それでは・・・。

 「恵方巻が2000円もしたんよ」
唐突に梶田さんが言った。

恵方巻?

ふと、処置の手を止めて梶田さんの足元から仰向けになっている声のする方へ顔を上げた。
「この間さぁー、スーパーで恵方巻みつけてよぅ・・・」
「あー、節分でしたねぇ。でも、関東では最近じゃないですか?切ってある太巻きは食べたけど。」

コンビニやスーパーの宣伝効果により、節分のときに恵方巻を食べる文化がすっかり定着してきている。
「ああ、俺の実家広島だったからよ。太巻き食べたわ。で、スーパーよ。他のもんも買ってレジで金払ったらよ釣銭がすくねぇのよ。おっかしいなあ、と思いながら家に帰ったんよ」
梶田さんは、思い出しながらも「おっかしいなあ」と、首をかしげた。
「釣銭間違えてたんですか?」
わたしは、足の処置を再開しながら聞いた。
「いや、それがよ!よーくみたら太巻きが1980円って書いてあんのよ!そんなの買っちまったんかって!」
「高いー。高級太巻きです。ウチは買えないから手作りかなぁ」
「やっぱり手作りだよなぁ・・・ウチのおふくろの太巻き美味かったなぁ・・・」
そう言うと、梶田さんは仰向けの顔に手を置いて無言になってしまった。

それでは・・・。

それでは・・・。

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2023-02-10

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