森の椅子

 さながらに、死際の薄明が毀れているようだね、
 それしらじらと照る白い金属製の椅子であって、
 靄の霞の観念のふわふわと翳るような気味悪い森の内奥に、
 まるで、きんと硬質な無音を切り散らすように立っている。

 わたし その森に往ったことはないのだけれど、
 その内奥 霞む食えない翳の裡を夢と漂ったことがある、
 其処で椅子を視たことはないのだけれどもね、
 然しだ、その妄念にその椅子あるというのが今の想付なんだ。

 誰がいつや椅子に坐るのか いわく不可解、
 其処に坐る者はいまだなく不在、何故在るかも定かでない、
 唯 天空の瞼の蔽いの投げる陰翳を一途にみつめるようで、

 ──ご覧 わが夢想の裡で花剥かれる如く天空割れて、
 靄の枝先を徹すように 明瞭な線を曳くすべてを孕む光が、
 椅子の背に凭れ光線落し、金属砕け光に侍る──薄灯曳き伸びる。

森の椅子

森の椅子

  • 自由詩
  • 掌編
  • ファンタジー
  • 青春
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2023-01-25

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