悪の城、黒鳥の失墜
ひとの生に決定的な影響を与える書物はすべて悪書である、書物の理念・情念を辿り、みずからの心理の変化を注視すれば、かならずやその変容は悪のそれがみつかると僕は考える。
聴くなよ──いいかい、悪書を蔑んではいけない、
より果敢なくも 生きるためには!
此の世のすべてに身悶え、生活を光と音楽で駄々と散らかし、
人生台無しにする絶望なけりゃあ 詩人なんぞはできやせぬ。
既にして、悪に染まった僕なれば、毒を制すは悪の城、
秩序立てられ指令出す、在るかもわからぬ幻想廃墟、
僕がそいつを善だとみなすと? 善良な者よ、
悪書の穢れたシャワー浴び、水滴の如く颯爽と墜ちるがこの僕だ。
すべて僕等の底辺には 匿名の無個性のましろの領域があり、
そが領域はさながら白のアネモネの花畑の風景、林立しえるか?
わが絶望はその銀製の蜘蛛の脚と蟠る心象 清ませた失望が起点。
罪に汚れた掌を 噛み締めみつめるように花の唇とひらき とじ、
台無しとなった惨めな生を 裏返る光栄と謝礼に翼の手を合わせ、
黒鳥は飛翔する──わたしを統べる悪の城、「月硝子城」の月影へ。
悪の城、黒鳥の失墜