奇想詩『月の地震』
夜中に目が覚めた
窓にはまん丸の月が出ていた
月は揺れていた
月で地震が起きている
地球上でこれまでに起きたどんな地震よりも
静かで巨大な地震が月で起きている
そのせいで僕は目が覚めてしまった
きっとどこか遠くの森にいる馬とか兎たちも
僕と同じように目が覚めちゃっただろうな
けれどもそれで気分が悪くなったりはしない
だって月の地震なんてめったに見れないだろうし
なんならもう一生見ることもできないかもしれない
明日になったら誰かに月の地震の話をしよう
けれども誰も相手にしてくれないだろうな
誰もニュースになんかしないだろうな
僕たちが気づいていないだけで
本当はこういうことが毎晩起きているのかもしれない
だからと言ってべつに世界がひっくり返っちゃうわけでもない
僕たちが知らないだけで
それは月曜日の次に火曜日が来ることと同じくらい
当たり前のことなんだろうな
夜が明けるにつれて月の揺れはおさまっていった
どこか遠くの森の馬も兎も六畳一間の僕も
目を閉じて
月の地震と同じくらい静かに
眠りについた
奇想詩『月の地震』
月刊ココア共和国2021年4月号掲載作品(佳作集)