トキノコエ No.1 少女
登場人物
凰神夏月 おうがみ なつき
黒我玲王 くろが れお
時雨瑠夏 しぐれ るか
魔法________________________
人類の約2割が生まれながらに魔法を使える世界。魔法文化は約2000年もの間、人々を支配してきた。しかし魔法は科学と一体化し「魔法科学」を生み出した、魔法科学によって魔法を使えない人々でも「疑似魔法」と呼ばれる力を得るようになる。人々はいつしか、魔法を使うものを「聖魔術師」と、疑似魔法を使うものを「偽魔術師」と呼ぶようになる。西暦2022年。一人の偽魔術師"藤松統一郎"によってクローン生物「封魔獣」が造り出され、世界中へと封魔獣の"種"がばらまかれた。全ての封魔獣が覚醒するのは200年後の西暦2222年。そしてその封魔獣を倒す唯一の能力を持つ魔術師がいた、彼らの名は「封術師」。
高校生活。それはどんな形でも新しいことがたくさんある、まさに人生の中では一番輝いている時期ともいえる。そんな人生一輝いている時期を既に1年終えた俺、凰神夏月。本日4月9日は俺が高校2年生となり、そして新入生の入学式がある日でもある。
朝。何故か入学式の最中に全裸のオッサンに言い寄られる、という何とも恐ろしい夢で目覚めた俺。朝食、おとといから母親が風邪をひいて寝込んでいるためコンビニ弁当で済ます。身支度を終え家に鍵をかけ学校へと向かう。
魔法が日常的に使われている今現在。だが俺は何故か幼いころから魔法から嫌われていた。まず簡単な魔法がかけられているお菓子がある、これを食べると必ず1週間は寝込む。次に魔法で動くローラースケートがある、これは履くとすぐにブッ壊れてしまった。極めつけは世界初の魔法転移装置"FIA"、これのテストユーザーに選ばれた俺。だがなぜか俺が使用した際にFIAは謎のエラーを起こしてしまった。
「何かの小説のキャラかよ、おれ」
不幸。とまではいかない、だが俺は確実に"魔法"とつくもの全てに嫌われていた。
さて俺は京極高校と言う日本有数の「魔術師もそうでない人も受け入れる」学校に通っている。人々は生まれたころより魔法が使えるものを「聖魔術師」、特別な措置を施し魔法が使えるようになったものを「偽魔術師」と言う。今では世界人口の約9割がこの聖魔術師と偽魔術師といわれている、そのため学校もそれに対応する。つまりは俺のような聖魔術師でも偽魔術師でもないものを受け入れてくれる学校は砂粒ほどしかないのだ。実際高校進学の際、進路担当の先生に「偽魔術師になれ」と言われた。だが先ほども述べたように俺は"魔法"とつくもの全てに嫌われている、当然普通の人間でも受け入れてくれる学校を探す。ようやくここ京極高校が見つかったのは何と志願書提出期限当日だった。
というわけで俺はここ京極高校に通っている。学力レベルは中の上、全校生徒数1000人ちょっと。もし何かの機会で地域のレポートを書く際は、俺は必ずここ京極高校を書こう。半年前に決めたことだった。
さて、俺は入学式の準備でいつもより早めに行く"予定"だった。
「あれ」
何かおかしい、いや忘れていることに気づく。すぐさま携帯を開き現在時刻を確認する。7:50だった。
「・・・・・・。もしかして、相当やばい?」
ヤバいです、それもすごく。
「ヤバイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイ!!」
うちの学校。確かに校則も厳しくないし、変態教師などもいない。だが一つだけ欠点があった。それはたった一つだけ生徒が守らなければならない絶対的、かつ当たり前な校則だった。「時間厳守」。
「あの校則さえなければぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
俺は叫びながら通学路をひたすら全力疾走をする。在校生が学校についていなければならない時刻は8:00、普通に歩けば俺の家から学校まで約30分はかかる、と言うことはあと10分で学校に辿り着かなければいけない。もしたどり着かなかった場合は・・・。
「考えたくもねぇよォォォォ!!!」
とにかく今は走る。走る。走るんだオレェェェェェェェ!!!!
「うぐっ!」
ドサッ。
「えっ?」
突然血まみれの女の子が夏月にもたれかかってきた。
数秒間行動が止まる。これが現実だという認識が出来なかった。我に変えると俺は血まみれの女の子を抱えて家に向かっていた。
「くそっ、やっぱ病院とかに行くべきだったか?」
だが今さら遅い、だってもう家のすぐ近くなのだから。背中に背負っている血まみれの女の子もさっきからピクリともしない、死んでしまったのかも知れないが。だとしたら俺は死体を背負っていることになるな。
「だからって放っておけるか」
夏月は家の鍵を開ける、そして自分の部屋へと少女を寝かせた。そしてすぐさま携帯を開き一人の友人の番号をかける。
<おー夏月か。お前今日学校休むのか?先生連絡ないって怒ってたぞ>
こいつは相変わらずだな。
「わりぃ玲王、今から俺んち来てくんね?」
<はぁ?何言ってんだよ、これから入学式の準備とかあって・・・>
「それでも頼む!!お前だけが頼りなんだ!!」
必死の懇願である。いま電話をかけている人物、名前は黒我玲王。俺のたった一人とも言えるほどの親友、そして理解者でもある。
<ハァ。わかったよ、んじゃ今からおまえんち行くから>
「サンキュー!!玲王」
<ただし、今度なんかおごれよな>
そう言って玲王は電話を切った。
「ふぅ、次は・・・」
もう一度携帯で電話をかける。今度は俺の友達の中で唯一と言ってもいい女友達のとこだ。
<もしもし?あんた今日学校休む気?さっさと来なさいよ、まったく>
電話に出てすぐマシンガンのようなお説教を食らわされた夏月。だがそれを無視して要件を手短に伝える。
「瑠夏、お前いまから俺んち来てくれ」
<ばっ。ばかなこといってんじゃないわよ!!なんであたしがあんたんちにいかなきゃならないのよ!!!>
「うるせー!!とにかくこい、玲王も来るから。急いで来いよ!!じゃあな」
用件だけ伝えると、夏月は唐突に電話を切る。瑠夏の性格なら何を言われようが友達が困っているなら必ずくる。
時雨瑠夏。夏月の唯一の女友達といっても過言ではないほど少ない友達の中の一人。義理固い奴なのだが、少々上から目線なところが癪に障る。だが仲のいい友達には変わりない、そしてこんな時に頼れる友達でもあった。
次に夏月は自分の部屋の隣にある部屋に行く。できればここのドアは二度と開けたくなかったんだけどな、と思う夏月。
「でもそんなこと言ってられる状況じゃねぇ」
夏月は部屋の扉をあける。
そこは"妹の部屋"だった。4年前に原因不明の事故死をした妹、名前は夏帆。夏月は夏帆の部屋のクローゼットを開ける、そこには夏帆が着ていた洋服がきれいにしまわれていた。
「夏帆・・・」
一瞬夏月は悲しげな顔になる。だがすぐにそんな顔を吹き飛ばす、そして夏帆の服を何着か自分の部屋へともっていく。そのあとリビングに行き救急箱を用意する。これで一応手当の用意はできた。
「あとはあいつらが来るのを待つだけ・・・か」
一応夏月は少女の傷を見てみることにした。一応血は止まっているようだ、見たところ致命的な傷もないし・・・・。玲王は昔医者を目指していたことがあるからこういうことには詳しいし、瑠夏は同じ女性、服を着替えさせるのは瑠夏が最適。我ながら冷静な対応だな、うん。
10分後玲王と瑠夏が家に着いた。
「で夏月、一体何なんだ?瑠夏まで呼んで」
「まったくよ。これでしょーもないことだったら、ただじゃおかないわよ!!!」
「とりあえず俺の部屋に来てくれ、わけを話すから」
夏月は二人を自分の部屋にあげる。
「先に言っておくけど、部屋の中を見ても驚かないでくれよ」
夏月は風邪で寝込んでいる母親を気遣い二人に忠告する。二人はうなづく、夏月はゆっくりと部屋のドアを開けた。
「っ!?」
「なっ!?」
二人は驚きの声を上げようとする口を手で抑える。無理もない、いま夏月のベッドの上には血まみれの少女が寝ているのだから。
「ちょっ、なんだよこれは、おい夏月!!」
部屋に入りドアをしめると玲王はすごい勢いで夏月に迫る。
「ちょっとタンマ、いま説明するから」
「そーじゃなくて!!!!」
「えっ、じゃなに?」
「この子の傷すげー傷じゃねーか、なんで病院行かなかったんだ!!」
痛いところを突かれた。夏月は言葉に詰まる。
「はぁ、まあいいや。とりあえず傷の程度を見るから救急箱もってきて」
「あ、救急箱ならそこに」
夏月はベッドの横に置いてあった我が家の救急箱を指差す。
「・・・・」
15分くらい経った。玲王の診断によると致命的な傷はなく、また血もこの子の血ではないとの事だった。そして今に至る。瑠夏は「この子の着替えをするから部屋から出ていって」と言って二人を部屋から追い出した。それから既に15分は経過していた。
「なぁ、あの子お前の知り合い?」
「ちげーよ」
「じゃあなんで?」
「学校行ってる途中で俺に突然倒れかかってきたんだよ」
「そ、それだけ家に連れ込んだのか!?」
「おまっ、変な言い方するかよな!助けたといってくれ」
「変わんねーよ。それで、あの子はなんであんな血まみれなんだ?」
「そんなこと俺が知るかよ」
玲王はため息をつく。多分玲王は「なんでこんな面倒なことしてんだ」って考えてるんだろうな、と夏月は推理した。小学生から一緒だから玲王の思考回路は大体分かるのだ。友情とはすばらしいな。
西暦2221年4月9日午前7時56分。彼、凰神夏月の運命は大きく動き始めた。止まっていた歯車が音を立てながら・・・・。
トキノコエ No.1 少女
今回の作品は書きやすかったです。
GW中にNo2.も上げる予定です。