奇想詩『灰皿とサボテン』
僕にはカラダだけのつきあいの女の子がいる
その子の家のベランダには
いつも灰皿とサボテンが置いてある
セックスが終わると
彼女はすぐにベランダへ出る
僕が服を着てベランダにつくころには
彼女はもうすでに一服している
彼女は絶対に終電を逃さない女だと自負していた
けれどもその代償として結果的に(あるいは宿命的に)
終電を逃した男を家に招き入れてしまうことが多いらしい
そして僕も〝終電を逃した男〟のうちの一人に過ぎない
彼女の住むアパートは駅のすぐ近くにある
たぶんその地理的な利便性のせいでもあるのだろうけど
僕が思うに
彼女がある特定のタイプの男をちょうど
街灯にたかるブヨのように引き寄せる何かを
持っているせいで
男たちはまんまと終電を逃してそのまま
彼女のアパートに転がり込むことになるのだろう
彼女は自分が内包しているその不可解な特性については
いくらか意識的なようにも見えるし
あるいはまったく無知なようにも見える
彼女は一見ビッチなようでいて
じつはどうしようもないくらい
無防備でイノセントなところがある
そこに男たちは(もちろん僕も含めて)惹かれるのかもしれない
彼女は二本目のタバコに火をつけた
ベランダの向こうには何かの工場の灯りが見えた
「世界を回らなくても重要なものはすべてベランダにあるんだよ」
彼女はそう言って
サボテンの横の灰皿に
慣れた手つきで灰を落とした
「少なくとも私にとってはね」
奇想詩『灰皿とサボテン』