文学の味
ぼくは言葉の美食家であるからして、文学を舐めつくすのが趣味さ、
それ味覚刺す快楽。これよりぼく ボオドレールの美術論的詩編を倣い、
わが偏愛せし 文学者各々の味わいをコースで披歴しよう。どうぞ座って。
芸術は美味──されどくれぐれも文学の毒を警戒せよ、ナフキンを渡すよ。
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太宰治は甘ったるい、まるでカフェオレ砂糖三つ、少女に多い注文だ、
苦みの大人の味 喉へ流し込むは蕩けて甘美な放心へ放つ極上ミルク、
然し たとい子どもにしても美味なその味に気をつけろ、刺激を注意、
その妙に遍く美味のわけ──悪酒としてのブランデーが豊潤だろう?
三島由紀夫 嗚全くもって、端から口に容れられやせぬ、
されど舐めるよ、冷然硬質な日本刀の刃の蠱惑 唯舌陶然と撥ねるよう、
鼻先抜けて香気と曳くは 旧き独逸の鮮血に、加えて仏蘭西の香水さ、
金鏤める豪奢な盛付に切先燦るは唯我美装。それ或いは数寄者嗜好。
川端康成がぼく苦手、靄のような霞のような砂糖のような無いような、
かの泥棒詩人ジャン・ジュネが 天使を憎々しげに形容したように
観念・物質の区別のつかぬ、まるで口に容れるまえ綿飴と消ゆる、
曖昧な微妙繊細は高級料亭の域だけどれども、亦男独暮のそれの如し。
坂口安吾、ぼくごのみ。ちかと痛みで閃かすバアボンの喉ごしが好き、
まるで味は頗る不味い。されど自棄に浴びるが如く呑みつづければ、
やがて内奥からぞっと地獄と炎ゆるがような 劇薬の風味湧く、
然るに後味は日本風でね──和食家の創作仏料理は大蒜醤油が濃厚だ。
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コース終了。黒々と黎明する君のナフキンを返して。お持帰りは厳禁だ、
食は確かに生活のそれ 生き延びるのに必要不可欠、そうだけれども、
文学の毒味わった後、背骨に重装は佳、だが食後は奔っと運動と撥ねよう。
何故ってナフキンを御覧──悪徳の毒瓦斯犇いて、悪臭芬芬するだろう?
文学の味