不意の麗人

不意の麗人

世の中分からない。

ピカソが最も恐れた画家「ジョルジョ・デ・キリコ」

 高速道路は下り線が渋滞の様だ。
 安形博は墓参りに地方迄行くつもりでいたが四連休明けにした。
 ガソリンの値段は兎も角新幹線は利用したくない。
 この四連休は本当に暇で仕方がない。
 市川雷蔵のDVDでも買おうと思ったが今時売っている店は無いし、仕方が無いからRentalDVD店で取り寄せ。
 休み明けに高速道路で行く事にしたが車なら一人では勿体ないと思うが親族は皆亡くなっている。
 増してや目的が墓参りだけに先ず一緒に行こうという者などいよう筈も無い。
 ところが家を出てすぐ。前方に手をあげている女性。
 着物を着た綺麗な女性だ。ヒッチハイクなど今時流行らないし、昔に較べ強制猥褻事件などが多い。
 通りすぎようと思った。
 しかしながら・・女性は笑顔で手を振っている。其れで、つい停止・・。
 女性はお辞儀をし。
「載せて貰えますか?」
 ウインドウを開け何方までですか?近くならお役に立てるかもしれませんが?
 身成からしおかしな女性では無いようだ。助手席に乗って貰う。
 あまり美人だから気がひけるがどうせすぐ降りるだろう。何処までいけばいいんですか?と。
 女性は笑顔を絶やさず。
「貴方・・お墓参りでしょう?」
 驚き車を止め、一体どうして?と尋ねる。
 女性は。
「ご一緒したらいけませんですか?」
 結構だが一体どんな仕組み?
 そうはいったところで、一旦走り出してしまえばあとは目的地まで行くしかないとの気がしてくる。
 まあ旅は道連れ。気楽に考えこんな美人と一緒に行けるならまあいいでは無いか。
 高速は空いていた。見ず知らずの女性にしては気を使う様な人では無い様だ。
 思い出したのは、家にいる時にDVDを見たく或る会社に電話をした。
 其の時に電話口の受付嬢。
「有料ですが偶に日曜など無料放送をする事もあります」
 其処で、有料なら時代物を殆ど見ており、レンタルに取り寄せ済み。勿体ない。
 其の女性が言うには、但し、アダルトと格闘技は有料です。
 博はそういうものは大嫌い。いや、時代ものを見てみたかっただけで・・どうも、有難うと電話を切った。
 其れが頭に残っていたからうっかり女性に。
「ああ、アダルトと格闘技は全く興味が無いので。其れにワクチンも五回接種済みですし、体質的に感染する事はないと思います。ただマスクというものがvirus感染を防ぐというなど根も葉もない噂・・全く科学的な根拠が無いので既に二年間ノーMaskですから」
 女性が驚きのあまり降りるのではないかと思うのだが頷く。
「ええ、分かります。私も同じ主義で今の政府も理論的な見解が無いですね」
 博とあまりにも考え方が同じで物事をよく考えている人だなと思う。
 それは誠に結構だが、墓参りに行くというのはおかしな話。
「何か、同じ霊園にお墓があるのでしょうか?まさかうちの墓に用事でもおありなど?其れとも何かのついででもがあるのでしょうか?」
 女性は、吉祥天に劣らず相変わらず微笑んだまま。
「そうですね。着けば其れで用事は済みますので・・」
 そう言われれば兎に角行くしかないと思う。行ってみれば女性の真意が分かるだろうなど勝手に思う。
 



 二時間も経った頃霊園に着く。
 元は此の町に住んでいたのだからと町の霊園に墓を設けたのだが、その後母が亡くなり家を解体し東京に引っ越した。
 戸建ての家に住んでいる時にはかなり昔の先祖の写真まで幾つもalbumがあり、少なくとも段ボール箱にして五箱程は。
 が、今の住いは狭いからと全部捨ててしまった。
 後になってから少しもったいないような気もしたが、置くところも無いのだから仕方がない。
 其れで、仏壇用に祖父・祖母の遺影・両親の遺影は最近のものでくっきり写っているが十枚ほど。
 毎朝仏壇に向かい鈴(りん)を叩き。
「有難う御座います」
 手を合わせ出掛ける。
 墓参りは遠くなってたし、一緒に行く親族がいなくなってしまったから一年に一度くらいしか行かなくなってしまっている。 
 本当は、毎朝仏壇を拝んでいるのだから其れで用は足りるのだが。
 まあ気休めの様なもの。
 両親の墓には本物の花では無く造花が色取り取りにいけられている。
 遠方から来るのだから、此れで無いと花が傷んでしまう。本当は造花では可哀想だが。
 彼女は何を思ったのか・・うちの墓を拝んでいるのだが・・。
 実は、同じ霊園内の此の近くにもう一つ墓があり、其処には祖父や祖母・叔父・叔母夫婦なども入っている。
 遠方から来るのだから其処にも寄り、花は無いが水で清め拝む。此の祖母の生前の口癖は。
「私が死んだらお墓参りに来てね」
 なのだが、何せ一族郎党死に絶えたのだから残った博も辛いところ。
 其れで、何故か彼女も同じ様に拝んでいるのだが・・その姿を見、捨ててしまった古いアルバムに確か似たような女性が写っていた?
 東京の港区麻布富士見町~今は白金あたりに曾祖父の豪邸があり、表門駅から裏門駅迄市電で一駅あった。
 母方の遠縁だからよく分からないが、他にも知らない人達が写っており、其れに・・結構な美しい女性が写っていたような記憶が。
 既に捨ててしまったのだから、何も証は無いのだが何かそんな気がしない事もない。
 其うなると誰なのだろう?今となっては知る者は誰もおらず。着物美人であれば二号さん?
 しかし、妻と二号さんが一緒に写っているというのも何だかおかしい。
 彼是考えても・・分かる訳は無い。
 女性とは其れぎりだと思ったのだが、どういうわけか隣に座っている。
 此れでは一緒に家まで戻る事になると思い、彼女の顔をそっと窺うが特段の反応も窺えないまま。
 吉祥天は微笑んだまま。まあ器量といい愛想といい申し分ないのだが。
 問題は・・誰?
 



 結局、其れから女性は一緒に汚い部屋に同居する事になった。
 理由などはどうでも良いだろう。
 DVDは見れそうもないが、とんでもない美女が毎日拝めるのであれば其れも悪くはない。
 いや望むところと言いたいのだが、博もそろそろ先達て(せんだって)の墓に入る事になるのも遠からずと。
 其れ迄暫しの間なら何でも良いではないか。
 アダルトと格闘技には相変わらずとんと興味はないし、人類の男女の身体にも全く関心は無い。
 女性の脳裏にも其れは伝わるだろうが。
 邪念を断ち、追善(先祖の供養をする事。)をするにあれば、何事もおさまらん。
 この世には仏も神もおらん。が、美しさとは永遠(とわ)に価値があるものと言えそう。
 女性の美しい微笑みが我に束の間の安らぎを齎し、というところで、突然、漱石が芥川を連れ現れた。
「離れればいくら親しくってもそれきりになる代わりに、いっしょにいさえすればたとい敵同士でもどうにかこうにかなるものだ。つまりそれが人類なんだろう。」
 
 




 一瞬、世界が幾ら広かろうとこの時代には自らしか存在しない。要は自らは人類にして人類にあらず。
 其れで、此の時代に吉祥天女の彼女が現れた理由が分かった。
「嫌な女も好きな女もあり、その好きな女にも嫌なところがあって、その興味を持っている全ての女の中で、一番あなたが好きだと云われてこそ、あなたは本当に愛されているんじゃありませんか?」
 今度は天女が紅の口に手をあてると。
「正にそういう事。よくお分かりね?」
 「くすっ」
 と笑った・・。
 
「by europe123 original」
 https://youtu.be/WOd05LXYI2g

不意の麗人

いた人がいなくなり、残るはただ一人。

不意の麗人

残された人は一体何の為に? 其れを、おかしいと思ったところで、何もおかしくはない。 其れで、吉祥天女が見えた理由が分かった。

  • 自由詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2023-01-22

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