龍街(リュウマチ)最終話
おはようございます。ついに最終話となりました。どうか最後までお楽しみ下さい!
最終話
「龍街(リュウマチ)最終話」
堀川士朗
22時になってきた。
俺はまだソファーに座ってテレビの特番を観ていた。
大画面85インチまで拡大してあるロール状スクリーンテレビ。
隣にはトッツィーがいる。
手を握っている。
もう片手には缶ビール。
ゴクゴク飲む。
喉が鳴る。
薄切りのプロシュートハムをまとめて何枚か食べる。
追いカマンベールもする。
噴煙が辺りに充満している新宿(ニーヤド)では戦闘にほぼ決着がついていた。
約1000匹のノーマル龍の死骸に向かって、自衛隊とオクナカコーポレーションアーミーの隊員が一匹一匹ヘッドショットでダブルタップつまり頭部をニ度撃ちしていた。
念には念を入れるためだ。
映像には映らないが、多分エサ用の死に損なった老人たちに対しても同様にヘッドショットしているんだろうな。
お役ゴメ~ンて感じで。
ゴメンねゴメンね~って感じで。
国軍となった自衛隊と、オクナカコーポレーションアーミーならば躊躇なく撃つだろう。
豚の頭を撃つみたいに。
月が映っている。
こうして、絶対安全圏で鑑賞する『戦争』は、純然たる『娯楽』だった。
味方が流す血にさえも、俺たちは興奮を覚えていた。
俺も観ている。
みんな観ている。
戦争は、楽しい。
群馬(ムレバ)県。
龍の住みかの山。
前にも言ったけど、群馬県内は龍にやられて人が一人も住んでいなくて、東京を襲う龍と、軍との主戦場のひとつとなっている。
戦闘激化の中で、疲弊の色を隠せない自衛隊とオクナカコーポレーションアーミーは戦略的撤退をしていた。
十数分後……。
戦術核の数千倍の威力を持つ、オクナカコーポレーションアーミーに新しく配備された本邦初公開の対消滅巡航ミサイル『閻魔』が発射され、群馬の山々をまるごと吹き飛ばした!
山の形が変わるどころではない。広大な山そのものがなくなり、その代わりに月にあるような深いクレーターが出現した。
まさに巨人の手で根こそぎえぐり取ったと言える。
日本の地図が変わった!
仕留めそこなった龍の残党をドローンに搭載した38式火炎放射器『鬼火』による一斉放射で焼き殺していく。
黒煙が夜に染み込んでいく。
化け物鳥みたいな奇声というか悲鳴を上げて、暴れて。龍は。
愚かだった。
哀れだった。
醜かった。
綺麗だった。
まるで、まるでそれは、人間みたいだった……。
「トッツィー」
「ん?」
「もう眠い?」
「まだ眠くない」
「俺たちさ」
「うん」
「結婚しようか」
「うん、しよ。センちゃん」
それから俺たちは、深い深いキスをした。
今夜の龍との闘いなんて、最初からなかったかのように。
五六八号に乗って今日も俺とウンバボは廃品回収の仕事に向かう。
龍による被害が大きかった新宿(ニーヤド)の商業施設からは大量のゴミが出る。
大忙しだ。
ウンバボが汗をかいて笑う。
俺もつられて笑う。
こんな、東京の空の下でも、俺たちは笑い合った。
今頃ガレージハウスの二階の台所ではトッツィーが鍋の支度をしてくれているはずだ。
今日は鍋パーティーの日だ!
大いに楽しもう!
今日は龍は飛んで来なかった。
明日も来ないかもしれない。
次の日も。
また、次の日も。
完
(2021年12月執筆)
龍街(リュウマチ)最終話
最後までご覧頂きありがとうございました。
主人公近田千太郎は恋人や人生を愛する
純粋な青年です。
しかし純粋であるが上に、生体マイナンバーを受け入れ、恐怖の新法老人廃棄法が横行する日本に何の疑問も持たず、オクナカコーポレーションアーミーを美化し、龍との戦争を『娯楽』として愉しみ、消化します。
これはひとつの未来の日本人の姿でもあります。
そういった背景を前提にまた第一話から
ご覧頂けると、より違った二重構造の畏怖が味わえるかと思います。
ご覧頂きありがとうございました!