bésame mucho 邦題 キスを・・。
社の噂では美女の男性選びとか。
社内で部員から飲みに付き合ってくれといわれた。北川恵美は部員の中で最も美しいとの評判が高い。
最初は、皆で行かないかと言ってみたのだが、あまり他人に聞かれたくないと言う。
他人に聞かれたくないとは、どういう意味なのか?自負なんだろうか?彼女にはミステリーのような噂も。
彼女が男性といるところを見掛けたという部員が何人かいる。
そりゃ彼女のような美人ならそうであってもおかしくは無いだろうと言ったのだが、或る部員がよせばよいのに二人が一緒にいる時の写真を撮った様で。
社内で他の部員に其れを見せたところ。
「あれ?違う男性だ・・」
と驚いたという。
其れをきっかけに、他の部員からも次々にその写真とは違う男性と彼女が一緒にいる場を見たという話が。
「別に何人の男性と一緒にいようと構わないじゃないの?誰だってそうだろう?僕だって皆と一緒に彼方此方行っているじゃないか?」
そう言ってはみたものの、其れと此れとでは?全く異なる状況であるのは重々承知の上。
彼女に個人的な事情があるとしても、少し心配にはなる。というのも、加賀洋二が新人の頃は兎に角若いというだけでモテた。
毎晩では無いが、とっかえひっかえ飲み相手を変えたり遊園地に行ったりと忙しかった。
何も起きないのが常だったが、札付きの男に運悪くホテルに誘われついて行ってしまったなどという女性のケースも稀だが無い事も無かった。
其れでも洋二は最短コースを突っ走り、三十代で役員に手が届く直前の部長職迄昇り詰めた。
様々な資格を取得していたのも、その原因の一つとなった様だ。
まさか?いくら何でも?と極端な事例を浮かべては、そんな事は無いだろうと打ち消す。
考えてみれば彼女は目の前にいるのだから、直接聞いてみれば良いのだが。
「私と雖(いえど)も選ぶ権利はあると思いますが、いろいろな方とお付き合いなどいけないでしょうか?」
此方が彼是(あれこれ)考えている間に、彼女の口を突いて出た言の葉、それにつき自問する。
「いま少し突き詰めて聞いてみたら?それにしても彼女?此方が考えている事が分かるなんて訳無いだろうが?」
彼女は何事も無かったかのように。
「・・いろいろな方とお付き合いしてみたのですが、やはり・・」
たったそれだけの言の葉が洋二の胸に響いてくるのだ。その意味があまりにも飛躍し過ぎた思い違いでなければと思う。
彼女・・辞めて結婚なのか?そうなればもう会えないな。ふと、そんな事が浮かぶ。
実は、洋二は一度離婚をしている。其の後、再婚について考えた事もあった。
一時は、再婚話を記者をやっている学友に話した事もあった。
友人は洋二に目を遣りパソコンを叩く。条件を幾つか入力。
友人はその場から離れていく自分を見つめている。其れも頷ける。
画面が選択した女性の画像は・・彼女にそっくり。
そうなった理由とは、謎を解くほど難しい事でもない。
毎日、目の前に彼女がいたから・・なのかも知れない。
離婚した理由は兎も角、其れとは関係が無く彼女の事を意識していた。
家に帰った後に彼女の事を思い出す事もあったのだが、初婚の身分でもあるまいし・・と、否定的な結論を出さざるを得なかった。
男女がどうなろうと少しもおかしくはない・・とは随分都合の良い言葉だと思いながらも一方で、場合に寄るだろうとの言い訳を思い付き、其れを再び打ち消す。
離婚した妻との間に子供はいなかったから、その点は良かったのだろう。
しかし、自分が妻に特別の不満があったかと言えば、否と言わざるを得ない。
が、突き詰めて考えれば、多少は他の女性を好きになったという事もあったのか。
その事だけで宜しく無い事とは言えないまでも、同じ様なものなのかも知れない。
しかし、離婚の話を持ち出したのは妻であったし、その表情からは洋二の意思がそうさせたんだから、せめて償いを、というようなものは一切窺えなかった。
少なくともどうしてなのか?何処に私と離婚する理由があったのか?そういう決まり文句が出て来るのかと思っていたのだが、其れも無かった。
妻が最後に。
「何年だったのかしら?二人?」
彼女の表情からは少しも涙など窺えなかった。少なくとも失意のどん底で無かった事だけは事実だ。
強いて言えば、妻にはかねてから懇意にしている男性がいた。
其れが、どの程度までの好意であり、ひょっとすれば愛情だったのかなどは全く分からない。
妻には纏まった金を渡し、此れで当座の資金にしてくれと言い残した。
妻は元々手に職をつけていたから、暫く探せば手頃な仕事は見つかるだろうとも思ったが、相手の懐事情までは分からない。
その後妻は結婚をした。
図った様にとは言わないまでも、随分手際が良いような気もしたが、其れも考え過ぎなのだろうとも。
若し、其れが妻の本心であり希望であったとしても其こまで自分が考え及ぶ事など、到底筋違いというもの、ただそう思っただけだ。
今思えば、其の事を考える必要もなく、それで全ては終わったのだ・・と。
妻の電話番号を暫く残しておいたが、結婚したと聞き及んだ時に削除をした。
今、彼女の言葉を反芻してみる。
一体、どういう意味なのか?だが、他人に聞かれたくないという事が単にそれだけの事だと言えば、其れで何の不思議もない。
個人的な事を他人に徒に吹聴するものはあまりいないだろう。だとすれば誰として?
洋二は彼女の為に何をすべきかを考える。
「其れは、君がどういうつもりで、そんな事を僕に聞いて貰いたくなったのかは分からないんだ。というのも。僕は単に君の上司だというだけで、君にとり良い提案を期待されても、期待に沿えない事になるだろう。
君は独身。しかもそれだけの美貌の持主だ。だからと言い、顔も広くない僕が介入できる余地は無いと思うのだが。
其れに僕は離婚経験者だ。言ってみれば、同じ部署という以外不似合いな立場である二人とも言えそうだ。
其れで単刀直入に聞いてみるが、僕に、誰か君に合った男性を紹介して貰いたいという意味だろうか?
其れなら其れで出来る限り知人等をあたり、謂わば、仲人的な事なら何とか努力してみる事は可能。そういう意味でいいかな?」
言うべき事は言った。
それくらいしか言えることは無い。
恵美は暫く沈黙した後。
「高野さん?何時か会社の飲み会でかなり飲んでいた時にこんな事を言った事覚えていらっしゃいます?」
いきなりそう言われ、酒の席で、つい、セクハラにあたる言葉でも言ってしまったのかと。
「いや、申し訳ない。幾ら酒の席とは言え部員である君にそんな事をするとは。今更だが、何と言って詫びたらよいのか?其れで、君は其の事を僕に言いたかったという訳か?」
今更何と言ったのかなど問題では無いだろう。
ところが、自分より冷静なのは恵美の方で、其の時の有様をしっかり覚えていたようだ。
「・・Te agradas.・・」
「覚えてはいらっしゃらないでしょうが、私は其れが御本心だと思い込んでしまったので」
「月が綺麗ですねでは無く?」(これは、若い頃から英語講師として勤め、33歳のときに文部省から英国留学を命じられたことで渡英し、勉学に励むものの、英文学研究への違和感から、神経衰弱に陥る。帰国後は、小泉八雲の後任として、東京帝国大学の英文科の講師となる。しかし、講義が不評だったこともあり、神経衰弱を再発し、その際に、俳人、小説家の高浜虚子から小説を書くことを勧められ、38歳で書いたのが、夏目漱石の代表作の一つ『吾輩は猫である』。夏目漱石が海外の小説を翻訳する際に「月が綺麗ですね」と訳した、というわけではなく、当時、英語教師をしていた夏目漱石が、「I love you」を「我君を愛す」と翻訳した教え子に対し、「日本人はそんなことは言わない。月が綺麗ですね、とでも訳しておけば足りる」と言った、というエピソードに由来する。)
恵美は外国為替担当者でもあり、各国の言葉を外国語学部で学んだ強者。
恵美はワイングラスに口をつけ赤い液体を飲み干すと。
「 Ámeme más.・・te quiero más 」
此れは何方も同じ様な意味で。
「もっと愛して・・」というような意味に近くなる。
此れが相手が恵美で無かったら、セクハラどころでは済まされないかも知れない。
瓢箪から駒とは正にこのような事を言うのかも知れない。
因みに洋二は或る有名な曲につき話し始める。
「コンスエロ・ベラスケスという女性はメキシコ人だけれどメキシコの歌を知っているかな?」(此れについては、1941年に発表され、サニー・スカイラー(英語版)による英語詞が付けられた。英語のタイトルについては「Kiss Me Much」や「Kiss Me a Lot」など複数存在する。
歌詞は、「もっとキスをして。今夜が2人にとって最後の夜だと思って。もっと近くにきて。明日になったら遠く離れてしまうから」という求愛の歌となっているが、作曲当時のベラスケスにはキスの経験がなかった。歌詞は、第二次大戦後に別居を余儀なくされたカップルの悲嘆と苦悩に触発されたもの。メロディは、作曲家のエンリケ・グラナドスが手がけた1916年のオペラ『ゴイェスカス』のアリア「嘆き、またはマハと夜鳴きうぐいす」がもとになっている。ビートルズ、ルイス・ミゲルダイアナ・クラールなど多数のアーティストによってカバーされており、最もカバーされたスペイン語の楽曲の1つとされている。)
と、其処まで言えば恵美が。
「Bésame, bésame mucho・・」
二人は此れからどうするかを考えた。
洋二としては心情的にこれ以上社にいる訳にはいかなくなった。
部員の連中には。
「海外に移住するから世話になったね」
という事で話をしておいた。
此の国にいた時の過去の事も全て忘れたいという気持ちも働いた。
社の退職の許可が下りてから、二人は取り敢えずシャルルde Gaulleに飛び立った。
機内ではC・C(此の国では以前はスチュワーデスだったが現在はC・A~キャビンアテンダント~として使っているのだが、各国の航空機ではキャビンクルーズの方が正しいと思った方が良い。)が通路にワゴンを転がしながら飲食類を運んで来る。
恵美はほぼbilingualだから、洋二は彼女に聞いてみた。
「ロシア語は?ああ、ではブルガリアなど東欧圏も大丈夫だね。北欧も西欧も心配ないが、Parisに住む事にしよう。ポケットから€~ユーロ紙幣と硬貨がある以外にFranceではさらに細かい硬貨が使用される。実際には金銭では不便で、タクシー・電車・バスともクレディットカードを使った方が早く、人の列に迷惑を掛けずに済む。~此の国でユーロを円に交換するには、羽田の様な飛行場が最も良く、街の銀行では紙幣しか交換できない。Parisでは街の至る所に両替所が見られる。~を出し。
「金は何とかなるだろう。無くなれば働けばいいさ。(
ところで、どうして僕なんかに興味を持ったんだい?幾らも男性はいるだろうに?君、本気で男性とデートをしたのかい?嘘?」~(europe union 27か国共通のlawyerの資格を取り、nativeの弁護士を数か国分とbilingualで同時通訳が可能な女性でも雇えば問題無く事務所で弁護士として活動できる。弁護士の資格は世界各国で異なり、USAやCanadaでは州ごとに試験があるが、場所によっては二つの州に跨って可能な州もある。最も難しいのは上記のeurope unionであり、27か国共通で働けるがかなりの語学力や知識が必要になり、此の国では洋二以外は存在しないのではと思える。移住には先ず不動産取得が条件で、欧州では3000から6000万程度が必要になり、其処から別途生活費その他が必要となるのは言うまでもない。)
恵美は笑いながら。
「Realmente me encantó desde antes ... desde el momento de mi esposa.」
洋二が分かるように。
「I really love you・・ since you had a wife 」
「もう妻は君だよ.僕は愛しているけれど」
飲食類を渡しながらC・Cが。
「I can't go back to the plane anymore ... Do you drink at Coke?」
(飛行機は戻れませんよ・・コークでも?)
de Gaulle二番stageには夜間に着いた。
二人の此れからは何が待っているのか?何とかなるような気がしたが。
洋二はスマフォを取り出すと連絡先を見る。
あった筈の元の妻の番号が無い事を確認し、何か淋しいような気もしたが、その後にしっかり恵美の番号が入っていることを確認した。
「Нет другого вернуться в эту страну снова ... не так ли?」(二度と戻れないがいいかい?Russia)
恵美にそういうと、恵美は笑いながら頷き。
「・・ okay if・・ together」
北半球の星空は変わらない。
最も二人が北欧にでも行けば・・綺麗なものが見れるだろうが・・。
(因みに、世界を跨ぎ活動するには、島国根性や西側諸国の様なスタンスでは足りず、東側諸国ともコンタクトを取るくらいで無ければ一流とは言えない。二国の争いについては世界の3割程度が、支持をしているUSAに従っているのみで、其れではworldwideなどとは言えない事になる。此の国は更にUSAに隷従した貧乏国と言える。)
「青い惑星の中でも拘りを持つような狭量人類では、宇宙空間の生命体ととても交信は出来ないと思わないかい?」
恵美は何も語らず、洋二の瞳を覗き込んでいた・・。
「離れればいくら親しくってもそれきりになる代わりに、一緒にいさえすれば、たとい敵同士でもどうにかこうにかなるものだ。つまりそれが人間なんだろう。夏目漱石」
「運命は偶然よりも必然である。運命は性格の中にあるという言葉は決して等閑に生まれたものではない。人生は一箱のマッチに似ている。重大に扱うのはばかばかしい。重大に扱わねば危険である。芥川龍之介」
「読んだだけ、聞いただけがただ残っていくという意味の物知りがいる。これは知恵というものにはならない。更にそこから生まれるもののなき博学はくだらない。知識のコレクションに過ぎない。志賀直哉」
「by europe123 original 」
https://youtu.be/WOd05LXYI2g
bésame mucho 邦題 キスを・・。
その実、二人は互いに行為を持っていたようである。