La felicidad de los dos 邦題 Lock
学友の男女。
ホームの椅子に座りいろいろな事を考える。とは言っても仕事の事では無い。
小説のネタと楽器の演奏についてなのだが、どうもよいメロディーが浮かばない。
車内でもその続きを始めようとしているうちに其の間も無く銀座に到着。
加山光は三越に寄って行く事にした。婦人服売り場で根岸由美の姿を見つけ一声。
彼女とは同じキャンパスで仲が良かった。其の話ではデパートの売り上げも芳しくない様で、景気の良い話など出そうに無い。
また寄るからと。
店を出て楽器屋に向かう。
USBに録音する時にトラブルが起きる事が多い。其の理由を聞こうと思ったのだが、詳しい事は浜松の本社に聞いてくれとの事。
一旦社に戻ってから再び出掛ける。未決済ケースをデスクに置き、案件のファイルの内容を速やかに確認した後、判を押しては決済済みケースに移す。
幸い大した案件は無かった、と一息ついたところで。
「今日は、朝からお出かけですか?」
と日野珠江。
「野暮用で。この後出るから・・」
白板に直帰と。
昼食もそこそこに地下鉄からJRに乗り換える。関内で降り山下公園に向かう。
どうやらロケをやっているようだ。時代劇のようで、刀のぶつかり合う音が園内に響いている。
光がTVや映画を見る事はない。locationなどには興味が無いからと撮影が一段落つくまでベンチに座り時間を潰す。
昔は時代劇は常に人気が高かった。だから腰元とそうでないかくらいは区別がつく。
歩く度にキラキラと揺れ輝く簪が光に近づいてくる。名前を呼ばれ・・その主の顔に目を遣る。
姫役の女優は学生時代に交際していた今出川美智子。
彼女はキャンパスで行われたミスコンに優勝しTV局に入社した筈だが・・役者になっていたとは。
ミスコン優勝者がTVキャスターにというコースはよく知られている。
其れが女優向きの美人なら、キャスターから転身しても少しもおかしくはないのだが・・彼女の着物姿を見るのは初めて。
「あまり艶っぽい姫君じゃないな?」
「あら、お生憎様。二時間ドラマで時代物に出る事になったの。貴方は何の御用事?」
プロダクションの希望する物件のリース契約で、偶々、其処の専務が横浜のオフィスに来ているからと、アポを取りやって来た旨を。
此の公園はすぐ向こうが海。で、時代劇用のセットを組み更に角度を考慮し撮影している。
思わぬ旧友のお出ましに懐かしさを感じ、契約者の指定の時間に近くのホテルで契約を済ませる。
撮影は丁度その間に取り敢えず終了した様で、スタッフは銘々車に乗るや其々の方向に散って行く。
美智子はマネージャーと話をしていたが何としたのか、光にお茶でも一緒に飲もうと。
「懐かしいわね。あのころ、二人で彼方此方行っては遊びまわったのがついこの前の事の様に思えるわ?」
そう言われ思い出した。
一時(とき)は、将来一緒になろうなどと話した事も。其の頃は学生。
こじんまりとしたと言えば聞こえは良いが六畳一間のアパートで充分など考えていた。
其れが彼女のTV局への就職で心ならずも別々の道を歩む事になった。
それ以前に二人でアパートを探しに行った事があった。何件か見て廻った折、或るアパートの小窓から桜の花が正に満開だったのが窺え、其のネガには暖かな陽の光が部屋に差し込んでいた様(さま)が凝縮されていた事を・・今でも覚えている。
美智子もその当時を覚えていたのだろう、光に目を遣ると。
「・・覚えている?約束した事・・」
と、光は思わず美智子の薬指に視線を移す。
「其れって・・指輪の事?君が局に閉じこもってしまったかの様に忙しくなり、僕は僕で就職探し。互いに連絡も取れなくなり・・だったのかな?僕は業界など興味も無かったし。約束・・」
美智子が手にしていたbagから古い御守りを取り出し。
「此れ。指輪何て気が利く貴方じゃ無かった。此れ二人で神社に詣でた際の・・。いろいろあるけれど、此れが未だに役に立っているの。業界には貴方のようなおかしなタイプの人なんている訳無いから・・?」
美智子が話している事は勿論本当だろう。美智子に彼是声を掛けて来る男性は多いと。
其れはそうだろう。キャスターからいろいろな職業に転身したり、中には結婚などという者も少なくないと聞く。
周囲が放っておかない程彼女が人気者であれば決して悪いどころか・・寧ろ歓迎すべき。
「・・懐かしい御守りだ。君が手の届かない所に行くとは思っていなかったから。人類にはいろいろな想いでがあるとしても。其れは其れとし、君は別の世界で充分活躍しているんだから、今の君なら自由奔放に自らの道を歩むべきだろう。業界なら、相手は幾らでもいるんだろうから誰が良いかなど迷う程って、先程言ったばかり」。
「・・迷うなど・・」
二人の会話は其れで尽きるとも言えず。美智子はマネージャーに連絡を取っている。
今晩は知人と会う事になったから、また、連絡をすると。
其の晩は横浜の高層ホテルで食事をする事にした。69階まで僅か数分というElevatorに。
久し振りにしては、案外二人の胸中は、会話のやり取りの中に昔の二人を探し出している。
学生時代に三田から近い東京タワーの青い照明に酔ったように、眼下に街の灯りを散りばめながら夢中になって話し合った事。
キャンパスでも当然評判だった美智子が誰かに誘われたり。
かと思えば、狭くくねった仲通りの小さなカフェで、互いの将来につき話し合った。
しかし、光はその当時から、何時の日にか美智子が自分とは違う世界に行くのではないかと思った事も。
卒業してからは互いに無我夢中で。其れでも連絡を取り合っていた時も。
どちらも新しい職場に慣れるのに精一杯が本音なのは仕方がない。
ところが、思いも掛けない事を聞かされた時には、光も躊躇わざるを得なかった。
会話の内容と言葉を考えては選択しながら。其れが光の話題になった時。
「・・お付き合い忙しいんでしょう?」
其れが昔の彼女であって今の女優では無いのならまだしも。
確かに頭に浮かぶ者はいるが。正直、そんな事を説明するまでも無いのではと思わざるを得ない。
話をすればするほど、先の見えない狭間(はざま)に押しこまれていく様な気が。
今や美智子は押しも押されもしない大物女優への階段を登っている最中。
普通なら其のままでもおさまるところにおさまる彼女の筈だ。
何か光の知らない、或いはひょっとしたら業界で誰も知らない事でもあるのかなど不思議に思う。
伏し目がちの視線をその姿に移した時ふと気が付いた。
彼女のグラスを持つ指には指輪が輝いている。光の視線を確かめた美智子は、指輪をそっと外すとバッグに。「・・そう言う事か・・?」
ところが、彼女は何を考えているのか。
「・・此れならいいでしょう?」
いいでしょうとは何?美智子の瞳が語り始める。
其れを聞いているうちに、何か目的があり偽装用の指輪だという事なのか?
そこ迄して・・彼女は一体何を考えているんだろう?
「・・幸せになる為には、其の指輪を早く本物に変えなくてはいけないね。少なくとも僕にそう言える権利は何も無いけれど。只ね。僕だって・・そりゃ君の事を全く忘れてしまったのでは無いのだが。そう簡単に想い出を消す事などなかなかできるものじゃない。ただ・・。」
美智子は真顔の様で光の目に何かを訴えようとしているのだとすれば・・?
「ただ・・何?もう、遅すぎたって事?本当の私の姿を知っているのは貴方だけだと。確かに、貴方と会えなくなってから、私は、私なりに何か・・努力をしてきた。それは私だって女優なんだから、誰かと仲良く付き合う事があって当然なのか?と散々考えた事も。業界って、貴方には理解できないおかしなこともあるって、分かって貰えないとは思いながら話しているの」
其処までの話からしても、何か・・何れにしても深刻な事なのは承知。
だからと言い。自分に一体何が出来るの?
ワイングラスがガラスのテーブルに小さな音を立て腰を据えた様に。
光は、彼女にこれ以上飲ませたら身体に良い訳無いなど思ったりする。
光は、美智子の不安の真相は何かを聞き出さなくてはならない。
と言う気持ちとは裏腹に躊躇いも。其れから、美智子の話はより具体的になっていく。
一人の男の影が浮かんだ。そして、その男は美智子の事が好きだという事の様。
其れであれば子供では無いのだから・・美智子も自らの気持ちを真っ直ぐにその男にぶつけてみれば良いのではと。
男がそうであったにしても、次は、美智子がその男をどう思っているのか?
男とは、大物の役者のようだが、確か噂で・・一連の薬騒動の報道があったと記憶している。
そう言えば、昔、とんでもない大物役者が薬で逮捕された事があったのは事実。その妻も関西歌舞伎の一家の娘だった。
そうであれば、今のうちに美智子とその男の関係を断ち切るしかないのでは。
昔、ある役者のマネージャーと弟子の俳優が、阿片(アヘン)所持で逮捕。
阿片26グラムと吸煙器を処分するようプロダクション所属俳優に頼んだ疑いで書類送検された。
また、彼はホノルル国際空港で下着にマリファナとコカインを入れていたとして現行犯逮捕されている。
薬物の所持につき最後まで口を割ることはなく、帰国した翌年に此の国でも麻薬及び向精神薬取締法違反の容疑で逮捕され、懲役2年6か月執行猶予4年の有罪判決を受けている。
光は其の話を覚えていたから、似たような事が発生するのを危惧し、以後、美智子の行動に関心を持ち見守る事にした。
事件は、殺陣(たて)の最中に起きた。真剣で相手の役者を傷つけたという。(通常は銃刀法の関係で無い。)
其れが美智子が話していた男だ。事件そのものよりも、美智子の此れからの本意が肝心だと。
男が二度と美智子に近付かないようにという事とは、衆目が言わせることと同じで、業界でも男は追放される事に決まった。
何れにしても、取り敢えずは美智子が其の男との関係を断ち切る事が出来た事になる。
光とし、あとは、美智子を本当に美智子の事を大事に出来る男性と結びつけることが必要だと。
とは言いそういう男性を見つけるのは一苦労。其れで無くとも業界に興味が無い光にとり自分の力だけでは無理だと感じた。
契約者のプロダクションの社長に話を持ち掛けたのだが、美智子本人の希望を考慮するのが先決。
美智子と二人でじっくり話し合う事になった。光は、業界といっても広いのだから、探せば良い相手に恵まれるに違いないと。
光の仕事も期末を迎え忙しくなっていた。其れでも三越に行った折、由美と話をする時間をつくった。
二人で飲みに行く事も。というのも業界人で常連の客もいたから。
相手が誰とは言わずに、年齢相応の人気役者の話をそれとなく出してみたりした。
一方、社では、珠江が飲みに連れて行ってくれという。真面目で仕事のできる人材だったから、銀座の裏通りの居酒屋で飲んでは、社内の話やら趣味の話などをしながら・・それとなく美智子の名を。
其処は女優なのだから知っていると。
二人共、学友にしては美智子が光と旧知の間柄だとは知らない。
光は其れでなくても訳の分からない業界につき何らかの情報を得ようとした。
だが、二人から言われた事は、幾らでも二枚目の芸能人はいるけれど、素人が分からない世界の事であるし、大体が相性っていうものがあるんだからと、当然のことを言われた。
光は、自分の趣味にも暫く手を付けられないほどいろいろ考えた。
小説を書く事については発想は幾らでも浮かんでくる。
で、目下の問題である楽器を弾く事に付いて考えた。全く良いメロディーが浮かばない。メロディーは浮かばなくとも自分は楽器を弾きたい。
其れであれば、同じ曲でも弾く事によって自分の気晴らしにはなる。
無理をしないで、素直にそうするしかないかななど思う。
美智子からメールが入った。今晩、食事をとらないかと。
美智子は、今日はフリーだそうだ。其れなら一緒に彼方此方行ってから、其の後食事をしないかと提案を。
美智子と三越に行った。由美は、光の隣にいる美智子を見て驚いた様だ。
由美に宝飾品売場を案内して貰った。担当者は由美の知人だからと。
宝飾品売場のショーケースを前にし、美智子の頬がやや紅潮しているように見える。
光は大胆だったのだがストレートに。
「君の好きな宝石を選んでくれる?若し、僕から婚約指輪をプレゼントされるとしたらどれが良いか?僕は君の好みは分からないが、先日のものよりは良いものの方がいいと思うけれど・・」
輝いた瞳がショウケースの上の鏡に写っている。
担当者と相談をしながらだが、当然ながら、担当者は余計な事は言わない。
御自分の気に入られたものを・・。
美智子は婚約指輪と結婚指輪を両方買ったら駄目?と聞く。
結婚指輪の上に婚約指輪を重ねる事は、永遠の愛をlockすると言われているらしい。
結局、Tiffanyにしたようだ。セットリングで無いと、smoothに結びつかないからと、担当者が考えてくれた。
いきなりの場面に・・。
美智子は紅の唇に指を一本立てた後その唇を光の唇に添えた。
光は体裁が悪くて・・そんな気がしたが、美智子は周りの事など眼中に無いようだ。
「おめでとう」の言葉が何処からか聞こえてくる。
この後の飲み会のテーマはもう決まった様なものだと思ったのは・・軽率だった。
「業界を引退する事にし・・貴方の給料で?」
と、美智子・・。
光の独身生活にもロックが。しかし、この世にどんなに美しいものがあるとしても、美智子程美しいものは無い。
が、結論から言えば・・随分遠回りをしたのかも知れない・・。
「女には大きな人道の立場から来る愛情よりも、多少義理をはずれても自分だけに集注される親切を嬉しがる性質が、男よりも強いように思われます。夏目漱石」
「 他人を弁護するよりも自己を弁護するのは困難である。疑うものは弁護士を見よ。芥川龍之介」
「取らねばならぬ経過は泣いても笑っても取るのが本統だ。志賀直哉」
「by europe123 ORGBIT」
https://youtu.be/TibQnxeGdPc
La felicidad de los dos 邦題 Lock
暫く連絡だけだった。