寒九の雨

 山羊の角をもつ、きみ。雨に濡れたアスファルトに、信号の色が滲んで。しらないあいだに、この国はすこしずつ、病んでいるのだと、だれかがインターネットで発信して、拡散されて、じわじわとほんとうに病んでいっているようだ。街は危険がいっぱいだと、わにさまが言っていたのを思い出して、山羊の角をもつ、きみが、おびえながら街灯テレビをみている。となりの街は、無人となったビルに植物が群生し、日々、ジャングルめいてきている。わにさま、という存在が、いまも、ぼくときみのなかで生き続けていることが、まるで、時代遅れみたいに、世間は、つぎつぎとあたらしいものにとりつかれている。遠くの景色がときどき、霞んで見えるのは、森林破壊がすすんで、空気が澱んでいるせいだろうか。きみのような半獣人が殖えてきていることは、でも、わるいことではない。

 午後九時。
 インフルエンサー的なひとがとなえる、愛と平和。

寒九の雨

寒九の雨

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2023-01-16

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