奇想詩『さようなら全てのモーガン・フリーマン』
甥っ子のレンくんはルイ・アームストロングのことを
モーガン・フリーマンだと言った
どうやら彼の中では肌の黒いおじさんはみんな
モーガン・フリーマンということになっているらしい
それがたとえマルコムXだろうとマーヴィン・ゲイだろうと
あるいはネルソン・マンデラであろうとも
レンくんにとって彼らは全員
モーガン・フリーマンなのである
このまえ試しにレンくんにセロニアス・モンクの写真を見せたら
やはりモーガン・フリーマンと答えた
ボボ・ブラジルもアル・グリーンもモハメド・アリも
ことごとくみんなモーガン・フリーマンだった
じゃあこれはどうだろうと思い
松崎しげるの写真を見せてみた
レンくんはすこし迷ってから
フリーマン とだけ答えた
たしかにレンくんの言う通り
松崎しげるはフリーマンだ
あの自由奔放な人柄はまさに自由の男だ
少なくともレンくんの中では
なんでもかんでもモーガン・フリーマンというわけではなくて
そこにはある一定の判断基準が設けられているようだった
どこまでがモーガン・フリーマンで
どこからがそうでないのか
モーガン・フリーマンと非モーガン・フリーマン
松崎しげるはその二項の中間に位置しているのかもしれない
僕はレンくんのことが大好きだ
でもレンくんが大人になっていくにつれて
エントロピーのように増大していった
無数のモーガン・フリーマンたちは
もはやモーガン・フリーマンではなくなっていくのだろう
ジェームズ・ブラウンはジェームズ・ブラウンに戻り
デューク・エリントンはデューク・エリントンに戻っていく
そうやってレンくんは彼らに別れを告げる
さようなら全てのモーガン・フリーマン
奇想詩『さようなら全てのモーガン・フリーマン』
月刊ココア共和国2021年12月号掲載作品(傑作集)