ぼくと。
僕は、君に言いました。
「ずっとこのままでいたい」
君は、泣きそうに優しげな笑顔で言いました。
【それは、難しいです】
それは一ヶ月前の話
ある人が言いました。
「なんてことだ、このままでは全てがなくなってしまう」
また、ある人が言いました。
「解決策はないのか。なにを作っても変わらないなんて!」
また、別の人が言いました。
「砕けないことはないんだ。ハイリスクだから、できないだけなんだ」
そして、誰かがもごもごと口にして、隣の若者が声を張り上げました。
「あの方を頼ろう」
最初の人が狼狽えました。次の人が納得しました。最後の人は悔しそうです。
「方法は簡単だ。しかし、心が痛む方法だ。我々はあれを使わねばなるまい」
見回してから口にした言葉を、若者がもう一度繰り返しました。
彼らは、あれと聞いて深い溜息をつきました。
*
泥で作られた家が並んだ大通りがありました。思い思いの形をしており、住人が気に入っていたことがわかります。しかし、そこはおかしな場所でした。しなびた花、寂しげな置物が鎮座し、並べられていたのか果物の粕が棚の近くに転がっていました。人が祈る神殿も、人が集まる市場も、人が憩う広場も。人がいませんでした。
防壁の中で日々住人の声が聞こえていた、そんな立派な街なのに。
【寂れてますね】
彼は、存外に響いた声に驚いて耳がピンと立ちました。四方八方に鋭い聴覚が向けられ、様子を探ります。やはり、いませんでした。匂いも、気配も、音も。ここにいたはずの彼らは、やはり一人もいないのだと教えてくれました。
【私は、ここに呼ばれたはずなのですが】
独り言の多い彼は、つぶやいて首をかしげました。彼の記憶によれば、ここの市長に「頼みごとがあるのだ」と懇願されています。しかし、どれほど見回したところでなにがあるわけでもありませんでした。強いて言うなら、風が吹いてゴミがかさかさと飛んでいったぐらいでしょうか。門の前に立っていた彼は、大きく伸びをして入ることにしました。
中央の広場を通り過ぎ、最奥の一番大きな建物が見えたとき。その重い扉だけが彼を迎えるように開いていました。
明るい陽射しも中にはそれほど届いていません。宵闇の中、彼は目を使わずに耳と鼻と肌で様子をさぐります。大きな建物、神殿の奥。彼らが日常拝み祈り人が絶えない場所であるのに、そこに姿はなく、そのかわりに置かれているものに気づきました。
小さなもの。
もしかして。彼は急いで生き物へと向かいました。
近づけば近づくほど、その疑惑は確信へと近づきました。彼は、賢いのです。市長の頼みごと、というものに予想がついていました。
「……あなたがカミサマ?」
予想を裏切ってほしかった。しかし、そこには彼の予想通りのものが置いてありました。
ぼくと。
とある曲がモチーフになっているセカイ系の短編です。これをもとに漫画も描く予定なので、いつになるかわかりませんが描けたらリンクするつもりです。