されどこの世は。
死ぬために生き往くこの、セカイ。
わたしの眼に留まるモノは何一つとしてなくて、世界はモノクロ。
耳を塞いで、眼を閉じて、世界からシャットダウン。
それでも覆いかぶさって来るのは、灰色の雨。
目に魅えるものが凡てではないこの世界。
「今日も可愛いね」
本当に?嬉しい、ありがとう。歌うように言葉を吐く。
「好きだよ、愛してるよ。」
わたしも大好き、愛してるよ、囁くように嘘を告げる。
「気持ちいいよ。」
わたしもとても気持ちいいよ、蕩けるように嘯く。
この世は嘘の塊で、いくらだって夢を魅せることが出来てしまう。
嘘の言葉なら呼吸をするよりも簡単に紡ぐことが出来る。
そうして、毎週末。わたしは好きでもない男に抱かれては、心も体も穢れていく。
洗っても洗っても、落ちない。
一度でもこの場所に足を踏み入れてしまえば、この身体が燃え尽きて灰になるまで、綺麗になんてならない。
例え、灰になったとしても、わたしの心は元には戻らない。
理解ってる。理解っていて、この世界に足を踏み入れた。
その道しか、わたしには無かったから。
けれど、誰が望んでここに居るのかと聞かれたら
きっと誰も望んでいなくて、わたしも望んでなんかいなくて
知りたくもなかったぬくもりで、知りたくもなかった体温で。
こうなることが運命だったとしたなら、受け入れるしか方法はなかったってだけのこと。
理解っているの。足掻いたって無駄なんだってことくらい。
それでも繋がりを断ち切れずにいるのは
君のことを「忘れた」日がないのはわたしが弱いからか
とめどなく流れるあの日の思い出たちに恋い焦がれているからか。
今となっては本当のことなど分からなくて、本音を言えば、判りたくないのかもしれない。
わたしの生きている今の世界が「夢」だったら良かったのに、と
何度想ったことだろう。何度、願ったことだろう。
叶いもしない夢うつつに、何度。殺されてきたのだろうか。
そうして、わたしは筆を執ることに決めた。
この物語が書き終わったときの覚悟を胸に、わたしは未だ「明日」を生きていく。
されどこの世は。