駅

 会田美紀は、渋谷の会社に勤めている。
 O線の下北沢で井の頭線に乗り換え道玄坂を歩いて行く。
 音楽が好きなので、家を出てから会社に着くまで、ずっとiPodで好きな曲を聴いている。
 音量を大きくして聴きたいのだが、音漏れで人から注意されるのが嫌だから値段は高かったが、音漏れのしにくく重低音が小気味よく響くイヤフォーンを買い愛用している。
 いろんな曲を聴くから、好きな曲をプレイリストにおさめており、スイッチの切り替えをしなくても連続して聴く事が出来る。
 好きなプレーヤーや歌手は沢山いるが、どちらかと言うとジャンルには拘らないほうだ。
 ジャズ・フュージョン・ポップス・歌謡曲に至るまで。
 気に入っている曲の一つに、「駅」という曲がある。
 此の曲を聴いていると、まるで映画の一シーンを髣髴とさせるようで感性を刺激される。
 竹内まりあは他にも良い曲を作っているが。
 駅という曲は渋谷の東急東横線の渋谷駅をモデルにして作ったと言われている。
「主人公は以前付き合っていた既婚の男性を其処で見掛ける。散々付き合った仲だったから彼女が見慣れたコートを着隣の車両に座っている。その姿を見以前の事を思い出すという光景が、メロディーと歌詞から窺え、聴く者を恰も現実の一シーンに引きずり込む様な素晴らしさが窺える」
 よくある所帯持ちと独身の女性の恋愛だが、歌詞からは、「現在は、女性も待つ人がいる~互いに待つ人がいると」となっているから、どちらかと言うと女性が一方的に愛していたのか?一時は男性も女性を愛したのだろうが、家庭に戻り女性とは別離となった。
 女性は女性で別の男性と結ばれた後、偶然渋谷駅で男性の懐かしい姿を見つけ・・というちょっとしたショットsceneである。
 通勤時間帯の始発駅は人込みばかりだが、その中でふと元の彼に気付き感傷に浸るというところが何とも言えぬ情緒を醸し出す。
 駅はいろんなドラマを作り出す。恋愛の幸せな想い出と、悲しい結末も。
 美紀は勤めてから三年程になるが、最近ちょっと気に掛る事がある。
 電車の中で、何となく気になる男性。外見からだが、自分の以前の経験から好きなタイプの男性を見掛ける。
 自分の好みであり、その男性の服装からしてセンスがいいなと感じる。
「駅」をイメージさせるような男性。
 美紀は自分もそんなsceneに埋もれてみたいと思っている。
 同じ様にベージュのコートを着、洒落たグリーンに模様のついた手袋で吊革を掴んでいる。
 先ずきっかけはつくれないだろうが、そんな事を考えているだけで、毎日変わらない通勤電車内の殺風景な雰囲気を忘れる事が出来る。
 歳は自分より幾つか上の様に思えるがそんなに老けては見えない。
 しかし「駅」の設定の様に独身では無いのかも知れない。
 渋谷で降り道玄坂を登って行く。



 或る日の事だった。
 道玄坂は広い道路だが、地下に通路がありそこから反対側の歩道に抜ける事が出来る。
 偶には違う道でも歩いてみようかと思い、定時の帰社時間を過ぎた頃会社のビルを出、地下通路を渡り反対側に出下り坂を歩いていた。
 Nビルの前を通る手前で気が付く。
 あの男性がそのビルから出て来坂を下って行く。
 下りきれば井の頭線は渋谷が起点だから、ひょっとし、帰りも同じ車両に乗る事になるのかも知れない。
 そう思った時、何故かiPodの音量を上げていた。
 此の曲を聴いているだけで、気分は恋愛めいた雰囲気の中に誘われるように盛り上がっていく。
 井の頭線のホームに立ち男性の後ろ姿を見ながら音楽を聴いている。
 勝手に描き始めたストーリーのsceneに溶け込んでいく自分を感じる。
 電車が止まっているホームの反対側に次に発車する電車が入って来る。
 急行と普通があり、交互にホームの両側に車体を並ばせる。
 乗客は改札口を抜けるとすぐに止まっている電車に乗るのが普通だが、男性はどういう訳かホームに立っている。
 待ち合わせでもしているのかななどと思っていると、女性が走って来、男性に追い着くなり話を始めた様だ。
「なんだ?彼女がいたんだ。そうだろうな。そんな雰囲気が窺える人だから」
 等思っている内に、発車のアナウンスが流れドアが閉まろうとしている。美紀は慌てて其の車両に・・。
 男女は二人並んで吊革に摑まりながら話をしている。
 仲が良さそうに見えるからやはり恋人かなと思う。
 急行の停車駅は一駅先の下北沢だから小田急線の利用者は乗り換えなくてはならない。
 当然二人共降りるのだと思ったのだが、ホームに降りたのは男性と美紀だけ。
 女性はそのまま閉まるドアの窓の内側から手を挙げる。電車は次第に速度を上げホームを出て行った。
 美紀は小田急線に乗り換えるのだが、前を歩いている男性は茶袋をバッグの中にしまっている。
 美紀は思った。
「ひょっとしたら、あの女性は同じ会社の同僚か何かで、男性に茶袋を渡す為に来たのかも知れない。忘れ物をしたのか?」
 美紀は自分の都合の良い様に考えながらも、まだ、二人の関係に結論を出した訳では無かった。
 小田急線に乗り換える際男性と同じ車両に乗った。まだ暫くは一緒にいる事が出来るなど思いながら。
 電車が多摩川を越えた次の駅で車内放送があった。
「ドアが閉まらない為、お急ぎの所誠に申し訳ありませんが、暫く臨時停車を致します」
 此の駅には急行は止まらないのだが、ドアの調子が悪い事に気付いた車掌が緊急停車を指示しドアの点検をしようという事なのだろう。
 電車のトラブルに慣れている都会の客から、特に不平の言葉などは漏れてこない。
 やがて電車が発車した際ガクッと大きく車両が揺れた。
 乗客が人垣と変わり重なりあうかと思えば塊りは銘々の仕種で揺れている。
 ばらばらとぶつかりあう乗客。一部倒れる客も。
 まだ電車の調子がおかしいのかも知れない。
 停車したまま。
 その倒れた客の中に美紀の姿も。
 体勢を制御しようも無く客同士でぶつかり合い、結局床にしゃがみ込んでしまう。
 倒れなかった客が彼女の腕を持つと身体を引き上げてくれようとしている。
 美紀は自分の身体を持ち上げてくれている客の顔を見て驚く。
 あの男性。
「済みません。有難うございます」
 そう言いながら、男性の手袋に縋る様に起き上がった。
「大丈夫ですか?」
 と聞いてくれた彼の目が微笑んでいる。
 美紀は礼以外にも何か話さなければいけない様な気がし、
「お洒落な手袋ですね。何時も見ているん・・」
 と、余計な事を言いそうになってしまった。
 男性は微笑んだまま、彼女が思っていた事と同じ意味合いの。
「何時も同じ電車ですね。大体、皆同じ時間の車両に乗りますから、見慣れた乗客ばかりで・・」
 と、言うが、同じ様に余計な事を言ったかなという表情を。
 美紀は、
「何だ、此の人も私の事を毎日見ていたのかな?」
 など、知らぬうちに似た者同士だったのか?
 其処で会話は終わりになるのが自然だろうが、洒落た手袋にベージュのコートが話し掛けた。
「貴女もお洒落では無いですか。何時もS駅で降りますよね。私はその一つ先のM駅ですが」
 初めての会話にも拘わらず、男は話好きなのか二人の会話は更に。
 男性は。
「渋谷まで一緒なんですから・・。私は、宮野昭雄と申します。宜しく」
 其処まで会話が続くとは思わなかったが、美紀は前から意識をしていたのだからと、悪い気もしなかった。
「私は会田美紀と申します。でも・・」
 人懐こいのか・・分からないが、昭雄の話はまだ終わらない・・ばかりか。
「此の後、予定でもあるんですか?」
「いえ、ただ買い物をして帰るだけですが・・」
「良かったら、カフェでも寄って行きませんか?ちょっと、強引だったかな?」
 美紀はiPodのスイッチを切ると、もう一度言われた事を確認した。
「カフェって・・、コーヒーでも?私は特に構いませんけれど・・」
 そんな事を言ってしまったのは、軽率だったかなと思ったが、普段から意識をしていたのだから、思ったより驚きもしなかった。
 少なくとも街でひっ掛けれられたような、嫌な気持ちはしない。
 結局、一つ先のM駅で降りカフェに行く事に。
 S駅にはカフェなど無い、それに、M街は大きいからついでに買い物をして帰ればいいかなと思う。
 昭雄の後についてカフェに入り奥のテーブルを挟むように座った。
 暫く言葉のキャッチボールをしているうちに、二人が以前から互いをそれと無く見ていたという事。
 昭雄がコーヒーカップを持ったまま、
「美紀さんお勤めは渋谷ですよね?」
 と。
 美紀は互いに毎日見掛けているのだから、それくらいは気が付くだろうと。
「私が、渋谷だって、同じ電車に乗っていれば分かりますよね」
「何時も、気持ち良さそうに音楽を聴いているから、よっぽど好きなんだなとは思っていましたが」
 その後は、好きな音楽の話や渋谷の何処に会社があるとかに。
 今日、美紀が246の地下道を渡り反対側に出た時に昭雄の姿を見かけた事を話した。
 昭雄も忘れ物をし会社の同僚に電話をした際、ビルのエントランスから美紀が此方に向かって来るのに気が付いたという事のようだ。
 美紀は、
「では、あの女性はやはり同僚で、忘れ物の茶袋の様なものを手渡したんだ・・」とあの時に揺れていた心の謎が解けた。「彼女ではなさそうだが、まだ、昭雄に彼女がいないと分かった訳では無いし」とも・・。
 美紀は、以前は昭雄を見掛けなかったのだが最近気が付くようになった事を話す。
 転勤で、渋谷に異動になったという事だ。
 その日は以前から知り合いの様に話をしていたが、そんな雰囲気を感じ取ったのか昭雄が遠慮しがちに。
「若し良かったら、休みの日に遊びに行きませんか?あ、強引だったか・・」
 と、美紀は。
「この人、悪い人じゃないみたいだけれど・・」と受け止めながら、「私の場合は、好みのタイプだったから・・暫く会っていれば分かって来る・・でも意外と、私も雑な方かもな」などと思ったりもした。
 美紀の空想は「駅」の歌詞と共に勝手に拡がっていく。
「此の人にも付き合っている人が・・或いは・・最悪奥さん?まあ、同じ様な状況であれば、此の人も私に好感を持っているという事になるけれど・・会えば何時かはお別れという事になるのかも・・。それに、あの歌詞には『お互いに待つ人がいる所に帰って行く』という事になっている」
 そこで美紀は。「且つての私にもそういう関係の人がいた事」を思い出したのだが、結局、二人は休みに会う事に。



 楽しみと不安が入り混じったまま休みがやって来た。
 S駅で待ち合わせをし、そのまま新宿まで。
 ぐるっと山手線を半周し上野公園に。
 昭雄が電車の中で。
「君って、音楽が好きなのはわかるけれど、絵なんかにも興味はありません?僕も音楽は好きなんだけれど絵も好きなんです。特に印象派なんかが気に入っているけれど、其処の美術館に行ってみません?今、特別展をやっていると思うんで」
 と誘われ、美紀も美術館もいいんじゃないと。
 上野の美術館は幾つもあるから絵画好きな人を飽きさせない。
 幾つか見て廻る。其れなりの時間が掛かったのだが、昭雄の趣味もなかなか良い趣味だと思う。
 美術館内のカフェで昼食を済ませた。
 音楽と美術なら、二人共、先ずは相性は良さそうだが、今時の人はスポーツ好きが多いから、その点でも。
 美紀にとり最も関心があり、尚且つ若し其れを聞いた時?
 昭雄の女性関係を聞く事が悪い方向に?でも聞かなければ?と、考えていた。
 それをきりだす勇気を持てないまま時は過ぎていく。
 美紀は場合によったら・・もう会う事は無いなんて事も・・と思い。
「あの、二人で売店の絵葉書でも買いませんか?どれが気に入るか見てみません?」
 頷く昭雄と共に並べてある絵葉書を物色する。
 結局、印象派のモネの「散歩、日傘をさす女」にした。
 理由は、顔が鮮明に書かれていないから。
 つまり、話に寄れば、モネの妻が亡くなったりしたせいか、モネは複数の女性と交際があり、故意に顔が誰のものか分からないようにしたという説もある。
 美紀の本心は、美しさで優る「夜のカフェテラス」を買いたかったのだが。
 まだ肝心な事が分からない今の状況では、何か決めづらい気がした。
 何時の日かそれを買う日も来るのかなど頭に浮かんでは消えていく。
 上野公園で美術館以外と言えば博物館。見ている内に時刻は思ったよりも早く過ぎ陽が傾いていた。
 二人のプライバシーが分からないまま、何処で夕食をと考えた末、新宿の高層ホテルのレストランでと。
 休みを楽しむ人々で、電車の中も街も、溢れている。
 駅から甲州街道に沿い十分ほど初台方面に歩いたところにあるホテルのエレベーターに乗り上階へ。
 運よく窓際のテーブルのキャンセルがあったので、其処に座る事が出来た。
 メニューを見てから、コースをオーダーする。コースは一般的で安いが、a la carteにすれば7万程する。
 美紀は普段あまり飲まないウイスキーの水割りにしたが、昭雄はロックで「乾杯」を。
 カクテルを注文しようかと迷ったのだが、何となく殆ど飲んだ事の無いものに。やはり、或る事に拘りが。
 上野の絵の感想を述べたり、先日の電車の中での事などを話しながらも。
 美紀は次第に昭雄の今の「状況」を聞きたくなっていく。
 美紀のスマホが鳴る。
 メールは以前付き合っていた男性からのものだった。「どう?元気でやってる?ちょっと思いだしてね。悪かったかな?」
 どうしてこんな時にそんな事が送られて来たのか、此れでは、場合によってはダブル「駅」になってしまうじゃない?など思いながら。
「あなたも元気?身体に気を付けてね」
 と、手早く返信をする。
 ウイスキーのアルコールが回って来、慣れと相まって話しやすくなってくる。
 美紀は・・どうしても気になっている事を、婉曲に聞いてみようかと思った。
 其れで古い曲を知っているかから。
「竹内まりあの、駅、って知ってます?私、大好きなんですけれど」
 昭雄は幸い目に反応が。
「知っている。有名だしいい曲だもの。まりあも歳を取ったけれど相変わらず良い作品を作っているよね。もう六十くらいかな?女性に年を聞いたら失礼だけれど、僕は三十なんだけれど、君は・・少し下?」
 美紀は頷きながら、「そうか、年齢を気にしてなかったけれど、此の人よく見ているな?」と・・。
 今度は昭雄のスマホに電話が。
「ああ、君か、ちょっと用事で・・、ええ?渋谷?行ってるよ。君は元気でやっているの?それは良かった・・頑張ってね・・じゃあ」
 美紀は、彼女からかなと思った。
 美紀は「駅」の歌詞につき感想を。
「ドラマチックな歌詞なので、映画を見ている様な気になってしまうんですけれど、男女の過去の想い出がテーマになってい、その感傷をうたっているんですね。どう思います?」
「恋愛って、過ぎてみると懐かしさが浮かんで来るものなんだよね。それまでは普通に愛し合っていた事が、過去の事となると、セピア色の世界に浮かぶ想い出を蘇らせ、ちょっと切ない気持ちに・・涙を誘う事も」
 先程二人のスマホにあった連絡の事が、何となく二人の胸中で揺れている。
 其の事について、二人のどちらが先に話し始めるかと思っていたのだが、昭雄が。
「先程の電話・・。渋谷に転勤になる前に別の場所で付き合っていた女性からだったんだ。何年か付き合っていたんだけれどね・・。」
 美紀は、過去の恋愛の話まででたりし、初めてのデートにしては、一体此の先どんなストーリーが・・?と。
 更に、昭雄の言葉を借りれば、過去の恋愛は過去のものと割り切っているようにも思える。
 其れであれば・・今の二人の出会いは運命的なものでは・・・などと一層心は揺れていく。
 美紀は、昭雄の話方から、元の彼女への恋慕を残しながらも、もう一つでは無く、既に新たな恋愛というドラマが始まっていると解釈を・・。
「私も、元の彼と何年か付き合ったんですが、多分・・あなたと丁度同じ様に・・つまり、四人の登場人物の運命が変わるに連れ、私達の出会いが始まった・・と」
 昭雄はグラスの水割りを飲み干すと。
「その、彼氏とは・・本当に愛し合っていたの?僕は本気で愛していたんだけれど、何だろうね愛情って?何時の間にか変わってしまうなんて?そう思わ無いかな?」
 美紀は一旦昭雄の瞳から目を逸らすと。
「そうね・・歌詞にもあるくらいなんだから、そんなに珍しい事では無いんだろうけれど。逆に言えば、感情が振り子の様に大きく振れ、其れが悲しみを感じさせたり、思い掛けない巡り合いの喜びをと・・。「愛情」は誰にも分からない所で、突然新しく光り出すと、古い光が消えて行ってしまったりするものだと思う、よく分からないけれど・・」
「其れは・・人はどうしても嘘がつけない。胸が苦しく成るほどの・・君の言う光が・・ちょっと理屈ぽかったかな?」
 clearな窓の外の輝きが消える事は無い。不夜城の星の様に、黒い闇の中で、其の存在感を主張している。
 二人は・・過去を慈しみながらも、新たな光で互いを繋ぎ合わせようとしている。
 恋愛の経験が十分にある二人なのだからこそ、新たな光が消えないようにと大事にして行く事で、幸せを掴もうとしているのかも知れない。
 美紀はスマホの画面にゴッホの「夜のカフェテラス」を映し出し昭雄に見せる。
「こんな、綺麗な光の絵が描ける人が、生きている間は陽の目を見る事が無かったのも、現実。少し例え方が違うけれど、何処までも光を消さないように、と、私は今そう思っているの。昭雄さんはどう?」
 昭雄は頷く。
「渋谷に転勤になってから、毎日互いに顔を合わせるようになるなんて、正に運命が試しているんじゃないのかな?光を絶やさないように・・とね」



 二人は此れから恋愛という二文字を一層育ませ・・生きていく事になるだろう。
 二人の胸中には、既に光が灯っているのであるから。
 

 二人肩を並べ駅まで歩く。心境は仮に複雑なようであっても・・人生は後戻りする事は出来ない。
 駅とは乗り換える事も留まる事も自由だが分かれ道でもある。
 二人並んで車内のシートに座る。
 美紀が「駅」を聴きだす・・。
 昭雄も同じ曲を聴いているかのよう・・。
「渋谷と新宿の違いだけで、此の歌はやはり好きだな。同じ情景が浮かぶ」


 二人は・・ふと、隣の車両に、昔愛し合った人が座っている様な気がした。
 何某かの感情が込み上げてくる。
 一瞬、二人は別々になり、其の人影を見つめ・・そして別れを告げていた・・。
 同じ様に過去の幻を背負いながら、新しいロマンスが始まった。


 やがて、隣の車両の人影は・・何処(いずこ)ともなく消えて行った・・。



 iPodから流れて来る音楽が、一段と大きくなった・・。



(因みにまりあは同窓の後輩にあたる。)