外出時には交代で其れを持ち出掛ける。
訪問先を廻っては歩いている時にスマフォが振動した。
社からだったが、よくある連絡だろうと思い、画面を見て考える。
画面に浮かんでいる文字は文章の終わりの発信主は「須藤」となっている。
社に電話をして課員に。
「誰かメールしたの?何の用かな?」
と尋ねる。
偶々電話をとった女性は。
「誰か・・した?」
と聞いていたようだが。
「いえ誰もしていない様です」
と言われ・・考える。
仕事中の電話などはろくな用件では無くてもよくある事だが、メールというのは聊かおかしいと思う。
途中の公園のベンチに座り。
「ひょっとすると・・あれ?」
社に戻ってから帰りに一緒になった和夫を飲みに誘った。
やはりそうだった。和夫が何日か前の昼休みに女性にメールを送ったようだが、如何にも大人しい彼らしく・・しかし、自分の名を表示させないで、イニシャルで送ったというのだから?
考えてみれ自分と和夫は二人共「K・S」。此れで送ったのでは誰なのか分かる訳が無い。
かといい今更だが。
「もう一度送ったら?」
と言ってはみたが、分かりましたと言った彼の性格からし、またもたつくのでは?と気になる。
翌日、和夫がまだ連絡する前だったようだが。啓二が、運悪くElevatorを使用せず階段を使い六階まで上がっていく途中・・女性が降りて来て足が止まる。
先日の須藤という女性。
「あの、少し考えたんですけれど、帰りにお話したいんでお時間どうでしょう?」
いや、其れには訳があるようらしく・・と話そうと思ったのだが、階段ホールに声が響きすぎている。
階段は上から下まで繋がっているし、運動の為にと階段を利用する社員も少なくは無い。
誰が聞いているか分からない?のは拙い。
実際、足音が。
「あら、お二人さん?お邪魔だったかしら?隅に置けないわね?」
最悪の、社長のお局さん。別名、歩くスピーカー。
しかも、社長に筒抜けになるに相違ない。
「いや、仕事ですよ」とか、思いつき、「杉山に」など言おうが、その手の女性はスキャンダルは大好物の傾向にある。
「冗談じゃ?近藤真彦じゃあるまいし?」。
そう思わず呟いたのは、ニュースで見たばかり。
其のまま階段を上がるが、彼女も後ろに付いて上がりだす。
そうすると、女性がいる経理は社長室の一階下の七階にある。再び。
「ほんと、仲が良いのね。ふっ」
六階のFloorで、杉山の顔を見た時、あら?何を言うんだったか。
「俺は植物人間・・あれ?」
杉山が笑っている。
「何?植物人間になったって?」
今、流行(はやり)の言葉が・・肉食恐竜じゃなくて・・出て来ない。
まあ、いいや。
杉山に仕事の件を話した後、改めて須藤女史の姿を見てから、杉山を通路の向こうの衝立(ついたて)の陰迄誘い小声で。
「あの女性・・男性で誰か・・?」
杉山の話では、美人だからといいチャレンジしようという者は案外いなさそうだが・・と言うから。
其れは無いだろうと話すと、杉山。
「俺に言われてもな?若い者同士の事だから?まさか、気があるとか?」
とんでもない方向に行く事だけは避けられ、事情を説明をする。
杉山は了解だが。
結局、其の晩のScheduleは其の件だけだったから、和夫を誘おうと思ったのだが。
和夫の事では?と、やはり、気乗りしない。
腹を決めた途端、昔のいろいろな事を思い出した。
どうせ女性の話を聞くんなら、眺めの良いところにでも連れて行ってあげようかと思った。
新宿の高層ホテルのレストランに連絡し、窓際の席を予約した。
50階は会社とは雰囲気が違う。薄暗い中でもシャンデリアは煌めき、大きな窓の外は街の灯りが色取り取り。
まあ、いつ来ても落ち着くなどと思う。
少なくとも社員達がいないのだから何でも言える。
先ずはladyfirstだから。
「何か話があるんだったね?」
美智子はテーブルに並んだ食事にはあまり手を触れようとしない。
其れでカクテルでも頼んだらと話すと、彼女は好きなものを選び、口をつける。
見れば見る程綺麗で、今の若者なら何人でも声を掛けそうなものだが?
年齢が一回り以上も違う美人の生態は果たしてどうなんだろう?など思う。
美智子が手にグラスを持っている間いろいろ考えていると。
「あのメールの事なんですけれど?」
さて、何ていうのかな。断るのにも性格によって違う事があるなんて事は無いと思う。
其れなら、どうして此処まで着いて来たのだろうとも思う。
「イニシャルで送って来るなんて・・普通無いと思うんです?」
其れは当然だと思う。増してや今の若者で・・あり得ないだろう。
其れをやってしまうんだから、送られた方は普通なら少しくらい腹が立ち放っておくか、あるいはハッキリ断るかだろう?
啓二はメールがどうのでは無く、イニシャルでという事が気に食わなかったんだろうと思う。
「偶然同じイニシャルでも、すぐ分かりますよね?あれ、佐藤さんでしょ?スマフォの番号から、持主は部署の誰かだって?」
美智子の話をじっくり聞いてみる事にも責任はあるのかも知れない。
ただ、美智子の事を詳しく知らなかったのは自分位で、皆知っているのだから、自分も間が抜けているのか?
しかし、他部署の部下の事など知りようも無いような気もするが・・。
美智子はようやく料理に手を付け始めたからホッとする。
メールの事を話したから、少しは気分がほぐれて来たのかも。
「君、失礼だけれど、専ら美人だと皆はそう思っているんじゃないかな?そんな一人が間違って?でも、そんな事も人気があるって事なら・・?」
そんな事は改めて言うまでもなく、本人はよく分かっているのだろう。
本当は、自分はあまりに若過ぎて関心はもてない年齢だが、美人が一体どのような男性と交際しているのかなど聞いても見たかったが、其れこそ、セクハラ・個人情報の開示の請求。
其の裏返しのような質問が彼女から。
「佐田さんは、確か・・独身ですよね?」
「ああ、まあ、この年まで縁が無かったという事かな?何も無いという事じゃ無くて・・いろいろ事情があって・・薄気味悪いと思われるのかも知れないが・・。『君の名は』っていう映画知っているかな?ああ、アニメでもあったけれど、随分昔のラジオドラマで、当時は『番組が始まる時間になると、銭湯の女湯から人が消える』といわれるほど人気があったようでね、其れが映画になってまたヒットしたんだが、筋書きが、見ている女性達としては、二人が、ああ、其れがメールと同じ様に男女の男性の役者は偶々僕と同じ名の二枚目で、女性は岸恵子と言ったんだが、二人が演ずるところの再会が、数寄屋橋で会える、と思うと、すれ違いで会えない。また会えるか、と思うとすれ違いという、此れではらはら、ドキドキ、がっくり、が繰り返されたんだ。全三部六時間・観客延べ動員数は三千万人。で此れは単なるお話で、現実にはあり得ないのかも知れないが、案外、縁というものはそんなものかも知れない。ラジオの冒頭で『忘却とは忘れ去ることなり。忘れ得ずして忘却を誓う心の悲しさよ』なんていうナレーションも有名だった。
で、何を言いたかったかは・・?あれ、忘れてしまったけれど・・」
美智子は今のところ特定の誰かと交際している様では無さそうだが、すぐに相手が出来る事だろう。
翌日、和夫には二人が会った事は言わなかった。時間が解決してくれるだろうと思うが、二人の調整迄など所詮出来ないから。
昨晩の美智子の口から佐藤の名が出たという事も何れ話そうと思うが、其れより早く二人は繋がるのかも知れないし、そうでなく別の男性となのかは佐藤の運次第だろう。
啓二も理想は未だに捨ててはいない。が、年齢的な条件を除けば、彼女の様な美人と話が出来た事は楽しかった。
ちょっとしたイニシャルのすれ違い事件という事だ。
「あ?足音は・・?まさか?」
「・・別に、部下の責任を取って貰いたいと言う意味では無いんです・・何時でもいいんですが・・高層ホテル・・レストランの料理は美味しいし・・眺めは美しい・・でもあの時は10万円でしたかしら?誰かさんの様なお金持ちで無ければ・・?如何かしら・・?」
怪しい美女の笑みは・・今度は50階の窓から突き落とそうとでも思ったのかも知れない?
其処で。
「・・ああ、早い方がいいんじゃないかな?どうせ、私も独り身・・所詮誰に気を使うのでも無し・・どうされたにしても・・本望というもの・・」
そう言いながら、伏し目がちに美智子の瞳に視線を移すが・・。
「・・面白い方・・本当に殺してしまっても宜しいのですね・・?」
彼女の目が輝き・・不敵な笑いを・・。
やはり、魔女である事に・・間違いは・・無さそう・・。
くれぐれも・・イニシャルで送信・・などあり得ないが怒らせてしまえば・・絶対に・・やめた方が・・もう遅い・・?
「by europe123 piano boralent E,pia retardver'」
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Pasando 邦題 すれ違い
おかしな事が・・追加・・。