孫の代まで
ある村で独り身のおじいさんが亡くなりました。
そのおじいさんは周囲の村人たちに嫌われていました。
というのも、おじいさんが持つ山にはたくさんのたけのこが実るのですが、村人が立ち入ってもいいか話をすると、もともとぶっきらぼうのおじいさんがさらに素っ気ない態度で断ってきたかららしいです。
村人たちは「あの人は狭量だ。自分だけたけのこを独占しようとしている。」と噂をします。
ですから、子どものいないおじいさんが亡くなり村人たちはホッとしたぐらいです。
これで、たけのこが収穫できると。
建前上の葬儀が行われ、村人たちがそんな話をしていると、異を唱える者が現れました。
その人は18歳から2年間、都会に身を移していた女学生でした。
おじいさんが亡くなった話をどこからか聞いて、久し振りに村に帰ってきたようです。
その女学生は山に入ってはいけないと言います。
村人たちはうんざりします。
女学生は小さい頃によく亡くなったおじいさんの家に出入りしていたからです。
村人の中には、少女が何やら粘土細工の人形をおじいさんに渡しているのを度々目撃しています。
きっと、自分に愛嬌を向ける少女に情が移り、たけのこを全部この子に譲る腹積もりなのだろう、と村人たちは思いました。
それに女学生に対して気の毒にも思いました。
プレゼントした土人形だって、あの偏屈じいさんなら捨てていそうだな、とも。
村人の一人が皮肉をたっぷりと込めて、そのことを女学生に伝えます。
それを聞いた女学生は目に涙をためて否定します。
女学生が言うには、あの山には高圧電流が流れる電波塔があり立ち入れば体調を崩してしまうとのことでした。
おじいさんは、高圧電流の影響とは知らなかったはずですが、きっと本能で危険な場所だと理解したのでしょう。
だから、たけのこがたくさん実っていても村人たちを立ち入らせないようにしたのです。
例えそれがうまく説明できないもので、そのせいで白い目で見られることを分かっていてもです。
村人たちは女学生から顔を背け、ばつの悪い顔をしていました。
その後、女学生はおじいさんの家で遺品を整理しているときに土人形を見つけました。
それは1つや2つではありませんでした。
女学生が少女の頃、おじいさんに毎年のようにプレゼントしていた土人形が1つも欠けることなくキレイに並べられていました。
女学生の頬の上を澄んだ涙が流れました。
それから幾年も過ぎました。
おじいさんの墓には、毎年決まった日にピンク色のカーネーションが添えられていました。
花言葉は、『感謝』。
その墓は、100年経っても誰かが手入れをした様子があったそうです。
孫の代まで