オルゴールの音色
オルゴールの音色が箱から人の多い部屋全体へと伝わる。人々はその暖かな音色一音一音に心を馳せた。オルゴールを見るとかなり年季が入っているのが目に見える。だが、一目で大事にされた品だと分かる物だ。初老を迎えた、一人の男性がオルゴールへと近づいた。その男は目の周りに涙のあとがくっきりと残っていた。そして、ゆっくりとオルゴールの扉を閉めた。途端に暖かな音色はやみ、部屋はしんとした空気に包まれる。部屋の何もない様子が更にそれを引き出させる。男性は一つ深呼吸すると、右手に持っていた白い封筒を開けた。一瞬目元が緩み涙目になるがまた顔を引き締める。そして、ゆっくりと自分で書いた手紙を読み始める。
「親愛なる君へ
しばらく会えなくなってしまうね。君が大好きなオルゴール、忘れて行ったので送ります。ついたら向こうで聴いてください。しばらく会えなくなってしまうのはとても残念です。でも、そのうち僕もそちらにいくから、その時までに観光できそうな所を見つけておいてください。君と2人っきりで行きたいから、先にひとりで行かないでね。まぁ、当分先のことだと思うけど。なぜならすぐにはそちらに行く気は僕にはちっともないからです。気長に待っててください。
それと後一つ。プロポーズに使ったこのオルゴールを捨てないで欲しい。ずっと行きたくていけなかった新婚旅行に持っこうと思ってるから。
さて、こうやって宣言しちゃたからには何か用意しとかないとな。
楽しみにしててくださいね。
天国の君へ 夫より」
途中から涙声になっていたその声はやさしさであふれている。白い棺は彼女を載せて、ゆっくりと会場を去っていく。彼の声はオルゴールの音色よりも暖かな余韻を残した。
オルゴールの音色
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