シーンイメージ①
晒しています
滅茶苦茶なチート持ちが場を荒らしまくるやつ
登場人物
①茅野文也
……超能力者。門場の外付け良心回路。常に有給をボランティアに使い切っている。体は強いが超能力は戦闘向きじゃない。
②門場異空間
……超能力者。茅野の外付け悪心回路。NTR同人をモテテク啓発本と思っている。何でもできる邪悪なドラえもん。本名だけコンプレックス。
③化物
……のじゃロリ。田舎に住んでいる。読書家で、ブックオフに置いてあったSFを読んで思いついた方法で食べた人間の記憶を村全体から消していた。命乞い風の煽りで少女を揶揄おうとしたら内容を額面通りに受け取った門場に異世界に飛ばされた。被害者。
④墓前にいた女性→少女1(赤瀬)
……通りがかった門場異空間に悩みを話したら半日後には門場が過去に飛んで彼女の過去を滅茶苦茶に改変されて就職先が変わったうえ付き合っていた彼氏が別の人と結婚していた。少女2が帰ってきたから差し引きはプラスとは思っているが納得いってない。被害者。
⑤少女2
……化物に少女1を助ける代わりに食べられていた。実は未来の少女1が過去にタイムリープして化け物に立ち向かう流れが用意されていた。しかし少女1が通りがかった門場に偶然事情を話してしまったためモブに格下げ。名前すら出てこない。別に門馬がこなくても生き返っていたので被害者。
(中略)
「『あの子』のことは町の誰も覚えていなかったけど、私の日記だけじゃない、まあそういっても本当に証拠はないのですけど……。ごめんなさいね、こんな変な話急にしちゃって」
「ふーん、じゃあ過去に行って探して見つけたら助けておくって感じで、あとは流れで……」
女性が青年に聞かれて、何も書かれていないお墓に手を合わせている理由を話した後、青年は不自然に話を切り上げて自転車に乗って立ち去ってしまった。
遠ざかるその背中を見て女性は少しだけ腹を立てた。自分から話を聞きたいといった癖に。荒唐無稽な話を聞かされた瞬間、私のことを『やばい奴』だと思いでもしたのだろう、やっぱりガキのナンパだったんだと女性は結論づけて墓前を立った。
(まあ、自分でもありえない話をしているとは思うけど……)
自身すら記憶にない幼馴染が実在し、自分の身代わりになって皆の記憶から消えたなんて側から見えれば意味不明だ。実際、今の彼氏にはこのことは話していないし、言えば病気を疑われるだろう。
もうそろそろ、この『妄想』にも区切りをつけて私は前に進むべきなんだ。
彼女は最後に墓前にお辞儀をして歩き去った。
この時、青年が最後にいったセリフをよーく覚えていれば、と半日後に彼女は溢れ出す知らない記憶とともに若干後悔する事になる。
(中略)
「ということで20年くらい前に来たんだけどどう?」
「何故……さっきまで僕は消防車を洗っていたはずなのに、夢か?」
「理由はさっき話した通りなんだけど」
茅野文也は業務中に訪ねてきた門場に学校はどうした、と説教をしようと近づいた瞬間、周囲の景色が畦道になったことに困惑し、すぐに事情を察した。
門場異空間は「さっきそこで女の人が困ってたから」以外のセリフをまだ喋っていない。いつもの無茶振りであった。
「困っていたのならまあ許すが……」
こいついつか誰かを庇って死ぬだろうな、と門場は思った。
(中略)
さっきまで外で作業をしていたからか喉が渇いたな、と茅野が考えていたら
「はい」
と門場が冷えた缶ジュースを手渡してくるので「おお」とありがたく受け取り、茅野は何口か飲んだあと、
「これ美味いな」
「俺もこの味は初めて飲んだよ、未来だと売ってないし」
「は?」
「youtubeの懐かCMでこのラベル見てて飲みたかったんだよね〜」
「……これ、どこから持ってきたんだ?」
「そりゃもうそこの自販機から」
「うおお北里柴三郎が自販機に吸い込まれていった!」
茅野文也は自販機に駆け寄り中身を取り出そうと手持ちの諭吉を入れてお釣りを出してみたりと色々工夫をしたが無駄だった。この世にはまだ存在しない『北里柴三郎の千円札』が流通に紛れた瞬間だった。
「えっお札って昔は違う人だったの?」
まあ20年後くらいには使えるようになるから大丈夫でしょと言って呑気に門場はジュースを飲んでいる。いつもの調子に茅野文也は肩を落とした。
(中略)
「あなたたちだって豚や牛を育てて食べてるけど、流石に許可までは取っとらんじゃろう。ワシの方がいささか理知的だと思うがのう……ワシはか弱い。頼むからこの老女をいじめんでくれんか?ひひ、寄って集って、ひひひひひひ!」
そのように口はのたまって、宙に浮く大きな口は涎を撒き散らしながら笑った。まるで自分が被害者だとばかりの言い草に、少女たちは激昂し、彼女たちが何か言い返そうとした瞬間。
「つーことは、多分わざわざ人間を襲って食べなくてもよくなればオッケーってことでしょ」
その場にただ突っ立ていただけの門場が、まるでナイスアイディアとばかりに手を打って『口』に話しかけた。その後、近くに立って少女たちをさりげなく庇っていた茅野に「これは合ってるでしょ」などと確認を取り始めた。
「もうそういう話じゃない!アンタ今まで何見てきたのよ!頭おかしいよ!」
「えっ・・・」
赤瀬が怒りのまま怒鳴りつけると、門場は女子に罵倒されて心から傷ついた顔をして完全に固まってしまった。
そもそも、門場自体が、急に現れて『未来の君に頼まれて君の親友を救いにきたんだ、いるかもわからないけど』などと意味不明のことを言いながら突然学校に侵入してきた不審者なのだ。今『口』が垣間見せた邪悪さを見て何も思わなかった時点で、この男は信用に値しない。赤瀬は彼のことを頭の中から追い出し、『口』から目を離さないようにしながら茅野に小声で話しかけた。
「未来で、この化物が死にかけだったって言うのは本当のことなんですか?」
「ああ、コイツはどうやら恐ろしく慎重な性格をしていたが、それが裏目に出たらしい。変に人間を食べる前にした約束を守っていたせいで、山奥の社の神様だと『勘違い』されて『祭り上げられてしまった』せいで逆に信仰の対象になってしまったらしい。存在を忘れられた未来ではもはや自己を保つのがやっとの状態だったよ」
「じゃあ、今のコイツがこの場で暴れて私たちを殺し回る、なんてことも」
「恐らくない。こんな開けた場所で、しかもまだ日も落ちていないのに、物理的な証拠が残るような殺しは避けるはずだ」
「なるほど」
茅野の話を聞いて赤瀬は今後の動向を頭の中で組み立てていくが、この時彼女は大きな勘違いをしていた。赤瀬が茅野に出会ってからの彼の行動、すなわち限定的な未来予知や妖怪に対する造詣の深さ。そしてこの頼りがい!すなわち彼女は茅野のことを完全に強力な霊能力者だと思い込み、門場のことをその助手だと思い込んでいたのだ。実は茅野からは『口』が何処にいるかすら見えていないのだが……。
『口』はそのような彼らの滑稽な様子を感じ取ると、
(これならいくらか揺さぶりをかければ簡単に丸め込めそうじゃな)
といくつかやり口を考え始める。その精神は喜色に染まっていた。
「いやだってさ、今は俺たちの誰も食べられてないし、過去に食べられた人間に知り合いとかいなかったんでしょ?」
「小僧はこのワシに譲歩しろと人間が迫っているのか?」
「ええ……いや別」
「だが、話によっては考えてやっても良い」
『口』がその『口』に笑みを讃え、「面白い」と言いながら白けたことを言う青年に一『歩』踏み出して見せた。門場が「俺そんなこと言ってなくない?」とか「なんか俺の話っていつも無視されてない?」とか、茅野に困惑した顔で話しかけている。その知性のかけらも感じられない愚かな横顔に『彼女』は益々笑みを深くした。コイツが一番簡単に騙せそうだな。
「おい小僧」
「小僧って俺、え。……その、どなたですか?」
「さっきまでワシと話していたじゃろうに、小僧はなんというか愛いのう」
操りやすそうで。『口』が人間から奪って読んだいくつもの本。その話の筋には必ず美しい顔と肢体を持つ女が一人は登場した。彼女はそれを踏まえて美女にその姿を変じた。艶やかな髪を伸ばし、まるで和紙のように細やかな肌。目鼻立ちもまるで顔を用意して後から配置したかのような、左右対称の非人間的な整い方をしていた。
その文字通り作り物の顔には今のところ、『口』がどこまで口角が上がるのかを理解していないが故に狂気的に引き攣った笑顔が表示されている。
その笑顔を見て赤瀬たちの顔から血の気が引き、茅野が一歩前に出て警戒する。門場だけは「すげえ美人だ!!!!!!!」と言って顔を赤らめる。顔を褒めつつその目線は胸に向かっていた。
『口』はその人間たちの様子を見て余裕そうだと笑う。美しい笑顔は恐怖を掻き立てる。読んだ小説の知識の通りだった。実際、こちらを見ていた少女たちは怯えている。人間から学んだ知識は彼女を強くするとともにより狡猾で邪悪な存在に変えていた。を見て満足そうに顎を指で擦っていた『口』は、 さてここからどうしてやろうと作った脳を動かしていると、ふと微かな違和感を脳裏に捉え、すぐその理由に思い至った。青年だけが全くこちらのことを恐れていないのだ。
(まだ今の状況を理解してないのじゃろうか……?さっきもワシのことをただの美人扱いしておったし、とんだ馬鹿じゃな。自分で言うのもなんじゃが、目の前で化物が美女に変化して何も思うところがないのか?何で少女たちについてきてるんじゃコイツは)
門場は『口』が自分を見ていると思ったのか、まるで『口』が見せてやっているものと同じような大きな笑顔をした。ウインクさえしてみせた。まるで本当に何も考えていない門場の様子に彼女は呆れたが、そこに彼女の妖怪としての経験が何かを囁く。
(!……、これは笑顔じゃないんじゃないか?)
『口』が今見せている笑顔は、勿論人間が自然に浮かべるそれと違い、今それを見せようと意図して物理的に用意したいわば絵のようなものだ。しかし、そこには自身の餌に過ぎない人間が足を震わせながら自身に立ち向かってくるという『芸』を披露していることに対する愛おしさと軽蔑、まるで有頂天を極めた怪物としての自負。食事を目の前にした下品な期待感に、それでいて相手を激発させるための挑発など、さまざまな感情を意図的に込めて出力している。そこには化物なりの背景が滲んでいる。
しかし門場にはそれがない。壁にかかった鏡のように裏のない薄っぺらい笑顔からは何も読み取ることができない。
『口』の間合いを詰めるための芝居がかった歩みが、門場の笑顔に気圧され自然に止まる。そのことに気づいた『口』が門場に対して激怒する前に、視界の中の男がすぅ、と「え」横滑りしていく。
急に『口』の視界が廻り始めた。
「なっ」
体を下手に人間型にしていたのがまずかった。目から入ってくる情報と体の状態が合わず、『口』がその場につんのめって転ぶ。
慌てて地面に手をついた『口』は、門場の方を見やり、
(これは口でやり込めるなどと言っている場合ではない!)
と素早く判断して獣のように門場に飛びかかろうとした。が、何故か『どう動いてもその場から動けない』。この超常現象に『口』は生まれてから初めて発汗を経験した。
「ー〜ーーーー〜〜ーーー〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!」
汗に気を取られていたせいで、周囲の音が聞き取れなくなっていることに気づくのが遅れた。
道の両端に広がる田圃から空までを満たしていた蛙の声が高音に歪んでいき、今や金切声だ。いわんや人の声など。自分ではなく世界の方が回転しているのは人間たちの目の動きから分かるが、その場にいる人間も全員困惑の顔を浮かべており、事情が分かっているのは鼻の下を人差し指で擦って誇らしげにしている門場ただ一人。
『口』は門場を睨みつけるが、向こうからはもうこちらがほとんど認識できないようだ。
(ま、まさか向こうからはワシが高速回転しているように見えているのではなかろうな……)
羞恥で『口』の顔が赤く染まり、かつて一度も経験のない侮辱に視界も赤く染まる。
茅野は状況を理解し始めたらしく、門場の両肩を掴んで門場を前後に揺さぶっている。
『視界の回転が速まり、もう周囲の景色は殆ど線になった。『口』は自身を人間の体に押し込めたことの失策を嘆いた。脳から何らかの物質が産出されるせいで、自身の化物としての『格』とは無関係に不安が心の中を広がっていく。
その不安のもとは自身のこれからではなく、先程の門場の笑顔から生み出されていた。
(あんな笑顔、このワシにすら覚えがない、何であいつはあんな顔を私に見せたの!?)
彼女は『怪物』が本能的に過去に自身が食べた人間の顔をいくつも思い出し、心当たりを探った。それは
祓い屋がかつて『口』を発見して表出させた攻撃的な笑顔でも、『口』に生贄として捧げられた赤子が夢の中で未来に思いを馳せていた伸びやかな笑顔でも、この『口』が食した人間とした約束については必ず守ると確信したがゆえに最期に浮かべた安堵の笑顔でもない。
では『口』が取り込んだ人間の記憶にはあるだろうか?
少女が恋人に見せようと練習を重ねた美しい笑顔。違う。
習い事に行く子供を迎えに行く父親の草臥れた顔の上に思わずこぼれた笑顔。これではない。
遊園地に家族で来た子供に親が見せる心温まる笑顔。これでも……。
いくつもの笑顔を人間の人生と共に反芻していく中、まるで見逃しそうなつまらない場所にその笑顔はあった。
それはメリーゴーラウンドに乗った子供の、遊戯に飽いて内側の柱をただ無意味に見ている時の記憶。備え付けの鏡に映った笑顔だった。表情が心についてきていない時の、自身を騙すための笑顔が青年が出した笑顔に重なり、彼女の背筋が凍りつく。
あの男は私に会った時点ですでに飽きていた!
もう彼女の視点からは人物と風景の別はつかず、この後に何が起きるのかという不安と焦りはもはや完全に脳を支配している。少なくとも自分なら、飽きたおもちゃなぞどうしていたか。
その感情を消そうと身体を人から化物のものに戻そうとするが、その解除すらままならず、足から力が抜けてその場に座り込んでしまう。
「はぁッ、はぁッ」
呼吸がうまくいかず立ち上がれない。地面についた手に顎から汗が滴り落ちる。
「これは何だ?どうすればいいーー」
化物だったときには絶対にしなかっただあろう悪あがきで、その場から何とか動こうと這いつくばって手を伸ばした先から、何故か。
「おいっ、そのまま手を伸ばせ!」
「はぁ?」
長身の男が、降りることのできないメリーゴーラウンドの柵を無理やり越えてくる。
彼女が疑問を感じるより先に男は彼女の手を力強く掴んで、その瞬間に男と化物『と』世界は青年から放り出されて、
彼らは気がつくとそこら辺のスーパー農道に倒れ込んでいた。
「ぐ、ここは一体何処なのじゃ」
「危ない!」
長身の男が化物を咄嗟に歩道に突き飛ばして自身も同じところに飛ぶようにして転がる。そのすぐ後ろからトラックがまるで高速道路を走っているかのような速度で通り過ぎ、体が風圧に押される。
「何をするんじゃ!」
「『このパターン』はやばい、何処とか言ってる場合じゃないぞ化物……!」
長身の男は彼女が騒ぐのに構わず道の向こう側を見て呆然としている。化物も釣られて男の向いている方を見て「はぁ?」思わず声が出た。
一見、何の変哲もない普通の横に広い農道なのだが、そこに立つ信号機に色が2色しか備わっていないのだ。今は紫が灯っている。
よくよく考えてみれば今走ってきたトラックは逆の車線を走っていなかったか?
「なあ、ワシは知らなんだが。……信号機は2色のものがあるのか?」
「無いに決まってるだろ……」
青年の名前は門場(もんば)異空間(いくうかん)。学生。超能力者。彼は並行世界の自分と文通をすることができるが、送りつけるものは必ずしも手紙である必要がない。カセット、漫画、服。そして世界を送りつけることができてしまう。
超能力とは自身の能力の分を超えた力のことをいう。
化物は自身が最後に読んだ本の一節を思い出しながら途方に暮れていた。
彼らは、「じゃあ人間を食べても問題ない世界に行けばいいじゃん」くらいのノリで門場に別の並行世界にしまっていたのだ。
化物の足元に紫色の尻尾の生えた蛙が飛んできてガグ、と鳴いた。
シーンイメージ①