奇想詩『強制逆痴漢戦法』
大きく腕を振りながら歩く女性がいる
振った腕がちょうど後方に来たときに
その女性の手の位置に自分の股間をもっていく
すると(きっと痛いだろうが)股間を触ってもらえることになる
これは言うなれば強制逆痴漢戦法である
この強制逆痴漢戦法を学べるという道場が
とある人里離れた山奥に存在しているらしい
というウワサを隣室の薄い壁の向こうから
夜な夜な聞こえてくるニートの独り言で知った
僕は童貞なので さっそくニートの情報を頼りに
嬉々としてそのマボロシの道場へと向かった
鈍行電車を二本と路線バスを一本乗り継いで
〝道場前〟というバス停で降りた
マボロシの道場はぜんぜんマボロシなんかじゃなくて
バス停のすぐ近くの山道の入口にポツンと建っていた
大きなトタンの看板には
〝秘技 強制逆痴漢戦法〟と手がきで書いてあった
僕はそこで一週間泊まり込みで修行した
宿泊費と修行代で三万円取られた
アパートに帰ると
ニートの住んでいた隣室が空き部屋になっていた
ニートはわいせつ行為で警察に捕まったらしい
と大家さんと近所の人が話しているのを聞いた
だから僕は習得した強制逆痴漢戦法も
ニートのことも
そして三万円のことも
きれいさっぱり忘れることにした
夕飯におでんを食べた
おいしかった
奇想詩『強制逆痴漢戦法』
〈あとがき〉
痴漢ダメ絶対。
月刊ココア共和国2021年7月号掲載作品(傑作集)