悪の城、黒鳥の失墜

 ひとの生に決定的な影響を与える書物はすべて悪書である、書物の理念・情念を辿り、みずからの心理の変化を注視すれば、かならずやその変容は悪のそれがみつかると僕は考える。

 聴くなよ──いいかい、悪書を蔑んではいけない、
 より果敢なくも 生きるためには!
 此の世のすべてに身悶え、生活を光と音楽で駄々と散らかし、
 人生台無しにする絶望なけりゃあ 詩人なんぞはできやせぬ。

 既にして、悪に染まった僕なれば、毒を制すは悪の城、
 秩序立てられ指令出す、在るかもわからぬ幻想廃墟、
 僕がそいつを善だとみなすと? 善良な者よ、
 悪書の穢れたシャワー浴び、水滴の如く颯爽と墜ちるがこの僕だ。

 すべて僕等の底辺には 匿名の無個性のましろの領域があり、
 そが領域はさながら白のアネモネの花畑の風景、林立しえるか?
 わが絶望はその銀製の蜘蛛の脚と蟠る心象 清ませた失望が起点。

 罪に汚れた掌を 噛み締めみつめるように花の唇とひらき とじ、
 台無しとなった惨めな生を 裏返る光栄と謝礼に翼の手を合わせ、
 黒鳥(ブラックバード)は飛翔する──わたしを統べる悪の城、「月硝子城」の月影へ。

悪の城、黒鳥の失墜

悪の城、黒鳥の失墜

  • 自由詩
  • 掌編
  • 青春
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2023-02-12

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