ビリーヴ・イン・ライフ
At the touch of love, everyone becomes a poet.
愛に触れると誰でも詩人になる。
Plato(428/427 or 424/423 – 348/347 BC)
カランコロンと言う下駄の音を響かせ乍ら赤銅色した『信濃屋』の暖簾を特注品扱いの着物を羽織った長尾木蓮が潜ると、浮世絵なぞで見かける旗本奴顔負けの派手な色彩の着物姿の幼馴染の武田黒曜が、窓際の座敷席に腰掛けてお猪口片手にちびちびと独り酒を嗜んでいた。
何時ものでようがすか?。
挨拶も何も無しで黒曜の隣に腰掛けたモクレンに対し、女中のおかつが聲を掛けて来た。
あゝ、うん。
アンニュイな聲色〈こわいろ〉で木蓮が返事をすると、おかつはそっとひと言、畏まりました、と呟く様に言ったのち、草履のペタペタと言う音を鳴らし乍ら厨房の方へと消えて行った。
黒曜の方へ其れとなく視線を向けると、彼の腰掛けている座布団の側には、今日古本屋で購入をして来たばかりらしい片岡義男の『限りなき夏1』と、何処ぞの雑貨屋へ立ち寄ったらしい事が分かる小さな紙袋、そしてサントリーのウヰスキーの酒瓶がまるで置物の様にポツンと置いてあったので、今日は休みだったんだな、と木蓮は言った。
働き詰めだったもんでね、此処んところ。
黒曜はそう言い乍ら、酒を注いだばかりのお猪口に映る自身の顔を見つめた。
気分は晴れたか?。
木蓮が言った。
あゝ、たった今、おめぇの姿を垣間見て、でもって聲を聴いてな。
中々に可愛げのある事を言うじゃないか、まるでお迎えを待っていたジャリみたいに。
其れくれぇ、おめぇにゃ華があるって事よ。
後、色気もな。
そんな台詞を言ってのけた黒曜は、酒をグイと飲み干し、最後のひと口となった酒をトクトクとお猪口に注いだ。
そんなに戀焦がれていなさるなら、一緒に住むとかなんとか考えたら如何です?。
木蓮の呑む麦酒瓶とグラス、そして二人分のお通しを運んで来たおかつが、茶化し気味に言った。
御二方の親御さんにしたって、何処の馬の骨とも牛の骨とも区別のつかないのとくっつかれるよか、百も二百もマシだと思うんですがねぇ。
おいおい、もう仲人ヅラかよ。
這えば立て
立てば歩めの
親ごゝろ
ってぇが、気が早すぎらぁ。
黒曜はおかつの急かす様な口振りを笑い乍らおかつから栓抜きを受け取ると、麦酒の瓶の蓋を開け、空のグラスに麦酒をトクトクと注いで、さり気なく木蓮に手渡した。
良いじゃありませんか、どうせそうなる運命なんだから。
他に何か?。
此奴に野菜の天麩羅の盛り合わせを。
でもって、俺の分の麦酒。
後、烏賊の唐揚げも三人前程、用意をしてくんねぇか、此奴に喰わせてぇから。
あいあい。
用済みとなった徳利とお猪口を片付けに奥へ一旦引き下がったおかつは、おかつの同級生であり、同僚のおはると一緒に黒曜の分の麦酒とグラス、刺身の盛り合わせが載った白百合色の刺身皿、三人前の量の焼き鳥の盛り合わせが載った嵯峨鼠〈さがねず〉色の備前焼の大皿を運んで来た。
枝豆は他の料理と一緒に持って来ますけぇ。
丁寧な手付きて取り皿を並べ乍ら、おはるが木蓮に言うと、木蓮はニコリと笑みを浮かべ乍ら、ありがとう、と言うと、おはるさんは如何思う、私たちの仲を、とおはるに質問を投げた。
そうですねぇ、お似合いじゃ思いますよ。
見ての通り、なあんて言葉も使う必要もない位黒さんはあゝたにほの字の様ですし、あゝたも満更じゃない様ですし。
ふふ、御意見ありがとう。
へへ、どういたしまして。
そいじゃ、邪魔者は又後で。
おう、いけいけ。
黒曜はおかつとおはるが奥へ引き下がるのを微笑い乍ら見届けたのち、自身のグラスに麦酒を注ぐと、そいじゃ、乾杯、と木蓮のグラスに自身のグラスをぶつけた。
其れに対し木蓮も乾杯と言いつゝ自身のグラスをぶつけ、夕暮れ時の道を歩いているうちに渇いた喉を軽く潤し、注げと言わんばかりに黒曜の方へとグラスを移動させた。
話を変える様で悪ぃが、どうだい、役者稼業の方はよ。
グラスに麦酒を注ぎ、木蓮の右手に其れを手渡し乍ら黒曜が言った。
ぼちぼちだな。
ぼちぼちねぇ。
おめぇの五体が無事息災平穏なら、何にも言うこたぁねぇな。
麦酒片手に御題目か。
ものぐさ坊主も良い所だな。
莫迦言え、此れでも心配〈しんぺ〉ぇしてやってんだ。
やって欲しいと頼んだ憶えも無いがね。
木蓮は皮肉っぽい笑みを浮かべつゝ、麦酒を呑み干し、お通しを平らげると、おかつおはるとの会話の最中、黒曜が刺身醤油を注いでくれた紺色の醤油皿に烏賊の刺身を程良く添え、口に運んだ。
第一お前はやる事なす事一々気障ったらしいんだよ。
此の前だってそうだ、何処で如何算段を付けたのか知らんが、派手な花を楽屋に運んで来させて。
世間様じゃあ、あゝ言うのは目立ってナンボの世界だと良く仰るが、ありゃ流石に反省モンだ。
悪〈わり〉ぃ事しちまったな、恥ずかしい想いさせちまってよ。
恥ずかしい?。
昨日今日役者の世界に飛び込んだ新顔じゃあるまいに。
其れ所か、会う人会う人質問攻めでとんと草臥れた。
はっはっは、今度楽屋に顔出すときゃ、もうちっとこじんまりした土産を用意するぜ。
又似たような事をしてみろ、大勢の前で蹴り殺してやる。
おっかねぇ、おっかねぇ。
何の話だい。
殺すの殺さないのって、物騒な。
文字通り「割って」入って来たおかつは、おはると一緒に野菜の天麩羅の盛り合わせと烏賊の天麩羅、笊に入った枝豆を運んで来た。
なあに、此奴が根っからの莫迦だって言う事を思い知っただけさ。
木蓮が言った。
あら、今更お気付きに?。
あたしゃ若旦那がおっかさんの腕の中ですやすやおねんねなさっている時分から、何とはなしにそんな気が。
あゝそうだよ、おらぁ、自他共に認める莫迦さ。
特に此奴の事になると、戀は盲目を地でいく様な莫迦さ加減よ。
昔から
弁慶と
小町は莫迦だ
なぁ、嬶ぁ
なんて言うけんど、其れとは又違う莫迦さの様な気がするが、はっはっは、兎にも角にも仲がええっちゅうのはほんに良き事じゃ。
おはるがクスクス笑い聲を響かせ乍ら、空いた皿を片付けていると、皆迄言うんじゃねぇよ、とすかさず黒曜は言い返し、彼女たちを追っ払った。
全く、しょうがねぇ事限りなしとはあの連中のこった。
木蓮のグラスに麦酒を注ぎ乍ら黒曜が呟く様に言った。
良いじゃないか、茶化し冷やかされているうちが一番とも言うし。
他人事みたいに言いやがる。
大したことじゃないからな。
木蓮は淡々とした口調でそう言うと、此れ又淡々とした手付きでグラスに口を付け、『ローマの休日』で御馴染みの「真実の口」よろしく口をぱっくりと開けて、野菜の天麩羅をばくばくと咀嚼し始めた。
そうだな、おめぇからすりゃ、世の中のありとあらゆる事が大したことじゃないもんな。
実際そうだろ。
まぁな。
そうこうしているうちに、料理と麦酒は総て平らげられ、静かな夏の夜の雰囲気に合わせてか、片隅にぽつんと置かれたスピーカーからは、黒曜からのリクエストでビル・エヴァンス・トリオの『エミリー』が流れていた。
此の後如何する?。
紫煙の灰をちょんちょんとブリキで出来た玄色の灰皿の上に落とし乍ら、黒曜がそう質問をすると、うちに来ないか、と木蓮が茶を啜り乍ら言った。
此のまゝ独りでウヰスキーを呑んでも不味かろうって言うおめぇなりの親ごゝろか?。
そんな所だ。
其れに・・・。
其れに?。
独り占めしたくてな、お前の愛ってのを。
分かったよ、付き合ってやらぁ。
黒曜はニヤリと微笑うと、パンパンと手を叩いたのち、お勘定、と言って懐から財布を取り出した。
今夜は何処へ?。
受け取った金額を確かめ乍らおかつが黒曜に言った。
木蓮んトコ。
美人を肴にウヰスキーですかい?。
風呂上がりにでも一杯やるさ。
ま、ごゆるりと。
又来るぜ。
カタコト下駄を鳴らし乍ら二人して外に出ると、黒曜は持っていた紙袋を右手に持ち替えたかと思うと、空いた左手を木蓮の方へスッと差し出した。
此処迄来ると、最早阿吽の呼吸みたいなモノで道を歩き乍ら、木蓮は黙って黒曜の左手を握り締めた。
おっ、若旦那、お久しゅう。
通称「だらだら坂」と呼ばれる長い坂道をえっちらおっちら登った先に、木蓮が世話役の下男下女付きで両親から買い与えられた屋敷に辿り着くと、東京は渋谷の「忠犬ハチ公」よろしく、家主の帰りを待っていたらしい番頭格の定行〈さだゆき〉が、玄関迄ツカツカと現れた。
夜の夜中に済まねぇが、此奴の為に御茶と御茶菓子を用意してくんねぇか。
風呂の支度が出来終わる迄に腹を満たしておいてやりてぇからよ。
若旦那は?。
俺は風呂から上がってから此のウヰスキーを呑む。
黒曜が袋の中から取り出したウヰスキーの酒瓶を手渡された定行は、そいじゃ、此れ、冷やしときますね、と言って、早歩きで台所の方へと消えて行った。
如何する、着替えは。
歌川広重で御馴染みの『東海道五十三次』のレプリカが、琥珀色の照明の下、埃一つ無い綺麗な黄褐色の額縁に飾られてある長い廊下を歩き乍ら、木蓮が言った。
先月買った紺色の甚兵衛があったろ、アレで構わねぇ。
皐月晴れと言う言葉がぴったりな程、良く晴れた日の午后、お土産と称して和菓子を手土産に二人して尋ねた木蓮の親戚が営む呉服店『駿河屋』の離れにある茶室にて、其の口振りからして、店を仕切る上でのあれやこれやを任され、ゆくゆくは此の店を継ぐ手筈になっているらしい玻璃と名乗る随分とこまっしゃくれた若者と二人きりになった際、玻璃の点てた茶を啜っていると、蓼喰う虫も好き好きとは良く言いますが、とあからさまな皮肉をぴしゃりと投げつけられたので、間髪入れず、孫子曰く、侵し掠める事火の如く、競争相手に立候補為さるなら、幾らでも御相手仕るが、と牽制の意味も込めて、普段滅多に見せない冷ややかな視線を玻璃に向けたと言った様な「ちょっとした」出来事があった事を頭の中でぼんやり思い出し乍ら、黒曜がそう返事をすると、木蓮は相変わらず喰い物やら踊りの事で頭の中が一杯なのだろう、軽い調子でひと言、ふむ、と返事をし、数時間振りとなる部屋の中へと入った。
そして祖母の形見である三面鏡の前迄ずかずかとやって来るなり、脱がせろ、と言った風な視線を鏡越しにチラリと黒曜へ向けた。
黒曜は其の仕草に内心優越感を憶え乍ら、木蓮の側へと近づくなり、態とらしく、皺になるってぇと御世話の方々も大変でござんすからね、と物憂げな聲で囁き、慣れた手付きで着物を脱がせ、黒色の生地に白文字ででかでかと「毘」とプリントされたTシャツと同じく黒色の短パンを履かせたのち、自身もスルスルと着物を脱ぎ、先程話に出て来た紺色の甚兵衛を羽織った。
其れから風呂の支度が出来る迄、黒曜は黒の座椅子に、木蓮は紫の座椅子に腰掛けて、新入りの下女が運んで来たお茶と御茶菓子を嗜んだ。
痒い所は?。
お湯の張ってある桧〈ひのき〉風呂から白い湯気が立ち込め、ゆらゆらと揺れ、風呂場に設置されたランタンスピーカーから、ジム・ホールの『センチになって』が流れる中、両手を使って木蓮の髪を洗い乍ら、黒曜がそう質問をすると、木蓮はじっと両眼を瞑った状態のまゝ、ない、と答えた。
木蓮が両眼を開けたのは、黒曜が身体の隅々を洗い終え、黒曜の手に引かれて湯船に肩迄浸かった時だった。
明日も休みなのか?。
眼を見開くなり、木蓮が言った。
どっか行くのか。
團子が喰いたい。
俺と一緒にか。
そうだ、お前と一緒に。
そうかい。
なら、雲海寺の近くの『ねむり猫』にでも連れて行くかな。
お前の実家の直ぐ側の茶屋か。
彼処なら朝早くからやってる。
あの着物で行くのか?。
愚問だな。
はは、そりゃ失礼。
なら、着付けてやんなきゃな、朝めし喰った後にでもよ。
黒曜はそんな事を言い乍ら両手でお湯を掬い上げると、ざぶざぶと自身の顔を洗った。
氷菓子〈アイス〉でも召し上がりますか?。
ついさっき、野暮用で近所のコンビニへ足を運んだ際、お二人に、と思って買って来た猪口齢糖〈チョコレート〉味の氷菓子なんですが。
ジェフ・ベック・グループによるボブ・ディランの楽曲『今宵はきみと』のカバーが流れる中、去年の黒曜の誕生日、木蓮が黒曜へと「お前にくれてやる」と贈ったウヰスキーグラスに、右手に握ったトングを使ってアイスペールから取った氷をカラン、と放り込み乍ら、つらつらと定行がそう述べると、黒曜は藤原義孝が詠んだ和歌『きみがためおしからざりしいのちさへながくもながとおもひけるかな』が綴られた白扇で顔をパタパタと扇ぎつゝ、そうさな、貰おうかね、と言った。
返事を受け取った定行は、黒曜と木蓮の分のウヰスキーを注いだのち、一旦奥へと引き下がり、朱色のお盆に氷菓子の添えられた銀色のアイスカップとスプーンを載せて現れた。
すまんな、何から何迄。
黒曜が言った。
いえいえ、手前ども最大の御仕事は、気持ち良く且つ心地良く過ごしていただく事でござんすから。
ははは。
流石は旅館育ちの倅だな、誉めてつかわす。
恐れ入ります。
では、ごゆっくり。
其れから二人は乾杯を済ませ、ウヰスキーを喉に流し込むと、あーでもない、こーでもないと言った風な所謂他愛無い内容の会話をぽつりぽつりと交わし乍ら、時々、黒曜が木蓮に向かってスプーンを差し出し、あーん、をし乍ら、氷菓子を食べた。
開け放たれた窓からは月の光が差し込み、部屋の中は元より、狭過ぎず広過ぎずな敷地の庭に添えられた石を良く照らした。
二人が同じ布団で寝たのは、ささやかな夜食を終えてから、一時間後の事だった。
先に眼を覚ましたのは黒曜の方で、寝惚け眼で赴いた御手洗いの帰り道、身なりをきちっと整えた定行と出会した。
良く眠れましたか?。
定行が言った。
此処数日で一番良く寝た気がする。
そう言って黒曜は欠伸を噛み殺した。
視線を向けた先の廊下の壁にポツンとぶら下げられた煉瓦色の壁掛け時計の針は、午前九時ちょっと過ぎを指していた。
そりゃようござんした。
朝食の支度は?。
もう出来ております。
なら起こして来るか。
いってらっしゃいまし。
はっはっは、良い文句だな、いってらっしゃいまし、とは。
なるべく音を立てぬ様、寝所の襖をそっと開けると、其処には無邪気であどけない眠り姫の顔とふっくらとした無防備な唇があった。
黒曜は前回此処に泊まった際、洗面所に置いていた葡萄畑の香りを添えたリップクリームを塗ったばかりの唇を眠り姫の唇に優しく落とすと、囁き聲で、起きてください、と呟いた。
すると木蓮の眼がパチリと迄はいかないものの、ぼんやりと開いて、すけべなヤツだ、朝っぱらから、と言われたものだから、そんな気になるのはおめぇだけだよ、と言って木蓮の身体を優しく抱き締め、赤子でもあやすかの様に、頭をポンポンと撫でた。
するとすかさず、知ってる、と言う言葉が石鹸玉の様にぷかりと浮かび上がり、そして消えた。
ご飯、味噌汁、焼き魚、焼き豆腐、きんぴらごぼう、卵焼き、牛皿、鳥の唐揚げ、豚の生姜焼き、お刺身サラダ、と言った内容の朝食を食べ終え、着物に着替えたのち、二人は其の足で駅へと向かうと、雲海寺に停車をする駱駝色の路面電車に乗り込んだ。
なあ、眠ってていいか?。
席に腰掛けるなり、木蓮が言った。
寝足りないか。
こんなに穏やかな天気なんだ、眠るなっていう方が酷な話だろ。
木蓮がそう言って黒曜の肩に首をちょこんと載せたかと思うと、スヤスヤと寝息が聴こえ始めた。
前方の窓の方に視線をチラリとやると、成る程空も山も青々としていた。
駅に電車が辿り着くと、黒曜は優しく髪を撫で乍ら木蓮の耳元で目的地へと辿り着いた事を告げ、手を繋いだ状態でホームに降り立った。
蝉の鳴き声に混じって御寺目当てに旅行客がぞろぞろ歩きそして会話する音が聞こえる中を縫う様にして歩き、茶店に辿り着くと、お店の方だとガヤガヤして落ち着けないだろうから、と庭が見える奥の方へと案内された。
何〈なん〉になさいます?。
二人よりも若い年齢の店員が言った。
三色團子と御茶を其々二つずつ。
畏まりました。
店員が其の場を去ると、風が互いの頬を撫でて、庭の木々をわさわさと揺らした。
言葉を交わす事無く、ただただ二人寄り添っていると、先程とは別な店員が三色團子と御茶を運んで来た。
此れ、食べていいか?。
再び二人きりになった途端、三色團子を三色團子をペロリと平らげた木蓮が言った。
聞かねえでも最初から其の気だった癖に。
黒曜が茶を啜ったのち、微笑い乍ら言ってのけると、木蓮も木蓮でニヤリと笑みを浮かべ乍ら、よっくご存知で、と返事をし、二本目となる三色團子をむしゃむしと頬張った。
そしてひと言、次はあんみつな、と言った。
へいへい。
黒曜は優しい聲色で返事をすると、注文をする為に手渡された鈴をリンリンと鳴らしたのち、御茶がまだ半分程残っている茶碗をキュッと握り締め、其れを流し込んだ。
其の様子を横眼に見乍ら木蓮は、こうして誰かが横に居て愛してくれる人生も、案外悪くないのかもしれないと思い乍ら、最後のひと口となる團子を頬張り、咀嚼をした。
小さな塀の向こうでは、まるで天使が戯れる絵の様に、子どもたちが水遊びをして小さな虹を作っていた。〈終〉
ビリーヴ・イン・ライフ