春が来るまでおやすみ
国王よりの使者を迎え、三人の寝ぼけた魔法使いはあきらめ混じりにため息をついた。
一人の名は空腹
一人の名は眠気
一人の名は寒気
銀の星のアップリケを縫いとった黒衣をまとい、漆黒の三角帽子を目深にかぶり、煮えたつ鍋に薬草を投げ入れ、柄の長い鉄のスプーンで掻きまわす。
魔法の書物が飛んでくる。おどろおどろしく手をかざし、ノームは叫べ、ウンディーネは踊れ、サラマンダは沈め、さかまく雪と濡れそぼる炎の精霊よ、と、逆さ呪文を唱えては、片足靴屋がせっせと運んでくる品々を、巨大な鍋に手づかみで投げ入れる。
ひきがえるの爪とかぶとむしの舌、とかげの尻尾と魔女の羽。ありとあらゆる奇妙なものを手当たり次第に投げ込んで、おぞましい沼の色のあぶくをぶくぶく立たせ、しまいにそれらの乗っていた銀の盆で蓋をする。
とろ火で煮込んで蓋を開けると、鍋の中身はすっかり透きとおり、蜜の匂いの水薬の出来上がり。
三人の魔法使いはその出来栄えに満足し、片足靴屋の一人とカルタで遊びながら退屈そうに待っていた国王の使者に薬を渡した。
使者はこれよりその薬を持って、東方の山守のところへ赴き、春を呼ぶ儀式を待つ間、また長く退屈な時間を過ごさなくてはならない。が、それは三人の魔法使いの知ったことではない。
面倒くさそうに魔法の岩屋を後にし、馬にまたがる使者を見送ることもせず、三人の魔法使いは熱くわかしたミルクを飲むと、気持ちよく乾いた暖かい毛布にもぐりこみ、春が来るまで二度寝を決めこんだ。
おしまい。
春が来るまでおやすみ