Drain 邦題 排水溝

Drain 邦題 排水溝

実際にあった多摩市での殺人事件では・・。

 Drain 邦題 排水溝



 賃貸マンションの二階の部屋に帰宅してから風呂に入り一息つき食事となる。
 寅さんのDVDでもと思いながら、ふとシンクの中に目を遣る。
 また、排水溝の蓋がずれている。葉山洋二は先日も排水溝から外れていた事を思い出した。
 誰もいない部屋でどうしてこんな事になるのかと首を捻る。自炊は面倒で、其の後のシンク回りの掃除も嫌だ。
 風呂場やトイレも酷く汚れるが、やむを得ないと思う。だが、台所を汚してまで・・だから、一切、自炊をしない。
 汚したら、シンクや排水溝などは、ぬめぬめし見たくもないヘドロ状の汚物がこびりつき、惨状を呈するだろう。
 だから、毎日水しかこぼさない。水ならヘドロに変わる事は無いだろうと思うから。
 其れにも拘わらず、蓋が、まるで浮き上がってずれているかのよう。
 十数年前の多摩市での事件の事を思い出した。確か、女性公務員が同居人に殺害され、屍がマンホールに遺棄された。
 普通なら、マンホールの定期清掃でも無ければ発見されなかったのだが・・。
 台風が通過し、大雨が降った後の深夜だった。雨は道路わきの排水路からマンホールの中に流れ込んだ。
 あまりの雨水の量に、マンホール内の水が上昇し、マンホールの蓋を押し上げ、勢いよく道路に流れ出た。
 マンホールから水と一緒に道路に流されたのは屍。
 腐乱死体は、暫くし通り掛かった車のヘッドライトに照らされ、驚いた運転手が警察に通報し事件となった。
 真夜中の光景だけに発見者も警察官もその場の惨状に震えたという事だ。
 其れは殺人事件の成れの果ての事だ。



 まさか台所でそんな事が起きる訳はない。
 其の日はそう思い蓋を元に戻しておいた。ところが同じ事が何回も起きる。
 洋二は、面倒だが、ようやく排水溝の中を調べてみる事にした。排水溝の構造は蓋の下に円筒形のステンレスの筒。
 筒とはいっても網目状だから水はさらに下に流れる。その下が短い円筒形の栓になっており、栓の下の隙間から水だけが下水溝行きの菅に流れ込む。
 先ず筒を見て驚いた。水がその下まで流れずに筒の中で満タンになっている。
 その水が溢れ蓋を持ち上げたのだろう。網目の役目が果たされていない。
 其れも其の筈。網目はヘドロでべったり覆われており、網目を塞いでいる。
 洋二は溜息をつく。水だけしか流さないのに、どうしてこんな状態になるのかと。
 其処でやっと思い出す。水だけでなくスーパーで購入した漬物パックの液体もこぼした事がある。
 パックの蓋の一部を持ち上げ液体だけ絞って流し、勿論漬物を流すなどはしない。
 水分だけに限定していたつもりが、液体が水と同じで無かった事に気が付かなかった。
 外見は水のように見えても、液体にはヘドロを形成する原因になるような成分が含まれていたのだろう。
 過ぎてしまった事は仕方がない。次からトイレに流そうと思う。
 排水溝の掃除を始めた。此れでは自炊後の状況と同じなど思いながら、各部品を外してはたわしでこすり取る。
 予想外の出来事、汚れはしぶとくなかなか落ちてくれない。
 柄付きの小さなたわしで蓋から始め、までヘドロを擦り落とす。
 網目もその下の栓も、匂いは箱根の大涌谷の硫黄と同じ。
 ヘドロも厚さがあり迷惑な存在感を主張している。
 排水溝の壁のヘドロを落としたところでようやく作業を終える事が出来た。
 




 嫌な事は終えた。そう言えばまだ漬物の液体を流さなかった当時も、これ程では無かったが汚れはへばりついていた。
 水だけでも汚れはついていたのに、考えが甘すぎたと思う。
 水くらいは流さない訳にはいかない。時々汚れてしまった指をすすいだりする事がある。
 やはり、一定期間ごとに点検しなくてはならない。寅さんに集中できた。





 翌日、昨日綺麗にした排水溝の蓋の隙間から中を覗く。満足。
 気が付けば何か黒い糸のようなものが窺える。再び蓋を取り外し網目に引っ掛かっているものを。
 糸ではなさそう。
 指に取り見る。
 黒い髪の毛のような気もする。
 洋二は何時か此処で髪だけ洗った事があったのかを考えてみる。
 いや、髪は洗うにしても風呂場以外では無い。鏡の下の洗面所の水道で洗ったという記憶はあるのだが?
 という事は、此の髪の毛は自分のものでは無い事になる。
 では、一体誰の?しかも、どうして自分の部屋の流しの排水溝に?
 


 洋二は、今日も筒の下を確認する。
 栓の下の隙間にも同じ様なものが。
 何か気持ちが悪くなり、全ての排水溝の内部を確認してみる。
 髪の毛を取り除いた後、各部を外してからベランダに干す事にした。
 汚れた指は洗面所で洗えば良い。
 やっと寅さんを見る事が出来た。
 其の寅さんのDVDでは、三田淑子扮する女医が登場する。
 映画の始まりで寅さんは、駅の前でバスを待っている老女と出会う。
 寅さんは女性には興味はある設定だが老女は?と思いきや、老女の方から。
「あんた面白い人だな、どうだ?今晩うちに来ないか?ご馳走すっから・・」
 寅さんも宿泊代を倹約したつもり?其れとも年寄りの機嫌を損ねないようにとの配慮なのか、何れにしても老女の家に行く事に。
 老女は一人住まい。息子たちも寄り付かないから孫の顔も知らないという。
 二人で、老女が作ってくれた料理を食べながら酒を。 寅さん。
「・・おばあちゃん、此の酒・・ちょっと酸っぱいね?」
「お爺さんの法事の時の残りだから、ひょっとしたら酢になってるのかも・・」
 寅さんは、一瞬、え?すぐに笑顔に戻り。
「いやあ結構な味」
 二人の話は亡くなったおじいさんの話題に。どうやら老女はおじいさんが亡くなる時に、淋しくなるなあと。
 おじいさんは其れを聞き。
「寂しくないように時々顔を出してあげるから・・」
 と奥部屋の仏壇を指し示す。
 老女が、その仏壇に手招きをしている。
 寅さんは思わず、何をしているの?と。
 老女は満更でもなさそうな表情で。
「あそこにおじいさんが座っているだ。人見知りするからなおじいさんは」
 其れを聞いた寅さん・・何か落ち着かない・・が何も見えない・・。
 寅さんは、景気づけに歌を歌い始める。
 老女が。
「ちょっとはばかりに・・」
 寅さん・・心細そうに。
「おばあちゃん、其処の土間の隅でやっちゃえばいいじゃないかよ」
 老女ははばかりに行き、寅さんは一人で歌を歌いだすと・・。
 奥の部屋の暗がりから。
「サド~え~サド~え~と、草木も靡く・・」
 寅さん、ぎょっとしながらも、其の声に合わせ手拍子を打ち歌を歌いだす。
 後、寅さんは柴又に帰った折に、其の話を皆や丁度遊びに来ていた三田淑子にも話す。
 三田淑子は。
「ふうん・・そんな事があったんだ・・いいお話よね?」
 と感激するのだが、寅さん。
「生まれて初めてだよ、お化けと一緒に歌ったのは」
 聞いていた家族はそりゃ嘘だと言うのだが、博だけが笑いながら。
「兄さんにはそういう事があってもおかしくはないんじゃないですか?」
 結局、其の話の展開は・・老女も病院で亡くなり、表廊下に飛び出した女医を追い掛け慰めようと寅さん。
 女医は涙を流すあまり、思わず寅さんの肩に凭れかかる。
 が、丁度看護婦が、表廊下との仕切りのドアを開け顔を出し、あわやラブシーンかと勘違い。
 邪魔をしたかと。
「済みません・・」
 その辺りが、終わりに近い見せ場のscene。



 その映画も終わり・・洋二は何回も見ているのだが・・。
「何回見ても飽きないな」
 など思いながら、TVに近づき次のDVDを入れ替えようと。




 ふと、後ろが気になり、振り向きざま視線を流す。




 排水溝から、異音。
 また、髪の毛?
 流しの内側・・腐乱した腕?



 洋二はあまりに現実的でないともう一度目を遣るが腕など無い。
 しかし同時に多摩の話を思い出す。
「ああ、そう言えば・・」
 誰からか、下の部屋の住民が何か月か前から行方不明になっていると聞いていたのだが。
 今だに行方不明のようではある。



 管理事務所に連絡をしようと思ったのだが。
 TVの画面が気になる。
 画面に映っているのは・・老女が幽霊のおじいさんを手招きするところで止まったまま。
 どうやら、DVDのリモコンの操作を誤ったのか、画面が停止するなどはよくある事で。
 すぐに動き出した。
 管理事務所に電話を。
「あの、流しが・・」
 管理事務所の女性曰く・・。
「・・あら?ドアポストに通知が入っていませんでした?定期点検を業者が行うという・・入れ忘れたのかしら・・では此方から業者に連絡しておきます」



 
 結局、業者から点検の通知も無く、多くの部屋を順番に点検をしてくるのだから日にちが掛かるのは当たり前。
 洋二には画面が停止した理由は分かっている・・その画面にはおじいさんなど映ってはいない。
 其れは当然だ。
 おじいさんの幽霊など現実的でないから映る訳が無く実際に映像でも登場しない。
 


 結局洋二は別のマンションに引越しをした。
 今度の部屋は流しが小さめだ。
 新居に引っ越してから暫くした或る日の事。
 DVDは持って来たのだが。
 あの時の画面の事が気になった。其れでもう一度再生をしてみる。
 何も再生がされず・・壊れたのか?
 其れは、何かの故障だったようですぐに再生が始まった。




 其の晩、寝てから考えた。
「流しは小さ目だし・・安心だ」
  


 北向きに敷いてあった布団を逆向きにする。
 昔から、北向きは良くないといわれているから。
 其れからぐっすり眠れるようになった。




 翌日の晩の事。
 誰かがチャイムを鳴らした。
 ドアを開けて見ると、同じマンションの住民。何の様かな?
 住民は。
「此のアパートで、つい最近行方不明になった人がいるんですが、貴方、入居したばかりで知らないでしょう?」
 洋二は何を言っているのかとおかしくなり。
「最近ならまだ腐乱はしていないでしょう。其れなら排水溝から・・は無い・・」





 相変わらず寅さんのDVDは持って来た。
 何か、かなり出演者が減った様な気がするが、皆亡くなっているのだから仕方ない、と。
 という事は、手招きすれば随分大勢の人々が出てくるのかも知れない・・。



 やはり、映画は良いものは良い。少しくらい出演者が減ったって。だが主役は?
 大丈夫か?寅さんだけはDVDの中で生きていたようだ・・。 




 洋二が夜中にトイレに行った時・・。
 便座に座り用を足す。
「やはり、新居は綺麗だし・・いいもんだ・・?」
 ウォシュレットのswitchをONにし、温水を使用する。特に寒い自分は此れが無ければいけない・・。
 此の国ではウォシュレットが普及しているが、世界のどの国でもウォシュレットなど見る事が無い。
 洋二が独り言を・・。
「USAにしても何処にしても、全く科学や兵器など自慢をするが、お尻のメンテナンスは出来ていないなんて、不潔な世界中だ。Parisでウォシュレットが付いているホテルは二軒だけ、其れも一泊十二万と六万など高価なホテルのみ」




 洋二の周囲でいろいろあったようだが・・夢を見ているような事ばかり・・。
 其れでも、洋二には何事も無く・・安心できるようだ。



 洋二は今晩も夜中にトイレで用を足している。 





 其の洋二の姿が見えなくなったのは・・ごく最近の事である。





 妙な音がする。
 洋二が気が付かなかった事など案外基本的な事・・。
 排水溝があるのは何も流しに限った事ではない。
 どうして・・洋二は気が付かなかったのか・・?笑える・・。
 音がしているのは・・トイレの排水溝からだ。
 寛いで便座に座っている時でも・・油断は禁物・・。
 お尻に手が伸び・・排水溝に引っ張り込まれる事はあるようだが・・?

Drain 邦題 排水溝

その事件では、公務員の女性が殺害された。
どうしてなのか・・行方不明になった女性の消息は何時までも掴めなかった。

Drain 邦題 排水溝

或る豪雨の日だった。丁度豪雨の中を車で走っていた三人の男達がおかしな光景を見た。 あまり、記事としては大騒ぎにならなかったのだが、三人の乗った車の前の路上のマンホールの蓋が押し上げられ、大量の水が流れ出している。 男達が見たものは、大量の水の覆われた路面に・・女性の腕・・髪・・。 この事件とは全く関係のないストーリー。 洋二が経験したいろいろな出来事。 まるで夢でも見ている様な・・そんな事に過ぎなかった・・。

  • 小説
  • 短編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2023-01-07

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