つきようび

 駅のホームからみえた、まるい月。今夜はやけに、高いところにある。つめたいベンチに座って、となりのきみが、たいせつそうに抱えている箱のなかみが、きみの、だいすきなあのこであることを、わたしは知っている。きまぐれに、平日の動物園で、キリンや、シマウマに、えさをあげたり、ふれあい広場で、ちいさなこどもにまざって、うさぎを愛でたり、ホットカーペットの上で眠る猫みたいなライオンを、じっとながめたりしていた。きみは、始終、箱を手離さずにいて、わたしは、ときどき脳裏に、学校、という存在を思い浮かべて、いや、いまはわすれようと決めて、極めて明朗快活に、動物園をたのしんだ。近所に住んでいる、サクマくんが、お人形のような女の子(無表情で、でも、かわいかった)といっしょに、しゃべるオウムの檻の前にいて、わたしはでも、気づかなかったふりをして、声はかけなかった。おみやげもののコーナーで、きみが、コツメカワウソのぬいぐるみを買っていたけれど、わたしはなにも買わなかった。おやつ用に、いかにもなクッキーくらい買えばよかったと、いまになって思う。動物をみて、やさしいきもちになれるかと思ったけれど、あんがい、そうでもなくて、発作的に起こる破壊衝動めいたものは、静かにそっと、わたしのなかに横たわったままである。あしもとから、しんしんと冷えてゆく。きみが箱を抱え直すたびに、箱のなかからかすかに、からん、という音がする。

つきようび

つきようび

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2023-02-06

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