La femme de Chagal(Chagall's wife) 邦題 シャガールの妻
男女の愛は必ずしも夫婦のものにあらず。
社内でもワクチン接種の話題が出始めている。
お役所の担当部署の電話が此処のところ一日中繋がらないようだ。
ワクチンは三か月・間をおいてから二回打たなければならないと聞いていた。
秋の風を感じる頃には今年も残りわずかだと思う様になる。
人類はそんな気持ちを毎年繰り返し感じながら年をとっていく。
川田洋二には社で仲の良い女性がいる。休憩時間に二人は近くのカフェで話をしていた。
葉山淑子は幼い頃に家族を亡くし一人暮らし。洋二も一人暮らしなのだが何か気が合うからと、一緒に飲みに行く事も少なくはない。
専ら二人の話題は共通の趣味である芸術だったり、今後の其々の生活の事など。
年齢差は十ほどある。其れでも彼女に交際相手としての男性の話題が出る事は無い。
洋二はと言えば若干身体が悪いせいか婚期を逃してしまい、今後も難しいのではと思ったりもする。
葉子は交際相手を見つける意思はあるのだが、だらだらとのんびりしている間に40を超えてしまった。
今日は休日だからと二人一緒に美術館の絵を見に来ている。
こういう事だけをとってみれば二人の相性が悪いとは言えそうもない。
好きな絵の好み迄同じなのだが、だからといい其れだけに過ぎないと言えそうだ。
二人は一枚の絵に関し館内のカフェで話をしている。
「ねえ?あの絵のどういうところが印象的だった?」
そう尋ねられ洋二が指摘した事柄は淑子の其れと一か所を除き一致していた。
シャガールの絵。
男女二人が結婚する際の明るい雰囲気がよく表現されており、彼の絵に妻が登場する事は少なくない。
其の男性が洋二には何か自分であるかのような気がしたのだが。
ところが淑子も其の男性は洋二であるかのように思えるという。
では女性はと言えば二人共淑子のようだとこれまた一致している。
淑子は早くして両親を失った後、叔父の援助を受けながら大学を出た。
其れで淑子は叔父には頭が下がる思いだったのだが、残念な事に叔父は亡くなってしまった。
其処で淑子の本籍地は今のアパートに代えてある。
叔父が亡くなる前に淑子に言い残した事。
「良き男性を見つけるのなら、折角大学を出たのだから相手も大学出がいいだろう」
相手探しに学歴が重要かは分からないが、大学という学歴をおじがプレゼントしたのであれば無下にも。
彼女の相手探しは続いている。淑子の相手に相応しい者がいないかと洋二も同じ気持ちを持っている。
ところが折り悪く世界経済は傾き始め景気が悪くなった。
巷では倒産する会社も出始め、会社員の賃上げが5%行われたにせよ4%高騰した物価と比較すれば実質賃金は下がった事になる。
其のせいなのか、淑子は突然洋二に二人で住まないかと話を持ち掛けた。
当然ながら年の差を気にし、まさか業界人でも無いのだからと洋二は反対をし、結婚ではないのならと。
其れは世間一般の常識で、業界なら二回り離れていても資力があるからと考えたCoupleが生まれる。
業界と言わずとも、大会社の経営者などであれば其れでも頷けるのかも知れない。
しかし、淑子は其の方が経済的だと頑として譲らないから、単に一緒に住む事で経費を抑える趣旨ならと。
洋二の本音は元から淑子に反対するものとも言えないのだが、何かしっくりいかないものを感じた。
其れでも結論としては淑子に軍配が上がった。そうであれば洋二にそれ以上反対する理由も浮かばない。
只、本籍地の住所は変えずに元のままにしておくという条件を淑子が飲み、変則的な事になった。
本籍の役所での扱いは、其の地に建物も何も無くとも実態のない本籍地も認められる。
よく聞かれるのは皇居の住所を本籍にするという事で可能な事。
洋二の住まいは親から譲り受けたもので、大きな家だから淑子のアパートに比べれば条件は良くなる。
二人で住むには充分過ぎる程であるから、淑子の心理からし余裕が生まれるのも事実。
ところが、洋二は更に条件を・・と話す。
条件とは、結婚では無いのだから妻ではなく、娘・養女としておいてくれ、他人には兄妹という事にしとけば良いと。
寝室も別の部屋にし、食事は一緒の部屋でと実質二人で過ごすしているようなものだが。
只、実際は、其々自分の居間を設けており人類であればそういう事は極めて不自然と言えそうだ。
同居の果実とし、そうする事で少しずつ家賃分を貯める事が出来た。
洋二は其の貯金を淑子が結婚する際のプレゼントとして持たせたいと思う。何処か叔父の気持ちに似ている。
近所の住民からは仲の良い兄妹ですねと言われるくらいなのだから顔も似ているのかも知れない。
洋二は思う。自らの身体が悪く無ければ本当の兄妹のように過ごせただろうと。
暫らくし、洋二が探した甲斐があり淑子に相応しい男性が見つかった。
縁は異なもの。以前探した時にもあたった洋二の知人からの紹介。洋二との直接の繋がりは無い。
二人の結婚式を目前にした頃。
洋二は既に定年間際で時間にゆとりが持てた。結婚式の準備をと出掛け用を済ませた。
帰りに丁度横断歩道を渡っていた洋二。走行してきた車は横断歩道の手前で止まる・・突然急加速を・・。
あるまじきことに洋二を跳ねていた。原因は高齢者の運転手のアクセルとブレーキの踏み間違い。
被害者は救急車で緊急病院に運ばれたのだが、洋二は心肺停止で即死だった。
急の知らせを聞きタクシーで駆け付ける際運転手に告げた名称。
淑子・・洋二が病気で通っていた病院に他ならない。
何回か洋二に付き添って来ていたから、何かおかしな陰縁のようなものを感じる。
洋二の亡骸は淑子が立ち合い火葬された。淑子は、涙も枯れ果てたように・・。
亡くなったものが蘇る訳は無いと思う。
落ち込んでいた淑子。
其れで・・結婚式も滞りなく終わりを告げ、夫の藤井康太との家を何処にするか二人で考えている時。
淑子は洋二と共に住んでいた家で話し合ったのだが、洋二の居間の重要なものが入れられている引き出し。
頑丈そうなバッグが見える。
其れを開けた。
中に入っていたのは家の権利証と通帳。
更にバッグから絨毯の上に落ちた物。
遺言と書かれた封筒が・・。
前以て書いておいたのだろう、見慣れている洋二の筆跡で・・自筆遺言(いごん)。
相続人が他にいなければ、或いはいたにしても何等かの事情(子供であれば親の面倒を見ない等。)による、他の相続人を廃除する旨がうたってある家裁の判決文を所持していれば全く問題は無い。
まるで、亡くなる事を予期していた様な事ばかりで不思議。
家も貯蓄も全て淑子名義としその旨が遺言にうたってある。
退職金。及び交通事故などによる加害者からの損害賠償金。
全て淑子名義とする。
一筆(ひとふで)だけ。
「何時かは此れが必要になる時が来る。ところで、あのシャガ―ルの絵だけれど、やはり、男性は俺だったのかも知れない。そんな気がしてね?此れで万事幸せの幕が下りた。愛しい淑子へ」
其れが、書面のみにあらず。
何か洋二が話し掛けてくる様な気がした。
盆と彼岸に二人は墓参りに行った。
お世話になった叔父が眠る霊園は。
川田家の墓がある霊園。
墓同士はすぐ傍で。
淑子は思った。
「ひょっとして、洋二さん!此の事を知っていたのかも知れない」
二人で来た事は無かったが、洋二が一人で先祖の墓参りに来た時に気がついたのかも知れない。
康太が、考え事をしている淑子に。
「何か・・どうしたの?まさか、あの墓、洋二さん?」
康太がそう言いながら墓に歩み寄った時、淑子には何もかもが理解出来た。
「縁。何処までも繋がっているのかも・・」
淑子と康介は洋二のお陰で、大不況の時代を乗り越える事が出来た。
二人共、感謝の念を忘れなかったのだが、此れはあらゆる生命体にも通用する事は言いおくとする。
淑子は康介を大事にしている・・。
其れは間違い無いが。
二人が、近所に挨拶に廻った。
其れから暫くし、淑子が一人でいる時に又近所の人に会った時だった。
「仲の良い二人だと評判だったが、皆、夫婦なんじゃないかと、あの頃思ったそうだが。お兄さんだったとは?」
淑子は頷きもせず頭の中で呟いたが誰にも聞こえる訳は無い。
「いえ、最愛の夫だったんです。本当は・・」
花屋に行った時に、花屋の主人が淑子に勧めた花は「アケビ」~花言葉は「唯一の恋」。
其の花を買い墓に持っていこうとした時呟いた・・。
「あなた・・病気で誰とも結婚できなかった・・でも・・私とは・・結婚できたじゃない・・唯一の恋・・其れに・・人類何時かは・・誰しも同じ道を辿るもの。其れまで待っていてね・・?」
後述。
(実は亡くなった者には何も聞こえないのは当然、あの世というものなど存在はしない。
生命体は骨を残し、其れで全て終わる。
魂というものは人類の心の中に存在する。
経ならば、浄土真宗以外は252文字の「般若心経」でも唱えてあげれば十分と言える。
或いは、「有難う御座います」で、人類の癌でも再発をしないとか、細胞の壊死がある個所で止まったままになるなどはある事。
また、通常は神経細胞の壊死が蘇生する事は医学ではあり得ない。せいぜい、壊死の進行を遅くする程度で、其れも病の初期の段階でしか無い。実は以前からアリセプトの様な遅くする薬は開発されていたが残念ながら効果のほどは無いと言って間違いは無い。今回開発されたアルツハイマー新薬にせよ、同じ程度だと言い切って其れ程変わりはない。
タンパク質・アミノ酸に関係があるというだけでは治癒とまでは言えないのが実情である事が次第に理解できるであろう。
まだ人類には其処までの医学・薬学は到底無理だと言える。(老化現象は動物にもあるが。)寧ろ、アルツハイマーは動物には起こらない症状と言え、人類と動物のその違いを解明している生命体では既に完全に壊死を止める・また、壊死を手術で蘇生する事は既に行われている。とは言え、此れは実際に人類に治癒を行った治療の結果で、生命体の頭脳の構造は全て異なるので、同じ病は起きないと言える。
更に、既存の人類が使用している或る種の処方薬の組み合わせを持ってすれば、壊死の速度を遅くし、ケースによっては壊死が止まる事も立証されている。)
「のどかな春の日を鳴き尽くし、鳴きあかし、また鳴き暮らさなければ気が済まんと見える。その上どこまでも登って行く、いつまでも登って行く。雲雀はきっと雲の中で死ぬに相違ない。登り詰めた揚句は流れて雲に入って漂うているうちに形は消えてなくなって、ただ声だけが空の裡に残るのかもしれない。夏目漱石」
「人間的な、余りに人間的なものは大抵は確かに動物的である。芥川龍之介」
「金は食っていけさえすればいい程度にとり、喜びを自分の仕事の中に求めるようにすべきだ。志賀直哉」
「全original by europe123」
https://youtu.be/WOd05LXYI2g
La femme de Chagal(Chagall's wife) 邦題 シャガールの妻
愛する事。