邦題 面接

公共放送・総務省管轄。

　interview
　опрос
　邦題　面接

「はい。次の方呼んで」

　渋谷のNKではアナウンサーなどの採用面接をやっている。今回の採用予定は即戦力になる人材を確保する為行われている。此の公共放送とは名ばかりのいい加減な放送局に勤務した後は歳を取っても民間放送局で再び雇用され活躍出来るとあって優秀な人材が集まると謂われている。謂わば自民コバンザメ集団と呼ばれ、入社すれば薔薇色の人生が待っている。其の日の面接官は局でも一番の重鎮と謂われる大手M商事から移って来た会長・副会長・その他専務理事四名・理事六名という最高幹部達だ。会長以外は皆NKに入社し出世した面々である。取りまとめ役は人事局のJ氏、放送総局のH氏またアナウンス室からAが実際の現場を知るものとして加わっている。此れだけ錚々（そうそう）たるメンバーが揃う事も珍しいと言えるが、流石に世界でも評判の悪い総務省の外郭団体だけの事はある。
　此れに何故か民間放送局のベテランである阿部都氏とUKのBBC放送局からゲストとしてスナイパー氏がオブザーバーとして招待されているが、此れはNKが如何に優秀かという事を自負する為の余裕の参加依頼だと思われる。
　面接会場のすぐ脇の控室には数名の応募者が他の応募者に追随を許さぬとばかりに今か今と自らの名が呼ばれるのを楽しみに待ち臨（のぞ）んでいる。採用枠は数名だが応募者も数名、というのも此の面接は最終面接で、此処までくれば採用は間違い無いだろうと思われる者達が残ったからだ。
　優秀な応募者達は面接官達よりも話術に長（た）けていたり学歴は無論、博学と言っても良いほどの幅広い知識を身に付けている様だ。面接官でさえ足元をすくわれかねない危機感を感じている様で、本番の面接前に模擬面接を行っており準備は万端の様だ。此の模擬面接用の仮応募者には局内のベテラン且つ非常に優秀な現役職員が扮し面接官もたじたじの一幕もあった。彼等は今回の応募者が正式採用された暁には指導やアドバイスをしNKの伝統を叩きこむつもりだ。

　早速面接が始まった。
　名前が呼ばれて面接室のドアをノックし「どうぞ」と声が掛かると、最初の応募者が、ずらっと左右に拡がり居並ぶ面接官の一斉射撃を受ける構えを見せる。どうやら一番バッターはやや緊張が残っていた様だが、「一番、北原ミレイ石狩挽歌、『海猫（ごめ）が泣くから・・、ニシンが来ると・・』あ、失礼、・・。のど自慢は私にお任せを・・」と名を名乗りながら伝統の番組にあやかり早速自己宣伝を始める。此の不意打ちに面接官達は驚きながらも笑みを浮かべる。
「あなたが当・・放送に応募した動機は何ですか？」
「あなたの略歴を・・、自分の長所を絡めて・・説明して・・」
「若し、採用の暁にはどんな部門に配属され・・」
「あなたは、A大臣の御子息にあたるそうですが・・」
　次から次へと質問が飛んで来る。
　面接官達のデスクには当然乍ら各応募者の履歴書のコピーやコネクションのあらましが書かれた用紙が予め配布されている。
　数人の応募者への面接は滞り無く進んで行く。
　流石に全国放送で視聴率が高い番組を数多く網羅しているNKだけに応募者の希望職はそんな事を意識したものが殆ど。
「九時まで待ってねのニュースキャスター・・」、「大河ドラマ麒麟が狂う・・制作・・」、「明日NKが終わるとしても・・」、「いないいないドバーの・・」、「Eテレ００７７・・」、「いじめでノックダウン・・」、その他応募者の欲求は果てしなく拡がっていくが、殆ど報道関係やドラマ・特集番組などに最低でも携わりたい・・が多かった。中には並行して新番組「そして・・誰も見なくなった・・」などを立ち上げてみたいなどの積極的な意見もあった。一人だけ「何が何でも受信料をむしり取るknow-how・・」と地道な挑戦に係る弁証にThese（テーゼ）・Antinomie（アンチノミー）・aufheben（アウフヘーベン）らDeutsche Philosophie（ドイツ哲学）などを持ち出した者もいた。採用者に共通だったのは何某かの自民・官僚・大手企業などの親族connectionが後押しをしていた事だった。給与事情についての希望が一千五百万を超えていた事に「何とかなるわい」との回答があてがわれると、BBCのスナイパーが自局とのあまりの差に唖然とし「同じ放送関係者としては常識外れだ」との発言をすると面接官から退場を命ぜられる場面も見られた。

　面接は終了し、全員無事に其々の部署に配属になった。
　その頃報道番組やドラマなどの現場では様々な事が起きていた。
　「BS時代劇」の収録中にあまりにも真剣になり、道具係の間違いか真剣が使われて怪我人が出たり、連続テレビ小説「晴明の女房」収録中にオブザーバーの安部氏がスタジオに現れると何処からともなく「十二天将」が現れ安部晴明の女房役が其の恐ろしさのあまり転倒し骨折。
　また、優秀な採用者に負けじと従来からのスタッフがうっかり放送禁止用語（放送注意用語など）を連発し、NKニュース番組などで「本日、東京都渋谷区のNKセンターで相次いで・・な事件が起き、また・・禁止用語が使用され全国の視聴者からの苦情に対応中・・、収拾がつかず混乱・・」と、テロップが流れたり、ピー音（自主規制音）や突然画面が切り換えられたりするハプニングが続出した。

　九月も終わり、年末まで三か月を知らせる様に風が吹く頃、何処となく寂しげな月も季節の変わり目を感じさせる柔らかい光を漂わせていた。

　NHKが最後に驚いたのは予定外の出演者がstudioに現れている。
「東洋の予言者」と称されていた者のようだが・・果たして如何なるものなのか・・は知れぬまま・・。
　ただ、少なくとも・・予言は確実に当たると言われていたParisに於いての・・世界の情勢が大きく変わる事は間違い無いだろう・・とは、一体どういう意味であるのか・・。
　然して、その予言とは・・覚えている者はいるのか否や・・は、嫌でも世界中が味わうものであり・・時空が歪み死相が現れていると・・既に告げている者には・・其れ程先の事では・・ないと・・。
　ミラノ座の予言は確実に・・実行される。

　渋谷のNHKでは相も変わらず番組が放送されているのだが、少し違う様な気もする。
　何処が違っているのかは・・世界中が注目すべきなのに・・と言えるのだろう・・。
　
　

其処での面接は・・兎も角・・。