奇想詩『幽霊のウンチ』
ぼくは昔
幽霊のウンチを買ったことがあります
というか
買わされた
と言ったほうがいくらか正確かもしれません
通学路を少し外れたところにある
行きつけの公園の道端で
アロハシャツを着た歯ぬけのおじさんが
ブルーシートを広げて座っていました
ブルーシートの上には汚い字で
〝幽霊のウンチ 五十円〟
と書かれた紙が一枚だけのっていました
ウンチらしきものはどこにも見当たりませんでした
「なあ、坊主、買うてくれんか」
歯ぬけのおじさんがぼくに声をかけてきました
そのときのぼくは坊主なんかじゃなくて金髪でしたが
おじさんはぼくのことを坊主と呼びました
「一個だけでええねん、頼むわ」
おじさんによると
亡くなった奥さんが夜中に幽霊になって出てきて
トイレにいってウンチを残して消えるそうです
ウンチを買ってあげないと
死んだ奥さんが成仏できないそうです
なのでぼくは駄菓子を買うためのなけなしの五十円で
幽霊のウンチを買ってあげました
あの日以来
おじさんの姿を見ることはありませんでした
ぼくが幽霊のウンチを買ってあげたので
奥さんはちゃんと成仏できたのかもしれません
あるいは
あれはおじさんのウンチだったのかもしれません
奇想詩『幽霊のウンチ』
月刊ココア共和国2021年6月号掲載作品(傑作集)