Last Dance 1
ふらっと侵入した赤い灯りの見える家。
住宅団地に住んでいる三上礼は、連休をどう過ごそうかと思っている。
五月は海外に行ったが、割増料金で平日なら十万も掛からずに言って来れるのに、三十万も掛かってしまったから、此の連休は飛行機はやめにした。
新幹線ならシーズンに拘わらず定額で、混むのさえ覚悟すれば、片道五百キロ位ならそれほど料金も掛からない。
礼はそう思い、何処か行く所が無いかと探してみたが、国内は何処も何回も行っているから、今更見るものも無い。
かといい帰省するには、一族郎党皆死に絶えてしまって、其れも叶わぬ。
結局、今回は旅行を諦め街を散策でもして過ごす事にしようかと考えた。
休みの前夜であるから辺りは灯りが消えている家が多い。
残るは、素っ気なく立っている街灯と少し離れた所にあるコンビニ位のものだ。
どうというつもりもなく宵の口のうちに薄暗い自宅近辺を散歩してみようかと思った。
小学校の校舎も真っ暗だ。一日に一回くらいは警備会社の巡回があるのだろうが、学校になど侵入する輩はいないだろう。
そういう輩なら、留守宅に空き巣に入るくらいだろうなど思う。
不意に礼は若し自分がコソ泥ならどんな家を狙うだろうと思った。
大きな邸宅であればそれなりに防犯体制が整っていて難しいだろう。
案外ごく普通の家の方が狙われるのかも知れない。
礼は何も物色するつもりなど無かったのだが、何気なく周りの家々を見ながら散歩をしていた。
何軒か灯りが付いている家の前を通る。何処にも行かず家族水入らずでのんびり過ごしているのだろう。
ふと、赤い灯りが窓から窺える家があるのに気が付いた。
初めは非常灯なのかとも思ったのだが、其れにしては一部では無く二階建ての家屋内全体。
礼は何となく其の光景が気になり、建物に近付き一階の塀に凭れた。
建物の中が見易くなるようにと首を伸ばした。礼はいきなり塀と共に敷地内に倒れた。
コンクリートのように見えた塀が、まさかベニヤにでも変化した訳でも無かろうに。
そうなってから後ろめたさの様なものを感じたのだが。其れとは異なる好奇心の様なものが彼を誘(いざな)う。
此の家が他の家と異なる謎の家であるかのように思えた。
さして意気地も無い彼なのに、ちょっとした探検気分を味わいたくなる、
空き巣では無いのだからと正面玄関に近付き、恐る恐るチャイムを押す。
万が一仮眠でもしているのなら家人が出て来る筈と思うが、もう一度チャイムを。やはり反応が無い。
いよいよ好奇心は彼をして大胆な行動へと。玄関の扉のノブをそっと回しドアを押す。
音も無くドアが開く。施錠はしてない様。礼は一瞬泥棒ならノブの指紋が証拠になり、など頭に浮かぶ。
ドアが開けば次はスニーカーを一歩中に。何も反応は無い。其のまま玄関に入り勢いが付いた様に上がり框から部屋に向かう。
廊下の奥まで進んだところで周りを見回すが、やはり人の姿も人気(ひとけ)すら窺えない。
先程の赤い灯りが手前の部屋から廊下の奥まで照らし出している。
既に礼の好奇心は住居不法侵入罪などという意識を何処かへ押しやっている。
更に、まるで誰かに一番奥の部屋の横の階段から二階へ上がるようにとの命令をされている様な気がする。
驚いた。
階段を上がった二階の部屋のソファに誰かが座っている様に見える。
赤い薄灯りの中で礼は目を凝らして見る。
どうやら、少女?其の少女の身体から赤い光が。
礼は、其れで照明の消えた家の中全体が赤く照らされているように見えた原因は其れなのか?と。
「一体この少女いや、ひょっとし人形?」
などと礼は考える。
いきなり少女は首を回転させ礼を。気味が悪く逃げ出したくなったのだが、確かデアボリカという洋画に?
少女の目の辺りから一筋の光線が礼を捉えている。
どうすべきかを考えている礼よりも早く少女は口を開いた。
「あなた礼さんでしょ?私はソフィア」
少女は何の警戒もせず、しかも自分の名を知っているようだ。
驚くというよりも少女の顔を見つめたまま身体が硬直してしまっている。
ソフィアは礼の疑問の一つを話し出す。
「どうして此処に?」
更にソフィアは。
「此処に以前住んでいた女の子は母親と共に、警察官の拳銃を奪った犯罪者が起こした無差別殺人で亡くなってしまったの。其れだからこの家は買い手も付かずに空き家として残っているの」
礼は、以前そういう事件があった様な記憶を。
ソフィアは淡々とどうして自分が此処にいるのかにつき説明を。
「私はその様な幼くして不幸な目にあい、或いは今もあっている子供達を救う為に彼方此方を巡っているの」
礼は、筋書は理解したにしても、いきなり其れを飲み込むにしてもやはり腑に落ちない。
彼女に聞いてみようと思うが、彼女は何があろうと然るべきと言わんばかり。
「どう考えてもただならぬ力を秘めているよう?」
そんな気がした。
その場で何もかも聞くのは無理?いや聞いたところで理解ができない?
実を言うと礼も目の前の少女と同じ様に、以前から世界中の恵まれない幼い子供達の事が気に掛っていた。
良く寄付を募る事があるが、寄付は金銭的な支援で、その実態がどういう仕組みなのかは不明で、安易に寄付を行えない。
ところが、世界には少女売春・人身売買などの正に弱者が被害に遭っている。
或る少女の亡くなる前の言葉に。
「学校に行きたかった」
という事が事実だと聞き、実に憐れだなと感じた。
其れにも関する事で、問題は二国の戦争のように世界が半分に別れ争うこと。
言って見れば、自由主義を世界に広めたいUSAと、別の思想を持つ諸国で、大国は三国。
USAはアングロサクソンで、考え方は何時でも堂々巡りをしている。
世界どころか、europe28か国でネイティブの弁護士を使っていて、自らも弁護士としては、世界中の思想を同じ色で塗りつぶすなどは無理というよりも、根本的に思想の自由を認めない事に通ずる。
今日のNHKのニュースでは無いが、森元首相の発言を珍しく取り上げている。
「大国が負けるなどという事はあり得ない。仮にそんな事が起きたとすれば、今の世界が考えている以上の恐ろしい事になるだろう」
此れは、国際的に活躍してきた者としては当然であると言える。
其れに、今の世代に欠けている事は、大東亜戦争で得た事。
戦争に勝つには、技術力で優れ、類まれなる勤勉実直な国民であっても敗戦をした。
その理由とは当時の教科書に載っていた通り、
「持たざる国」は「持てる」国に勝てなかったという事。
つまり、「資源」「食料」を持っている大国は負ける訳がないという事になる。
サッカーの応援のようにゲーム感覚で、支援・制裁を行ったUSAの為に「逆制裁」により世界は不況になってしまった。
兵器は大した事は無く、戦車がどうとか程度では戦争には勝つ事は不可能。
話は、どうして自由主義一色に塗る事ばかりを世界中に示唆しているが、本当の弱者とは抵抗の出来ない少女達と言える。
直接その子等を支援するにはMoneyが必要だ。何処の国も彼女達をすくう事に目を向けない。
礼は僅かばかりかも知れないが、Moneyを寄付している。世界不況の中で誰もが出来る事では無い。
希望と人々の懐事情が対立をしているからには、具体的な行動には至らない。
そんな時、此の少女が現れたという事は、正に渡りに船とでも言うべきか?
礼は、先ずは少女に同行して目指す慈善活動?の類をやってみようかと思った。
そうなると都合の良い事としては礼にも何某かのPowerがあればと思った。
ところが今までの生涯を顧みても何事も平均レベル以下だったからと思っていた時。
少女が目の光線をやや抑え、礼に、「Collarは何が好き?」と尋ねた。
礼は単純に、「そうだな・・Blueかな」と答えた。
途端に礼の身体が青い光で輝き始めた。
其れが何の意味があるのかと思ったのだが、礼の身体が少女と一緒に家の空いていた窓から宙に浮かんでいった時に、此れから何か変わった事が起きそう・・いや、既に起きている事に気が付いた。
礼は少女が飛行?していく後をついて浮かんでいった。
高い所から、其れも空中から眺める景色は絶景だ。
住宅団地の遥か上空から眺めると、家々の灯りや街灯或いはネオンなどが美しく見えるものだ。
不思議な事に、あっという間に景色が変わり、小さな子供達が見えて来た。
人種の違う子供達だという事は肌の色で分かった、アラブ系や黒人の様だ。
数人が残逆に殺されたのが見える。
其の辺りでは、テロ組織との間に戦争が起き、虐殺・誘拐・人身売買・拷問などが平然と行われていて、子供達が犠牲になっている。
礼は許せないと思ったので、怒りを露わにし何かを期待するように少女の瞳を見た。
少女は礼のBlueは伊達では無いと言う。身体の周りはバリアーで覆われており、目の光線、身体から熱波・衝撃波。
突然、少女と礼はバリアーを張り空気抵抗も感ぜないまま、超高速で降下。
そして、子供達に危害を加えているテロ組織を消滅した。
教えて貰った目の光線と身体から発する熱波・衝撃波。
対する敵は既存の兵器で対抗して来たが、barrierに攻撃をしようとも敵に勝ち目は無い。
只、悪漢は怪我こそすれ、命には別状が無いように計らってあるという。
子供達としては自分達が救われただけでも充分だろうから、それ以上に加害者を痛めつけて貰いたいなどと考える余裕は無いし、其れをしては新たな憎しみを産む事になってしまう。
彼等にも悲しむ家族がいるのかも知れない。
此方の攻撃は有効であったからテロ組織はかなりのダメージを受けた。
しかし、此れで子供達に対する脅威が全く無くなったかというと、残念ながらそういう訳では無い。
要は、この世から争いが無くならない限り、子供達を完全に守る事は出来ない。
礼は、其れは無理な事だと思っていた。
つまりは、人類である限り争いは避けられず、小さな事と言えば各個人にしてもいがみ合いや宗教による騙しが歴然と存在をする。
それらを即座にやめさせる事は無理というもの。
それどころか、警察官が拳銃を所持するように、何れの国でも争いを想定せずに兵器を所有している訳ではなく、争いを終結させる為にとの大義名分が存在する。
しかし、少女は、逆に考えれば、兵器があるという事が前提となり争いが絶えないとも言えるという。
少女の考えでは、難しくても世界中の兵器を根絶やしにする事が出来れば一番良いのだがと。
礼は、ちょっと其れは短絡過ぎるんじゃないか、無理では、例え其れが出来たにせよまた別の手段を講じて争いを生じさせるのではと考えた。
其れが人類の業(ごう)ではないかと思ったのだが、少女の信念は硬そうであるし、決して悪い事を企む訳でも無い上に、何か全くこの世界と違ったところでは通用する「不思議な当然」という言葉が当て嵌まりそうなひたむきさを感じたから、取り敢えず協力してみようと思った。
更に、少女は礼に話をした。
「兵器を潰すのに最も有効なのは、私が生まれた惑である遥かに高度な文明に依頼するしか無い。其れをしようと思う」
其の話の中で、少女が生まれた高度な惑星というくだりがあったが、礼は、どうして何の為に其の惑星からやって来たのかと尋ねた。
少女は先ず、
「故郷の惑星では、この惑星で子供達がひどい目に遭っている事は重々承知だ。だが、宇宙に数多とある惑星の事を、観察しているのだがこれ程進化の遅れている生命体は他には存在しない。また、自らが其の惑星に赴く事は、却って高度な文明故惑星との間に亀裂を生じ、野蛮な惑星の兵器で攻撃されでもすれば、対抗しなければならなくなり、此方が勝利する事は分かっているのだが、万が一其れで生命体に危害を加えることになれば、わざわざ不幸をもたらしに行く様なもの。従って一々その様な事に係り合ってはならない。惑星の不幸は惑星自らがもたらしたものであるが故に、其のままにしておくしか、残念ながら」という事が通念である故郷に反発を感じやって来たと言う。
礼は、
「幾ら高度な文明を持った生命体であっても、ソフィアの様な子供までその様な重要な且つ大人びた事を通常の話の中に盛り込んで生活しているのか?其れ自体信じがたい」と話した。
ソフィアは其れを聞いて微笑むと、次の瞬間見事に変身した。
礼と同じくらいの年齢の恐ろしい程の美女に変わったソフィアは、
「此れが本当の私の姿。驚かせて御免なさい、怪しまれない為には、子供で無いとおかしな気もするし、あなたに会う事は最初から分かっていて来たのだから、そんな姿をしたほうが警戒されずに済むと思ったの」
と謂う。
礼は突然現れた素晴らしい美女に好感を感じたのだが、正体を知ってしまったからには、別れが待っているだけ。
其れは単なる恋慕というのではなく、彼女は崇拝にも値するかのような誠実さを伴っているから感激の域を超えていた。
「何だ、それならそうと・・一時だけと・・」
「でも、此の家にいた子供に不幸があって亡くなったのは本当の事。遥か遠くからそんな事が見えたから」
礼は頷きながら、
「其れはそうと、君は此の惑星で言う「魔法」が出来るようだけれど、「惚れ薬」なるものも持ち合わせているのかい?」
と尋ねたら、ソフィアは笑みを浮かべ、
「其れは、聞かない事にしておく。でも、そんな魔法など無いわよ」
と笑みを絶やさない。
礼は頭を掻きながら、
「其れなら、僕は君の事は夢を見たと思うしかないね。。かなり早過ぎた恋愛の終焉だけれど。こういうの君の惑星では通用しないかな?」
と言うとソフィアは首を横に振り、
「いえ、愛情は永遠不変でも恋愛は人類の特許のようね」と。
礼が、「僕の早合点だった様だね?」
「いえ、実はあなたの事は遥か彼方から見ていたから、心が優しいし何より正義心が特徴。其れに少し私の好みだったから、其れがあって来たのよ。でも、私の惑星に貴方が住む事は無理」。
礼は天から来てくれた不思議な美女はやはり、
「素晴らしい」。
しかし、或る日の事、ソフィアの体調が悪くなった。
ソフィアは礼にこんな話をした。
「かぐや姫のお話って知ってるでしょ。あれって本当の事なのかも知れないわね。あれは月に登って行くんだけれど。少し話を変えてみれば、だって、ずっとこの惑星を見て来たんだから、そんなお話があってもいいんじゃないかな」
礼は、全国に伝わる羽衣伝説や浦島伝説なども満更・・と思ったのだが、其れは兎も角、どうしてソフィアがそんな事を急に言いだしたのかと何となくソフィアの様子がおかしい様な気がした。
ソフィアは礼の目を見て話した。
「私ね、身体の調子がおかしいの。其の原因は分かっているんだけれど。あなたに会いに来る前から、こんな事が起きるかも知れないとは思っていたけれど。だから、惑星でも、此方に来るにはいろんな問題があるって言われていたの」
ソフィアの説明では、惑星の環境と此処の環境が異なる為、適合に限界が生じるという事がメイン、そして、異次元移動や多重宇宙の遥か彼方から移動して来る事による疲労の蓄積もあるとの事だった。
礼は、
「という事は、もう君は此処にいると、身体を壊す事になるという事なの?」
と尋ねた。
ソフィアの最終的に打ち出した結論は、
「此のまま、此の星で何時の日か亡くなるか?やはり、帰らなければ」。
「残ったエネルギーを使い最後の帰還に賭ける。絶対と言う保証は無いけれど、可能性としては、惑星に帰還出来る・・かぐや姫の様に」
礼は、悲しかった。折角憧れた彼女と何時までもいられるかも知れないと多少はそう思った。
考えている時間は残り少ない。
そしてソフィアを愛しているからこそ生きていて貰いたいと思った。
月の綺麗な晩だった。
礼はソフィアに長い口付けをすると、
「此の星では、Danceを踊ると言う事があるんだよ。君と僕の出会いはすぐに終わったが・・。Danceを踊ろうよ!」
ソフィアも惑星から見ていて知っていた様だ。
広間のFloorには十分に踊れるspaceがあった。
礼がいろいろな曲を聴かせ、其の中からソフィアが気に入った曲を何曲か流しながら二人は互いの瞳を見ながらStepを踏んだ。
礼の流れる涙は空中に溶け込んでいった。ソフィアが記念にとHandkerchiefを。
無事帰還出来ても連絡はできないわ。多分」。
何時間そうしていただろうか。踊りまくり、二人は共に悲しみを紛らわす様。
帰還用の船に乗り込んだソフィアは庭に出ると凄い速度で消えて行った。
丁度月を横切る時に一瞬ソフィアの船が黒い点となり微かに窺え、空間が歪み始めた。
礼は流れ落ちる涙に滲む宇宙を何時までも見ていたが、思わず呟いた。
「Last Dance・・」
不思議な事に宇宙の彼方から礼の心に赤い灯りが点滅している。
無事帰還できたようだ。
一度だけ・・ソフィアの声が聞こえた。
「In addition, let's dance!」
見事なほどの夜の澄んだ空気は、どこにも逃げ場がない夏の熱気を含んだにしては、まるで嘘のように清々しかった・・。
「by europe123 original」
https://youtu.be/WOd05LXYI2g
Last Dance 1
二階に上がれば少女の姿。