ループ、ルーパー、ルーペスト

何もかも修正できてないけど許して

1.ループ

「あ?何見てんだ殺すぞ」
「ひえ・・・」
「やめとこうよアミ〜」

 私はうんこ座りで顔を上げる。目と鼻の先には私のクラスの委員長とその友達らしき女が連れ立って私の前に来ていて、私に何か注意をしようとしたらしい。私はそいつらにガンを飛ばし、しっしとジェスチャーをした。委員長は私の足元の明らかに土ではない黒い灰を見ながら何かいいタゲにしていたが、結局私のパーソナルスペースからどいて帰っていった。
 私は咄嗟に手の中に握って隠していたタバコに火を付け直すと口の中に煙を溜めて、肺に入れずにため息と一緒に口から吐いた。

「もう1年は校舎裏でタバコ吸ってるじゃねえか・・・」
 
 上を見上げると、桜が憎らしげに咲いている。私の体感時間で2年半。桜も見飽きた。吸い殻に落ちてきた桜の花びらが掠るのを目で追う。



ことの当初からここまで私がスレていたわけではない。

「君は間違って死んでしまったから転生させてあげる」
「イヤッホー!!俺はついてる!」
「はいこれチートね」
「よっしゃさっさと俺を転生させろ!」
「はい」

 それで次に気がついた時には美少女になって女子校に通うことになっていた。
 最高に舞い上がったし、最初の頃はいくつか性別が変わったことによる失敗もあったがすぐに慣れてお嬢様の仲間入りをしてウフフオホホと楽しく過ごせていた。
 それがおかしくなってきたのは、大体数ヶ月くらい経った頃。桜の木が完全に散ってしまわないことに気づいたあたりからだった。最初の数ヶ月分は時間がループしていることにすら気づけなかったが、一度気づくと何が起きているのかはすぐに理解できた。
 同じ教室で話す女子が同じ話を何度もしていた、と言うわけでもなく、同じテレビ番組が何度も再放送されているとかと言うこともない。ただ、いつまでも春が終わらない。
 淑女ぶって女の子たちの話に花を咲かせながら、授業を適当にあしらって、家に帰る。
 繰り返してるうちに段々と飽きてきて、タバコを買って吸い始めてからは一瞬だった。

 「思えば短い禁煙だった・・・」
 
 前世から数えても精々数ヶ月持たなかった。花びらに吸い殻を押し付けて、じわじわと焼け焦げるのをたっぷり観察してから学校をふける。今日は寄るところがあるから早めの帰宅だ。
 何『周』か前に文学女子ぶって買った詩集をブックオフに売りとばし、帰りにビデオをいくつか借りて帰る。微妙に年代が古いのかまだ見放題サービスが出てないのが現代人、というか子供の小遣いには辛い。
 家に帰り、ビデオを見ながら缶ビールを開けて中身を飲みながらいつの間にか日課になってしまった4月のカレンダーへのバツ付けを行う。いつの間にかこのバツマーカーが消えるのがループの合図だった。
 うますぎる話には裏があった。私をどうしてこの世界に転生させたのか、今となってはあの存在との話が私の思い込みだったのかもわからない。記憶は繰り返す4月とアルコールの向こうにぼんやりと残るだけだ。
 半分以上飲み切った缶ビールを大きく傾けながら適当に借りてきたビデオを見る。あまりにも適当に借りてきたから、全く知らない主人公が身内を斬りながら泣いている場面が映っても、前後関係が全く話がわからない。好みじゃないので消す。ついでに電気も消した。
 この体になって、たまに酒を飲んでもよく寝れない時が来ることがあったが今日がその日だった。学校の裏でタバコを吸っていても結局学校を退学になることもなく、教室の友達に特段排除されることもない。自然な時間経過と進まない日々、特別なイベントもなくただ毎日を過ごすだけ。
私は美少女だったが、周りもみんな美少女だった。『俺』は日常系の世界に閉じ込められて生きている。

「いや酒の飲み過ぎで血撒き散らして死ぬよりはマシだろ」

 私はどうでも良くなって寝た。



2.ルーパー
 
「あ?何見てんだ殺すぞ」
「ひえ・・・」

 この女、委員長とは良くこの書店で出会った。何度も繰り返す四月の中、私は中古本屋での立ち読みという趣味を発見し、特にループが終わる直前には学校もサボって一日中漫画を読んで過ごす。店のババアも別に気にしないのか、不良学生を学校に通報することもない。朝にお気に入りの漫画を見つけたら店の奥の平積みにされてる専門書の上に座り込んで読んで、昼に出てって適当に飯を食ってまた戻って漫画を読む。
 そうしているうちに夕方になっていたらしい。いつの間にか私の横には委員長がいて、私を見て意を決したような目でこちらを見ながら歩いてきたのでガンつけて先制攻撃をしておく。が、いつものように彼女は引き下がることなく私に話しかけてきた。
 
 「そ、その本……!」
 
  なるほど、どうやら私の尻に敷かれてる本がお目当てだったらしい。

 「ああ、すまん」

 私は立ち上がって平積みにされている本の上から2冊目をとってから渡してやった。またマンガを読む体制に戻って数ページめくって、首を回すとまだ委員長がいた。
 
 「あ、何でまだいんの?」
 「あ、あの!何でミキさんはあんな悪ぶってるんですか!?」
 「あ゛あ゛!?」
 「ふょえ!?」
 
 反射で威嚇してしまったが、『悪ぶっている』という台詞は意外と面白かった。私としては『俺』だった頃の生活習慣をそのまま再現しただけなのだが、委員長には私が悪ぶって背伸びしているように見えるらしい。見る目がある、と思った。

 「……確かに、敢えて目につくとこでタバコ吸う必要はないわな」
 「いや普通はタバコを吸ってはいけないと思うのですが……」
 「ま、今日のとこは別にいいだろ?さっさとその本買って帰れ」
 「いいえ、今日は何というかあなたが素直なので逃しません!今日中にタバコとあとお酒をやめさせてみせます!」
 「酒も!?ていうか酒飲んでるとこ見たことないだろ」
 「いやあなた二日酔いで学校来るじゃないですか……」
 
 委員長はそういって私の腕を取ると、本棚から立ち上がらせ小っ恥ずかしく手を繋いだまま店のレジまで連れて行くと、自分の買い物を済ませた。レジでお金を出している瞬間も委員長は私が逃げていないかずっと監視していた。

 店を出ると委員長が話しかけてきた。
 
「あなたには今日から禁煙をしてもらいますからね!次に喫煙しているところを見たら何言われても流石に先生に言いつけますよ!」
「いいよ」
「えっ……、……もしかして私別人と話してます?」
「そうだよ」
 
 あまりにも適当に私が返事をするので委員長が肩を落としている。
 別に禁煙を守ってもいい。
 まあ今日が『最終日』なのだから今日の約束も明日には無効だろうからな。
 彼女の手に下げた紙袋に目をやると、委員長が怪訝な顔で見返してきた。

 「何です?」
 「いや、高一で国家資格の勉強か?『看護師』って高校でても試験は最短4年後だろ」
 「な、私が何目指してたって……妙に詳しくないですか?」
 「あ〜、読む本がなくなって何でも読んでるんだよ」
 「その集中力を学業で発揮して欲しいですけどね……」

 前世の『俺』の職業のことだったからつい口をついて知識が出てしまったのを誤魔化す。
 でも、委員長は明日のために資格の本を買ってるのか。私は明日には先月なのに。
 この世界の人間に私が同じ質問を同じタイミングで話しかけても同じ返事が返ってくることはな
 い。この世界でループしているのはきっと私だけで、他のみんなは明日に進んでいるんだろうと思うと気持ちが落ち込んできたので、ポッケからタバコを取りだして吸うふりをして委員長を揶揄う。
 それを見た委員長の力の抜けた様子にハハハと笑っていると、道路の向こう側にあった公園から赤いボールが転がり出て、それを追って子供が公園から歩道に出て、縁石につんのめって、道路の先を私が見ようとした瞬間には私の隣に歩いていた委員長が紙袋を私に投げ捨てて道路に飛び出た。

「おお、やるじゃん」

私は委員長の反応の速さと決意に満ちた顔をこの体に備わった超人的な動体視力で追いながらつぶやいた。まあ新入1ヶ月で校舎裏でヤンキーどかしてタバコ吸ってる私に注意する奴だしな。なんだかんだ度胸はあるんだろう。胸もあるしな。
 彼女は子供を守るように抱えると少し飛び上がって車のバンパーに乗るようにぶつかった。そしてそのまま車が止まると慣性の法則に従って1メーターくらい先まで転がった。子供も固まって動かない。

「おいおい」

当たりどころが悪かったら助骨の一本くらい折れてるだろうか?これで入院して、っていうのはあんまり日常ものじゃ見ない展開だな、と思いながら歩いて委員長が倒れてるところに近づいていくと、彼女の長髪から伸びる影か何かだと思っていたものが血と何かの混合物だと気づいた。

「…………はあ?」

近づいて肩を軽く揺すって委員長から返事が返ってこないことで、私の思考が止まる。汗が顔から溢れる。夕方が山の向こうに終わり、どうせ明日で先月に巻き戻るのに私は公衆電話を探そうと顔を上げて、もう一度呆然とした声をあげることになった。
 桜並木から落ちていた桜の花びらが舞い上がって、木を取り巻いて回っている。地面に汚らしく散っていた桜の花が枝に巻き戻っていき、その薄紅色のカーテンの向こうで太陽が戻って空が青色に変じて、

 それで次に気がついた時は美少女になって学校に通っていた。



2.ルーパー

「あ、何見てんだ死ぬぞ」
「ええ?」
「やめとこうよアミ〜」

校舎裏でガンを飛ばし、私に話しかけた委員長に忠告をする。
ループしてるのは委員長だった!
久しぶりに真面目に授業に出て、半年間委員長の行動を監視していると、いくつかの事実が浮上してきた。
 まず、こいつは私と生活圏が似てるわけじゃなかった。完全に同じスケジュールを繰り返していただけ。次に、彼女にある話題をあるタイミングで話しかけると、必ず同じ反応を返してくること最後に、彼女は最終日に本屋に寄って夕方店を出て、公園から出てくるガキを庇って死ぬ。このことから、この世界で真の意味でループをしている人間は私ではなく彼女であると分かった。
 この事実が判明してのち、私は久々に淑女に戻って委員長に接近し、帰り道に帯同して色々と試し、ループを抜けようと工夫した。具体的には

 ①子供が落としたボールを拾って歩道に出てくるのを押しとどめて事故を起こさない。
 ②委員長を本屋で引き止めて、外で事故が起こってから店を出る。
 ③事故の時に委員長を止めて私が子供を助ける。

 と誰かを生かして誰かを殺すパターンを最初の全滅パターンも含めて全て試したが、いずれもうまくいかない。彼女を助けても、彼女と一緒に呆然と春嵐を見る羽目になるだけだった。元々あんまり考え事は苦手な方だった私はこの時点で手詰まりとなって。何とか考えて考えて、

3.ルーペスト

「おい、委員長」
「何ですか?」
「ちょっとツラ、貸してくれねぇか」

 私はナイスアイディアを思いついたのだった。かくかくしかじか。



「・・・ちょっと、信じられない」
「まあそうだろうな、私も正直、あんまり信じてもらおうと思って言ったわけじゃない」
「じゃあ何でこんなこと私に言ったんですか!正直、私はあなたとの友達関係を考え直そうか考えているところです」
「何度も委員長の命を救っているのは私だが?」
「話が本当なら同じだけ見殺しにしてるでしょ……、私が死ぬってのたまってるのは…………まあ許します。でも、私に子供を『見殺しにさせた』なんて!」
「せいぜい本屋で委員長に話しかけてトイレの場所聞いただけだよ」

それで彼女が店を出る時間を数秒時間をずらすだけであのガキは普通に車に轢かれた。

「言っとくけど、お前は轢かれたら死んだけどあのガキ捻挫しかしてねえからな」
「ええ・・・私、もしかして弱すぎ・・・?」

実際は子供が轢かれると彼の足は両方とも変な方向に曲がっていた気がするが、別にそのことをわざわざ言う必要はない。

「で、聞きたいのはこのループを終わらせる方法だ。何か心当たりとかないのかあんたに」
「あるわけないでしょう私に、逆にあなたには何か心当たりとかないんですか?」
「もちろんない。ただ、委員長だけが私の干渉なしだとこの1ヶ月全く同じ道筋を歩くのは確かだ」
 
 私は至って真面目な顔で答える。と、委員長がこちらを見て、どうにか真贋を見極めようとしている。私の真剣な目を見返してきた委員長がじっと数秒したあと、ふっと目を逸らす。

「……やっぱり信じられない」
「別に『今回は』信じなくてもいいよ、それに信じてもらえなくたっても手伝ってもらう算段もしてきてる」
「……まさか私の秘密を握ってるとか言うんですか?」
「いや、委員長、看護師、目指してるだろ」
「えっ……、それこそ何であなたが知ってるの」
「最終日に委員長が本屋で試験の本を買ってくんだよ必ず、それを私は勉強してきた」
「何が言いたいの?」
「私ならその試験範囲を完璧に教えることができる」
「看護婦を看護士と言い間違える人に?」



一周



「大体、日常系って何?」
「あ?委員長アニメとか見たことねえの?」
「家だと1番しか見せてもらえないから」
「はーん・・・」

言われてみればいかにもって感じ。この分じゃ門限も早そうだな。

「どうせ3週間後にはリセットされるんだからちょっとぐらい遊んでもいいだろ」
「でも……」
「今日ウチ来いよ」

二周。

「あの、これって……」
「あ!?なんか文句あんのか?」
「い、いえ!とても面白かったわ、ただ、その、ストーリーがよく掴めなくて」
「そんな複雑な話じゃなかっただろ『石子と化女』」
「ええ、私と同年代の子たちがボーリングをして出てきた化石を部室に飾ってるって言うのはわかった、けど」
「けど?」
「その、お話って、まず始まりがあって、山場があって、その山場を経て主人公は語り手の決断や成長があって終着するものでしょ?」
「少なくともこのアニメにはねえな」
「ええ・・・?」
「それに、もし作者が終わりを書いたら私は作者の家に行って続きを書かせる」
「終わらないのが魅力だからな」
「化石は・・・?」
「興味ねえなあ」

 委員長が理解不能といった顔をしていたので同じ顔を私もし返して一緒に笑った。

三周。
四周。
五周。




 一緒に風呂に入ると湯船が溢れる。

「今更あなたの言うことは疑いませんけど」

 秒単位で委員長の過去を握ってる人間を彼女はジト目で見ながら湯船に肩を沈めていく。

「実際ループを打破する方法わかったんですか?」
「全っ然分かんない」
「探す気あるんですか?」
「あるけど〜、でも来週温泉行きたくない?その次は北海道行く気だし」
「それ私結果的にどれか一つしか経験できないんですけど?」
「それはごめん」
「私はあなたと温泉にも北海道にも行きたいです……」

 彼女が少しだけ落ち込んだ声を出し、それが風呂場に反響してやけに寂しく響いた。
 とはいっても、最初の4パターンをシチュエーションを変えてちょっと試し直した後は早々に検証をやめて委員長と遊び回るようになってしまって、とっくにループを抜けることは諦めてしまっていた。酒とタバコをやってた時と私は変わらない。楽で楽しい方にすぐ流れてしまう。前世から変わらない私の悪癖。

「委員長の黒子の数すら知ってるのに、委員長の過去にヒント何もなかったんだよなあ」
「もう……そういえば、私はあなたの過去のこと殆ど知らないですね」
「うっ」
「私だけ知られてあなたが話さないのは不公平じゃないですか?」
「うーん」

 といっても『私』には文字通り過去なんてないのだ。女子高生になって入学するところがスタートなのだから、そう考えると私の人生は異常に薄っぺらいんだなあ。

「あなたが看護婦を目指そうと思った理由って何ですか?あなたも看護婦を目指してるんでしょう?」
「あ〜」

 実際は看護師だったんだが、そこら辺をしっかり話すといろいろな矛盾が出てしまうだろうと適当に誤魔化していた。こればかりはある理由があって隠さざるおえないし。
 それに自分から昔のことを話すのはちょっと恥ずかしいが、もう恥ずかしいだけで自分のことを隠すような仲でもない。


「私さ、子供の頃に車に轢かれたことがあるんだよ」
「そうなんですか!?」
「うん、でその時すっごい痛くてさ、ギャン泣きしながらその場でのたうちまわってたら近くにいた女の人が私のことを手当てしてくれたんだよ」
「それで看護婦を目指すようになったのですか?何かのお話みたいで良いですね」
「まあそれはそうなんだけど、実際のところそこじゃないんだよ。その女の人看護師だったかも結局わからないしね。私を手当てするとき『ごめんね、ごめんね……』ってずっと言ってて、それが印象に残ってさ」
「どう言うことですか?」
「いやそれは私もよくわからない、結局その時にしか会わなかったし。ただ、当時の私は彼女が私を助けられなかったことを謝っているんだと考えてた。ただ事故現場に居合わせただけなのにそこまで責任に思うなんてなんて優しい人なんだろうって思って、そう言う人間になりたいって思ったんだ」
「へえ、人に歴史ありですね」
「いえ、少しあなたに詳しくなれて良かったです」
 そういって彼女は気恥ずかしそうにはにかんだ。
 彼女が私のことに詳しくなっても、来週にはまた彼女とは知り合うところに戻ってしまう。私は彼女に上手く笑い返すことができず、風呂場に無音が反響して息が詰まる。彼女が気まずさから慌てて適当な話題を振ろうとする。

「でもそれってあなたの言う話のシチュエーションに来週の事故はそっくりですよね」
 
 まあ性別違いますから全然違うんですけど、彼女は何の気なしに言ったが。

「嘘だろ……」

 彼女がその話題を振った瞬間に、私は遠くに消えていった『俺』の記憶が一気に脳の裏で閃いていくのを経験していた。全ての点が荒唐無稽につながり、ループを打破する手段すら思いついた。

「どうしたんですか?」
「その、ループを打破する手段が分かっちゃったかも」
「えっ!」

 委員長が湯船の中からびっくりして立ち上がって私に詰め寄った。

「お、教えてください!」
「その前に……、あの、一つ話しておかなければならないことが……」




「私、男の人とお風呂に入って……」
「いや、今世は女性だから……」
「……妙にお風呂に一緒に入りたがってたとは思ってたんですよ、ガッツリ男性の性欲由来じゃないですか」
「それは本当にごめん」

私と委員長は本屋の前で待機していた。学校は一緒にサボって、今日一日いろんなことを話しながら時間を潰していた。

この世界が本当は何だと思うか。私は何者なのか?それに、もし次旅行に行くならどこに行きたいか。

「あと看護婦って後何年かで看護師に名前変わるから今のうちから看護師っていう練習しといたほうがいいかも」
「でも看護士って同じ音で言うし誤解を招きません?」

この世界は日常系アニメの世界ではなかった。
まだ1話も始まってなかったんだ。
このお話の主人公は俺だったんだ。俺の人生なんだから。

「じゃあ、今から出てくる男の子はあなたの子供の頃で、これから車に轢かれて私に手当てされると看護婦、いや看護士を目指すってことなんですよね?自分で言ってて頭痛くなってきました」
「そう、それで『私』と『俺』が繋がっている先に進めるようになるみたい」
「私正直関係なくないですか?」
「いや……」

委員長も主人公なんだ。私は結局彼女に再会しなかったからわからないけど、子供の頃の『俺』を助けたことはきっと彼女に何らかの影響を与えたんだろう。その二つが揃って初めて『最初』の条件が揃うんだろう。
話の内訳を考えているうちに公園からガキ(というか私)が飛び出してきて間抜けにも車に轢かれて両足があらぬ方向に曲がってギャン泣きする。我ながら馬鹿だなあ。

「『ごめんね』って当時は聖人だからいってると思ってたけど、わざと轢かれるの待って手当てしてるんだからそりゃあ言うよね」
「言ってる場合じゃないでしょ!」

私の横から委員長が走り出して応急手当てをするのを何もせず見ていた。
もう桜の花びらが舞い上がったりはしなかった。



『第一話 俺が看護師を目指したワケ』




「……あれ?」

『俺』が私につながると言うことはこのガキは将来血反吐撒き散らしながら肝臓をやって死ぬと言うことなのではないか?

「いかんこのままだとあのガキが死ぬ!」
「な、この手当てだけじゃ足りないんですか!?」
「いや肝硬変で血反吐撒き散らしながら死ぬ!」
「ええ?」

私はバッグから缶ビールを取り出すと口に含んでガキの傷に吹きかけた。痛みでトラウマになれ!

「何やってるんですか!?」
「グゥ!?」



『第二話 よく考えたらお酒を飲まないようになったら私に転生しなくて世界から消えるのでは?』
 続かない。

ループ、ルーパー、ルーペスト

ループ、ルーパー、ルーペスト

  • 小説
  • 短編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2023-01-19

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