黒髪少年と試験管少年

黒髪少年と雪の試験管少年

この前、自分は、姿を見なかったが、どうやら、来ていたらしい。
いない時に、わざわざ来るなんて、流石だ。
でも、今日は、そうはいかない。
窓の向こうは、雪。
目の前の試験管は、雪。
「かくれんぼは、終わりだ」
君の、瞼が、持ち上がる。
琥珀色の瞳が、にやり、と、笑った。


2023.02.10

黒髪少年と冬の試験管少年

冷たい空気と、痛む指先に、君が、ここにいることを、感じる。
だいぶ、日が延び、いくらか、黄色が瞬くようになった。
次が、すぐそこまで、きている。
なのに、君は、穏やかに笑う。
それが、嬉しいことのように。
黒を揺らす、陽の光が、今はまだ、眩しく感じた。


2023.02.22

黒髪少年と花冷えの試験管少年

「…兄弟?」
溢れた疑問に、君は、緩く、口角を上げた。
そんな感じ。
グレーの瞳に差す色は、濃い、ピンク色。
それが、じっと、桜を見つめていた。
手には、見覚えのある、リボン。
そうか、君も…。
冷たい風が、部屋を巡る。
それは、どこか、芽吹きを祈る、風に思えた。


2023.03.14

黒髪少年と桜の試験管少年

開花宣言は、聞いたのに、来なかった。
でも、
「おは、よう…」
金色の髪と、お揃いである生成色のリボンが、揺れている。
窓の外を見れば、確かに、咲いていた。
いつの間に、と、驚いたが、似たようなことをする彼が、一人。
「…真似は、しなくて、いいぞ…」
その言葉に、君は、愉しそうに、笑った。


2023.03.17

黒髪少年と春の試験管少年

寒暖か、気圧か、痛むこめかみを押さえ、横になる。
窓の奥、暑そうな日射しに、瞼を閉じた。
ゆっくり、呼吸をする。
そよぐ風と、小さな…
「鼻歌?」
薄っすら、窓辺を見やる。
柔らかい髪を、揺らしながら、どこか、懐かしいメロディーが、聴こえた。
再び、瞼を閉じる。
耳に馴染む、優しい、声だ。

2023.05.03

黒髪少年と春の試験管少年

窓を開けると、纏わりつく風の温度に、驚いた。 陽射しは、夏のそれよりも淡く、風との違いに、眉を寄せる。
そんな俺に、君は、くすりと、笑った。
解けかけた、胸元のリボンが、映る。
歪な形なのに、楽しそう。
「…不思議」
季節も、君も。
きっと、捲るだろうが、それでも、長袖のシャツを、手に取った。

2023.05.17

黒髪少年と梅雨の試験管少年

柔い、優しい雨音が、傘を叩く。
響く音が、耳に心地良い。
まるで、
「歌ってる、みたいだな」
えっ?
と、驚く声がする。
窓辺を見やれば、顔を赤くした君。
まさか。
顔を、覗こうとすれば、傘で、遮られる。
「なぁ」
傘が、小刻みに、振るえる。
そんな姿に、悪いと思うが、
「もっと、聞きたい」

2023.06.09

「夕焼けが…」
濃紺に被さっているのは、薄墨の雲だ。
少し、怖いような、不安な気持ちに、させるような…。
でも、晴れ間から覗く、オレンジ色や星が、すごく、
「綺麗、だな」
今の、君の、作り出す空に、そう、思う。
うん!
弾んだ声に、回る傘。
黄色い傘が映えて、やっぱり、綺麗だ。

2023.06.13

夏の試験管少年を想う、黒髪少年

ドアを開けて、一歩、踏み出す。
まだ、朝なのに、日差しが痛い。
目を細め、空を見る。
空気も、いつもより暑く、肺に入れると、重い。
憂鬱、なのは、気圧の変化だけ。
まだ、本格的な到来は、少し、先だろう。
ひょっこり、遊びに来る君に、口角が、上がる。
微かに青が見えた、そんな、朝だった。

2023.06.17

夏至の試験管少年を想う、黒髪少年

崩れた花冠が、水に漂う。
一日にも満たない、半日と、少しの時間。
随分と涼しい風が、髪を揺らしていた。
アリスブルーを携えた君は、柔く眩しい。
お喋りだって、穏やか気持ちに、させてくれる。
この時間が、続いて欲しい、は、叶わない。
言葉を飲み込みながらも、淡い君の姿を、探してしまった。

2023.06.22

黒髪少年と夏の夜の試験管少年

汗ばむ夜に、僅かながら、眉を寄せる。
窓を開ければ、多少ながらも、涼しい風が流れる。
でも、足りない。
不快感から逃れたく、無理矢理目を閉じる。
暗い瞼の裏に、うっすら浮かび上がる、白。
今、求めるものを持つあの白に向かって、手を伸ばした。
早く、落として、君に、触れたい。

2023.06.30

黒髪少年と七夕の試験管少年より

珍しく、晴れた今日に、何だか、嬉しくなる。
君を見れば、きらり、瞳の天の川が、輝いた。
あまり、自分は願わなかったが、誰かの願いが、届いたのだろう。
心なしか、緑の髪も、綺麗だ。
「よかったな」
そう言えば、一際、瞳が輝く。
君に隠した願い事は、空に届いた。
笑顔が、見られますように。

2023.07.07

黒髪少年と試験管少年

黒髪少年と試験管少年

試験管に入った少年〝試験管少年″と過ごす黒髪少年のお話。 (世界の素敵を知り、見つけていく少年) 2023.07.07完結 BOOTHにて、ここに記載している物語の再録+書き下ろしを販売中です。 https://cosette.booth.pm/items/4934005

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2023-02-10

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted
  1. 黒髪少年と雪の試験管少年
  2. 黒髪少年と冬の試験管少年
  3. 黒髪少年と花冷えの試験管少年
  4. 黒髪少年と桜の試験管少年
  5. 黒髪少年と春の試験管少年
  6. 黒髪少年と春の試験管少年
  7. 黒髪少年と梅雨の試験管少年
  8. 8
  9. 夏の試験管少年を想う、黒髪少年
  10. 夏至の試験管少年を想う、黒髪少年
  11. 黒髪少年と夏の夜の試験管少年
  12. 黒髪少年と七夕の試験管少年より