BRAND BLOOD!

※多少グロテスクな表現を含みます
ご注意ください

プロローグ

廃墟が立ち並ぶ、ゴーストタウンとも見紛う町
《奴隷の庭園》(ガーデン・オブ・スレイヴ)
今では 専らレジスタンスの寝床である
いつ崩れてもおかしくないような建物に紛れ 曇天に伸びる、鉄骨に囲まれたビルがいくつか建っていた

そんな町を、もう夜も遅いというのに路地裏を通り抜ける人影があった


「…いくらなんでも…[白百合]のデータを収集してこいって…」
彼の名前はシリウス 本名は広千田史射利
レジスタンス組織(KK)の幹部 通称[星詠]だ
リーダーのネイの命令(気まぐれ)で 白百合と呼ばれるレジスタンスのデータを収集しているらしい
白百合は性別も年齢も出身もわからない無所属の最強レジスタンス
ただ一つ 白百合は黒ずくめの服に透き通るような白い肌 という本当かどうかも曖昧な噂しか無かった
「無理だ…」
ため息をつき、帰ろうと踵を返した
が、しかし
「おいテメェ…ここは俺らのテリトリーだ」
「勝手に入ってきてんじゃねぇよ。殺されてぇのか」
運の悪いことに数十人のトリガーに囲まれた
トリガーとは、懸賞金を欲してレジスタンス狩りをする輩のことである
生憎 持ち物はデータベースメモリーだけ、武器は持っていない
絶体絶命とは、まさに今、この状況である
落ちる冷や汗
拳を握りしめる
固唾を飲み後ずさる
ジリジリと近づく敵
殺られる そう思った刹那


「あ、スミマセーン。勝手に入りまーす」
現れた
否、降ってきた
癖のある黒髪に少し幼い顔 この町には似つかわしくない細く頼りない身体
しかし その姿は
黒ずくめの服 白い肌
そう 噂に聞いた白百合の姿だった
その証拠に 敵の表情は固まっている
すると白百合と思わしき人物はシリウスを横目で見て
「あー…星詠くん。君なら簡単だろ?」
と言った
シリウスに投げ渡したのは二丁の拳銃
シリウスが得意とする武器だ
戸惑うシリウスは拳銃を取り損ねたが、すぐに拾い反射的に構えた
「なんで俺を…」
「片付けてくれたら教えてやる」
白百合は、口角を上げ微笑んだかと思うと 獲物を捕らえる肉食獣のように敵の中に飛びかかった
「ほらーボーッとしてないで君も手伝ってよ」
気だるげな声とは裏腹に 白百合の動きは人間を越えた動きだった
躊躇いなど微塵も無く 両手に構えたサーベルは 確実に相手の急所を射抜く
シリウスも 華麗に銃を連射する
二人の息は 初めてだというにも関わらず シンクロしていた
白百合がシリウスの動きを読み、合わせているとも見えた
「クソッ…ガキ二人になんつー…」
まだ生き残りは多い
白百合はあからさまに嫌な顔をした後 再び口角をつり上げて
「3分でゲームセット
だからあと30秒」
と呟きながら 敵を切り裂く
鮮血を潜り抜け白百合は舞っていた
彼(?)の戦い方は「舞う」という言葉がしっくりくるものであった
「2分47秒」
白百合の身体には傷一つなく
恐ろしいことに返り血さえも浴びていなかった
その立ち姿はまさに一輪の白百合のようだ
「星詠くん」
目を丸くしていたシリウスに 白百合は声をかけた
不意を突かれたシリウスは少しばかり肩を震わせ「何?」と応えた
「それ、あげるよ。使わないから」
顎で二丁の拳銃を指すと サーベルを捨て シリウスに近づく
「君は面白いな」
「は?」
突然のことで驚いた
「何にも興味を示していない
つまらなそうな目をしている」
依然 表情一つ変えずに話す彼に シリウスは我慢ならず問うた
「アンタ…一体…」
すると 一度だけ瞬きをしてから
「My name is "white-lily"ヨロシクね
"広千田史射利"くん」
それが 白百合だった

第一章 ネコ

「戻りました」
「うん。」
「データ取れませんでした」
「うん。」
「代わりに本人連れてきました」
「うん。……Pardon?」
生返事を突き通そうとしたが そうはいかなかった
目の前にはシリウス以外に黒い服の少年(?)が立っていた
「連れてきたって…嘘でしょ…まさか…」
「十中八九、本人です
俺の本名当てましたから」
彼の名前はシリウス・コーチノッタではなく 広千田史射利 政府の目から逃れるために名を変えている
白百合は情報収集に長けていて、政府の支配している範囲のありとあらゆる情報を持っている
「あ、どーも。」
「…君…出身は?」
「I don't know.」
「性別は?」
「Shut up.」
「本名は?」
「It's Top secret.」
「…らしい」
「黙れって言われてましたけどね」
気だるげな態度の白百合は先程の戦闘時とは全くの別人だった
しかし
ヒュンッ
とナイフが白百合の後頭部に向けて飛んできた
だが血を見ることはなく
ナイフは一瞬の風によって跳ね返されていた
「殺…気…?」
聞こえたのはまだ幼さが残る声
現れたのは金髪の幼い少年
「ロイス!何やってんだよ!これが戦場だったら一瞬で殺されてたぞ…!」
駆け寄るシリウスに、ロイスと呼ばれた少年は
「…シリウス兄さん…アイツ…
殺気だけで…」
「…んー?怖くてチビったかぁ?」
呑気に話す白百合に向けられるのは 驚きの目
ロイスはガタガタと震え 今にも泣き出しそうな顔で白百合を見つめていた
殺気は誰でも出せるが 殺気だけで攻撃できる人物は数える程度であろう
ましてや 落ちているナイフは粉々に砕け散っている

「…あながち嘘でも無さそうだね…
まぁ、そんな警戒心剥き出しのままもアレだし…
自己紹介が遅れたよ
僕はネイ
この組織のリーダー
今回はロイスが無礼を働いて…申し訳ないね」
「…セイバー」
それに続くようにシリウスが口を開いた
「改めて…シリウス・コーチノッタ」
「星詠くん」
「ロイス…」
と名だけ名乗る
それに対し白百合は 近づき
腰を曲げ 顔を近づけた
「…通り名無し
ロイス・ベルシュタイン」
笑いもせず ただただ凝視する
「俺が君ぐらいの年
何してたかな…
まぁ少なくともそんなお遊び程度の戦闘力で生き延びれたこと羨ましく想うね」
浮かべた笑顔とは裏腹に 相手を見下す言い方
「大体…俺もそんな年変わんないけどね多分」
確かにその大人びた表情は幼く あどけない顔だった
腹の空いた服に見え隠れする肋の浮き出た肌
大きな切り傷が生々しく残っており いかに厳しい戦いを生き抜いてきたかが窺えた
「…なぁ。アンタ 自分の事なんも教えないのか?」
その問いに意外にも白百合は困ったような顔をしてから 顎に手を添え
「思い出せないんだからしゃーねぇだろ…
人間かどうかも危うい」
「人間でなくとも何もおかしくはないでしょ」
そう 現在、この地球上には人間以外の生命体が腐る程いる
超能力者も増えてきたという
しかし 仮に白百合が別種族だった場合 この地区への出入りはほぼ不可能だ
支配地だった名残のゲートが別種族を感知すれば警報が鳴る
故障でもしない限りは入るのは困難である
「ねぇ!ボス!こんな…得体の知れない奴…さっさと追い出してよ!」
先程の件でロイスは白百合に対して敵対心が芽生えたらしい
ネイは頭を掻き「困ったな」と呟いた
「お邪魔ならいい
もともと俺は無所属だからな」
「…んー…でもねぇ…興味あるし」
「さっさとしてよ
どっち?」
まるで無関心な白百合は冷たくいい放つ
「じゃあ、俺の部屋におきますか?」
シリウスが発言した
ロイスは目を丸くして
「や…やめましょうよ!シリウス兄さん!!殺されますよ!」
必死で訴えた
「俺は無差別殺人なんてしないけど」
「信用できない!」
「…んのクソガキ……ん?」
白百合がふと 視線を上げた
「なぁセイバー。アンタ…大分、政府に嫌われてんだな」
「君ほどじゃないよ」
白百合とネイはこの拠点を囲む僅かな殺気を感じ取っていた
「めんどくせぇが…オオモノだな」
その言葉とは裏腹に白百合の表情は楽しそうであった
「いってくる」
窓から飛び降り敵陣に飛び込んだ
「…まるでネコだね」

第二章 恍惚

彼は退屈していた
殺し甲斐の無い相手ばかりで
「上から来ること考えなよ!」
その声に反応し上を見上げれば 銃を乱射する一人の少年
バタバタと倒れる政府軍
「…雑魚が100人とオオモノが…2人」
着地すると銃を捨て、二本のナイフを構えた
「白百合…か…
いいだろう
狙いはセイバーだが…一石二鳥か」
「アナタ頭イカレテンデスカー?
二鳥どころか一鳥も捕まえらんないよ」

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20XX年 かつてアジアとヨーロッパだった場所は1つの帝国になっていた 絶対的権力を持つ政府軍と、その独裁政治に反乱するレジスタンスたちの話

  • 小説
  • 掌編
  • 恋愛
  • 冒険
  • アクション
  • 青年向け
  • 強い暴力的表現
  • 強い性的表現
  • 強い反社会的表現
更新日
登録日
2012-12-29

Copyrighted
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  1. プロローグ
  2. 第一章 ネコ
  3. 第二章 恍惚