奇想詩『サイゼリヤの間違い探しはいささか難しすぎる』

奇想詩『サイゼリヤの間違い探しはいささか難しすぎる』

僕はドリアとハンバーグが出来上がるのを待ちながら


サイゼリヤの天井に描かれている絵画を見つめている


二人の天使が肘をついて


気怠そうに上を向いている


あいつらも何かを待っているのかもしれない


と僕は思う


その天使たちはラファエロ・サンティの


『システィーナの聖母』の一部だということを


僕は知らない


それから僕の視線は別の絵画へ移る


貝殻の上に立っている女の裸体を見つめる


とくにその左乳房を見つめる


それがボッティチェリ作ということを


僕はもちろん知らない


キッズメニューの裏面にある間違い探しを始める


これはいささか子どもには難しすぎる


と僕は思う


間違い探しを中断してトイレに行く


トイレは空いていない


僕はトイレからすこし離れた場所で空くのを待つ


なかなか出てこない


必要以上にゆっくりと内側からドアが開き


制服姿のカップルが警戒しながら出てくる


僕と女子高生の目が合う


男子高生が申し訳なさそうに


女子高生の手を引いて去っていく


個室の中はとくにこれといって


おかしな匂いはしない


僕は座って小便をしながら


さきほどの裸女の左乳房を思い出す


それから気怠そうな二人の天使のことも


座席に戻ると


注文したドリアとハンバーグが用意されている


すこし冷めている


高校生カップルが楽しそうに間違い探しをしている


僕は背もたれに頭を預けて天井を仰ぐ


目を閉じる


店内は皿やらスプーンやらナイフやらが立てる


小気味良い音で満たされている


それからフランダースの犬の最後みたいに


二人のアンニュイな天使たちと共に


僕が天に召される様子を想像する


間違い探しのキッズメニューを片手に持ちながら


天井をすり抜けてサイゼリヤの真上に出る


高校生カップルがちょうど店から出てくる


彼らは僕に手を振る


僕も彼らに手を振り返す


間違い探しの最後のひとつを


彼らが教えようとしている


天高く登っていく僕には


彼らの声は届かない


僕は彼らの唇の動きを読む


〝あんただよ〟


たぶんそう言っている

奇想詩『サイゼリヤの間違い探しはいささか難しすぎる』

奇想詩『サイゼリヤの間違い探しはいささか難しすぎる』

  • 自由詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2023-01-17

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