正に雪が飾ったような・・夜話
社内の話。
社で飲み会が催された。
若者同士で尾上雄二には訳の分からない会話をしている。どうも、人類は相性が良くないという感じがする。
何も話さないのもおかしいかと思い、かと言い仕事や会社に関する事は中年のお得意で此れも好みではない。
法務部を見るようになった時も、部下に年上が結構おり、最初のうちは戸惑う事もあったが、今はよっぽどで無ければ拘らないようにしている。
しかし、そうなると誰も話し相手はいない事になるが、其れも満更悪いものではなく気を使わなくて良い。
一度だけ、弁護士と話し合っている時に、横から知ったかぶりをしたような発言をした年輩の課長がおり後で注意をしたが、法律関係の事については正確な知識や経験に基づいたものでなければならない。
今までの人間関係においては、どういう偶然か法政大学を出た者は自慢をする事が多く、相性が悪い事がある。
そんな、どうでも良い事を考えながら一人で料理を摘まんでいると、気が付かなかったが何時の間にか隣に席を変えた女性の部員が、グラスにビールを注いでくれた。
ビールが好きでワインも飲むが、学生時代はよく飲んだ日本酒なのに、今は好んで飲む事は無い。
女性は先ずビールを飲む事は無く、以前はウイスキーの水割りだったが、今は飲み物も種類が増えたせいかカクテルや酎ハイを飲むようだ。
加賀美和は自分の席にグラスを置いて来たようで、君は何がいいの?と聞きながら店員にグラスワインを頼む。
年に二回程の部全体の飲み会だが、其の日は帝国ホテルのバイキングにしたのだが、実を言うと安いが余り美味しくは無い。
ただ、17階で眺めが良いだけで、ホテルや海外ではFolkやKnifeを皿にうっかり置き方を間違えると、料理を持っていかれてしまう事がある。
更に面倒なのはナプキンで、一度知人が首から吊るしてしまった事があり、膝にずらして置く見本を見せた事があった。
雄二は性格的にそういう事には拘らないから、代金さえ支払えば良いと思うが、店員が五月蠅いのは煩わしい。
映画が好きなものはそういう事も知っているのかも知れないが、お勘定といっても良いし、海外では空間にチェックを描いたり、右手で左手にgesto(スペイン語でジェスチャーのこと)で示すとか、英語なら、check please でも構わないが、此の国では高級店でなければgestoはやらない方が良いかも・・。
また、お相手が女性だったりすれば、トイレに行く・行かないとかあるが・・細かい事に拘るのも、どうかと思う。
彼女には、当然彼がいると思うか、社にいるのかなど思いながら、個人的な話よりはいきなり国際情勢につき話したりしたが、今の若いものには興味は無いのかも知れない。
其処で雄二は滅多に話さない事を・・、
「この国の国民は何といっても白人好みで、USAが敗戦直後からイラク戦争などの勢いを未だに持っていると考えている。
実際は、遡る事、国連軍(国連とUSAは同じと見て間違い無い。)とし、十か国ばかりを率いて朝鮮半島に乗りこんだのだが、満州の寒さに負けるは人民軍の攻撃に追われるように後退し、結局38度線で南北のラインを。
次のベトナム戦争ではUSSRがお通しをする北朝鮮を相手に南ベトナム軍と共に戦い敗戦を期した。
USAは国内が半分に分かれているから、戦闘で死者が出れば、共和党に政権交代もあり得る、事実上とりとめもなく混乱している国と言える。
共産国は資本主義国とは考え方が違うから、戦争が起きる可能性が高く、膿は何時までも持っているより何時かは出さなければならない、西側の経済制裁などの脅しには屈せず、起こしたところでそんな事は関係無くなるだろう。戦争というものはやって見なければ結論は出ない。ただ、大東亜戦争では、世界でも優秀な技術力を持ち、国民は勤勉実直・特攻をしたくらいに直向きだった。其れが敗戦に至った一番大きな原因は「資源」「食料」を持っていた大国には敵わないという鉄則。
今に例えれば、幾ら武器供与・支援をしようが、大国は「資源」「食料」を持っているのだから相手にならず、増してや世界一の核兵器数なのだから、最終的には核兵器を使用すれば良い事になる」
と言うと、驚いた顔をしている。
ついでに此の国の中野学校の話をし、
「Russiaのプーチン大統領もソ連のKGBの諜報員出身だから、スパイというものは決めた事は変えないという厳しさを持っている」。
彼女は自らの意見を持っているから、大学くらいは出ているのかも知れない。
彼女が突然業界の話に代えたので、やはり今の世代だと思ったのだが、以前社に女優の三田綾子や同等の美女である若井夕子を連れて来た事があったせいなのか。
綾子が同期だと話をしたら、彼女も後輩だという。其れで奇遇だと思いキャンパスの変遷などの話に変わる。
雄二がキャンパスは懐かしいと思っていると、
「宜しかったらキャンパスに行ってみませんか?私も懐かしいし、いろいろ想い出があるので?」
「ああ、其れは別に構わないよ。でも、君も若者同士の方がいいだろうから、一日だけ行ってみようか?其の時についでに、大きな邸宅を見て見ないか?電車の一駅ある大きな家だよ?」
「そんな家ってあるんですか?田園調布だってそれほど大きい家は無いですよ?」
彼女の家は田園調布らしい。母校の卒業生は金持ちの家の出が多いから、其れも凄いなと思う。
「尾上さんのお宅は何方なんですか?まさか、そのお屋敷の様に・・?」
と言ったところで、雄二の先輩風も糸の切れた凪のように・・。
「いやあ、その・・花街って言ってね、所謂芸者がいたりするところなんだ、独特の雰囲気が窺える華やかなところと言っても良いのかも」
好奇心が旺盛なヤングは、そういうところに行った事が無いから是非と。
其処に、部の男性が話し掛けて来た。
「何か、随分仲が良さそうですね?加賀さんって意外とおじさん好みなの?」
この一言で、却って雄二は気が楽になったような気がした。
其処から先は彼に任せようと思ったが、他の部員達も集まって来。
丁度、その辺りで、幹事が、
「そろそろお開きと・・」。
で、結局、彼女を外出の際に連れて行くことにした。
其の日、雄二は社には都内直帰とし、彼女を連れ、三田にある母校に。
図書館は古くからのもので変わりはないが、学生証が無ければ入れない。
勉強もさることながら、Romanceの想い出も感じられる芝生。
学食・生協は入れるから記念品を購入。昔と異なるのは裏門の幻の門が新しくなり当時の面影が感じられないが、其処から桜田通りに出れば大きな東京タワーが見える。
「仲通りは変わらないですね?」
田町駅に出る細長い近道で変わりない。
何か空模様が怪しくなってきた。
「今まで晴天が続いていたから、二月は雪が降る日があるかも知れないね?」
「でも、最近は大雪は無いですね?」
「暖冬と言われているから・・でも、突然大雪になったり?」
二人は白金の邸宅に向かう。
大きな邸宅に入ると、女中さんが奥さんに。
「あら、雄二さん、そのお嬢さん何方?まさか誘惑したんじゃない?ああ、雄二さんはそういう方面は苦手なのよね?」
彼女は一体何の事かという顔をしていたが、邸宅の大きさには驚いていた。
花街の最寄り駅で降り、坂道から置屋の前を通り、池の前の茶店に出る。
「先程の置屋というのが芸者の住いで女将が指導する。芸者というのはお茶屋というところのお座敷で男の人達のお客さんを接待したり、舞を踊ったり三味線や笛などの楽器を扱ったりし結構良い時給を貰うんだよ。まあ、一般の人には縁が無い世界だが。一昔前は結構いろいろの出来事があり、その後昭和33年に売春禁止法という法律が出来てからすっかり変わった。映画などやドラマには出て来る事も有るでしょう、芸者っていう女性が?」
茶店に入ると、女主人が迎えてくれた。
「こんにちは。雄二さんの後輩ですって?こういうところなんて知らなかったでしょ?昔は、いろいろあったんだけれどね。今は、法律で男女の権利が以前より保護されるようになったから、芸者さんの立場も大分改善されたんだけれど、まあ、珍しいでしょうから、あら、芸者達が来たようね?珍しいでしょうから是非見て行って下さい。おでんなども自由に食べて下さい」
すぐに芸者達が茶店に顔を出す。
「こんにちは・・ゆっくりして行ってくださいね?」
夕子もやって来、
「・・こんにちは、如何にもお嬢さんタイプね。何か空模様も・・雪っぽくなって来たようだし、ゆっくり暖まっていってください?」
彼女は目新しい事ばかりで、結構楽しんでいる様だ。
ちらちらと雪が降り始めた。
窓で区切られた灰色の空から大きい牡丹雪がほうっとこちらへ浮び流れて来る。なんだか静かな嘘のようだった。「川端康成」
店から見る表の景色は既に雨から雪に変わっている。
大気にたっぷり満ちている湿気のおかげか、雪の舞う街は妙に暖かく、俺は間違った季節に迷い込んでしまったような不安をふいに感じる。「新海 誠」
雪は莟つぼみを持った沈丁花じんちょうげの下に都会の煤煙ばいえんによごれていた。それは何か僕の心に傷いたましさを与える眺めだった。「芥川龍之介」
空気はきりっとして澄み渡り、街角のいたるところに蟻塚のようにつみあげられ、排気ガスで灰色に染まった雪も、夜の街の光の下では清潔で、幻想的にさえ見えた。「村上春樹」
二人はすっかり雪景色を堪能できたのだが、其れも情緒たっぷりの花街の茶店。
紫色の薄闇が辺りを包み込み、暫くすると墨を流した様な黒い静寂が訪れた。
お馴染み茶店の奥座敷での夕餉が始まる。芸者にしても、アトリエの二人や文豪達にしても、此のひと時が、心から安らぎを感じられる時間空間には違いない。
長椅子に並べられた主人手作りの料理に飲み物が皆の目を楽しませる。
文豪達も席を連ねるという事は時間を超越し、三人の郷里である百五十億年彼方から送られてきた恰も屏風絵のような情景が座敷を包み込む。
綾子は丁度撮影中の映画が一昔前の芸者に扮する役柄だったようで、すっかり明治時代の芸者になり切っている。
昔から、男達からみた抱きやすい体型の女性とは,すらっとし着物の襟足やうなじを覗かせた姿を言う。
其れで、時代劇に登場する女性は皆styleが良く艶やかな着物に映えるというのが相場。
今の時代の様な筋肉質・スポーツマンタイプ・ぽっちゃり・グラマーでは演じられない所に、女優たる美しさの価値がある。
夕子も綾子同様の着物美女。芸者達も自らの体型を管理できなければ仕事に差し支えると、揃ってstyleは抜群。
其処で、折角だからとお客さんの美和にも一同から。
「スタイルがいいんだから、貴女も私たち同様ね?」
と促され、芸者の師匠である夕子に着物を選んでもらい着付けをして見る事になった。
其れが・・見事に着物美女に変身。やはり夕子の見立ては良い。
着物でも高価で一目で上物である事が分かるのは、師匠故。
此れで、女性は全員着物姿も艶やかな美女集団となった。
折よく庭には真白い雪がしんしんと降っており真綿の様な庭園に変わっている。
アトリエの二人や漱石達文豪からも。
「此処に美女の舞でも・・」
というリクエストに、芸者達の舞が催される。
更に止めは綾子と夕子の着物の着付けを少し工夫したサービスが。
二人の首元から胸元寸前までは、着物がV字型に・・。背面はうなじから真白い背中までを見せてくれている。
男性達からは思わず、納得・・と。
早速、アトリエの二人は写真と絵画のモデルにと目に焼き付けている。
文豪も其れなりに文章で表現を・・。
雄二は取り残された様だったが。
「・・郷里に絶景だと送信しておく・・」
と、仮称~0母船のAIに信号を送信。
まるで、且つての良き時代の風流に色香が集められた蒔絵の様な映像が空間の画面に浮かんだ。
此の惑星は良きものを置き去りにしてきてしまっている。
今時のタレントの様な胸ばかり大きく童顔なのでは決して窺う事の出来ない、本来の此の国の一番良い風情と言えそうだった・・。
「彼女は枕を動かして自分の方を見た。
「あなた昂奮昂奮って、よくおっしゃるけれども妾あたしゃあなたよりいくら落ちついてるか解りゃしないわ。いつでも覚悟ができてるんですもの」
自分は何と答うべき言葉も持たなかった。黙って二本目の敷島しきしまを暗い灯影ほかげで吸い出した。自分はわが鼻と口から濛々もうもうと出る煙ばかりを眺めていた。自分はその間に気味のわるい眼を転じて、時々蚊帳の中を窺うかがった。嫂の姿は死んだように静であった。あるいはすでに寝ついたのではないかとも思われた。すると突然仰向あおむけになった顔の中から、「二郎さん」と云う声が聞こえた。
「何ですか」と自分は答えた。
「あなたそこで何をしていらっしゃるの」
「煙草を呑のんでるんです。寝られないから」
「早く御休みなさいよ。寝られないと毒だから」
「ええ」
自分は蚊帳の裾すそを捲まくって、自分の床の中に這入はいった。
。夏目漱石・兄・38章終」
「女は市女笠いちめがさを脱いだまま、わたしに手をとられながら、藪の奥へはいって来ました。ところがそこへ来て見ると、男は杉の根に縛しばられている、――女はそれを一目見るなり、いつのまに懐ふところから出していたか、きらりと小刀さすがを引き抜きました。わたしはまだ今までに、あのくらい気性の烈はげしい女は、一人も見た事がありません。もしその時でも油断していたらば、一突きに脾腹ひばらを突かれたでしょう。いや、それは身を躱かわしたところが、無二無三むにむざんに斬り立てられる内には、どんな怪我けがも仕兼ねなかったのです。が、わたしも多襄丸たじょうまるですから、どうにかこうにか太刀も抜かずに、とうとう小刀さすがを打ち落しました。いくら気の勝った女でも、得物がなければ仕方がありません。わたしはとうとう思い通り、男の命は取らずとも、女を手に入れる事は出来たのです。
男の命は取らずとも、――そうです。わたしはその上にも、男を殺すつもりはなかったのです。所が泣き伏した女を後あとに、藪の外へ逃げようとすると、女は突然わたしの腕へ、気違いのように縋すがりつきました。しかも切れ切れに叫ぶのを聞けば、あなたが死ぬか夫が死ぬか、どちらか一人死んでくれ、二人の男に恥はじを見せるのは、死ぬよりもつらいと云うのです。いや、その内どちらにしろ、生き残った男につれ添いたい、芥川竜之介・薮の中途中」
「くだらなく過ごしても一生。苦しんで過ごしても一生。苦しんで生き生きと暮らすべきだ。志賀直哉」
「by europe123 test10」
https://youtu.be/eVMQH16oLQA
正に雪が飾ったような・・夜話
年齢の離れた男女から。