お父さんをください (2:1)
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「お父さんをください」
◆◆◆登場人物
娘(♀) BL好きで天然。 名前は典子(のりこ)だが、あんまり出てこない
父(♂) 普通のお父さん。娘の彼氏が結婚の挨拶にくると思ってる。
坂口(♂) 娘の友人(お父さんは彼氏だと思ってる)ハイスペイケメン
上演時間10分~15分
◆◆◆本文
娘:お父さん……
坂口:お父さん……
父:ごくり……
(独り言)ついに来たか、この日が。妻に先立たれ、男手一つで娘を育てて早十年……
喜ぶべきことではあるんだろうが、正直、寂しくないと言えば、嘘になる……ああでも、父として最後の役目を果たさねば。
娘:知ってると思うけど、改めて紹介するね。坂口さん。
父:知ってる。今までも、ちょくちょく遊びに来てたしな……いくら鈍い父親でも、その……さすがにわかる。礼儀正しくて、その、いい、青年だな。
坂口:本当ですか!? 嬉しいです、お父さん!
娘:顔は! 顔はどう? けっこう、かっこよくない?
父:か、顔? まあ……そうだな。典子は、面食いではなかったと思うんだが、そうだな、うん、ハンサム、だな。
娘:あ、なんかいい感じ。よかったね坂口さん!
坂口:あ、なんか、照れるな……はは、緊張してきた。
娘:坂口さんなら大丈夫だよ。ね、がんばって!
坂口:うん、俺、しっかり伝えるよ、自分の気持ちを。
父:とうとう来たか……
娘:ね、お父さん、坂口さんの話、聞いてあげて。
父:うん、覚悟はできている。まあ、父親としては複雑ではあるが、いつかは、通らなくてはいけない場面だしな。
坂口:じゃあ……お父さん
父:は、はい。
(間)
坂口:お父さん……お父さんを僕にください!
父:(前の坂口の台詞の途中で)わかった、娘をよろしく頼む!
娘:ん?
坂口:ん?
父:ん?
(三人顔を見合わせる)
父:あれ? なんか今、聞き間違い、かな? 坂口君、悪いんだが、今の台詞もう一回、いいかな。
坂口:あれ聞こえませんでした?
父:聞こえたと思うだけど、ごめんね、もう一回だけ。
坂口:わかりました、では……「お父さんを僕にください!」
父:まてまてまて? 今「お父さんを僕にください」って言った?
坂口:はい。
父:「娘さんを」じゃなくて?
坂口:はい。
父:はいー?
坂口:お父さんが欲しいです! いただけますか?
父:まてまてまてまて……!
娘:お父さん、坂口さん真剣なの。ちゃんと答えてあげて。
父:はい、ストップ! ちょっと一旦、整理しよう。
坂口:はい。
娘:うん。
父:坂口君は、典子の彼氏、じゃないのか?
娘:え、違うよ?
坂口:違います、友達です。
父:は?
娘:めっちゃ仲良しだよねー?
坂口:ねー?
娘:今日も一緒にランチしながら、どうやってお父さんを落とすか作戦会議したし。
坂口:あれ、もりあがったよねー? ま、結局ストレートに伝えるのが一番ってことになったわけだけど。
娘:そうそう、お父さん鈍いからはっきり言わないと、遠回しに言っても伝わらないって結論になったんだよね。
坂口:いざ言ってみると、さすがに恥ずかしいな。
娘:大丈夫、がんばって!
坂口:うん、ありがとう、がんばるよ!
父:んー? お父さん、時代についていけてないの、かな?
娘:で、坂口さん、お父さんのことがずっと好きだったの。だから、ちょいちょい家に呼んで、わざと私がコンビニに行って、2人きりしたりしてたわけだけど……
父:ちょっとまて、あれはそういう意味だったのか。娘の彼氏と2人きりにされて、お父さん、すっごく気まずかったんだぞ。
娘:そっかぁ、お父さん、坂口さんのこと私の彼氏だと思ってたんだね。作戦失敗だったかぁ。
父:とりあえず、今日のところはお引き取りいただいてもらいなさい。
娘:え、なんで? 坂口さんの何が不満なの? イケメンだし、高収入で、家事も得意なんだよ? あと、タバコも吸わないし、次男だよ?
父:うん、そうだね。婚活女性なら、垂涎(すいぜん)ものの好条件だね! でも、お父さん男だし? 婚活もしてないのよね? わかる?
娘:でも、お父さん独身だし。いいじゃん!
坂口:ダメですか? 僕の何が気に入らないですか? ダメな所は直します! なんでも言ってください。お父さん色に僕を染めてください。
父:やめろ! そういう問題じゃなくてだなぁ!
ダメな所……しいて言えば、貰いに来る相手を間違えているところくらいかなぁ? 娘が欲しいと言ってくれたらね、嬉しかったんだけどね? そこんところ変更できないものかね? 友達みたいな夫婦ってのもアリだと思うよ?
娘:あ、そうだ、お父さん、言い忘れてたけど、私、結婚考えている彼氏がいて。彼がお父さんに挨拶したいって言ってるから、来週連れてきていい?
父:おーい! このタイミングで言うな娘よ! 情報が多すぎて、処理し切れないから!
娘:そう? じゃあいつならいい?
父:娘よ、なんでそんなに落ち着いてるんだ。お前はお父さんが、男とつきあってもいいと思ってるのか?
娘:え、なんかいけないの? 大丈夫、私BL好きだし。いろいろ読んで勉強してるから。
父:典子、それは、絶対偏った情報だ! 勉強とは言わない!
坂口:あ、そうだ、典子ちゃん。タケシ君が挨拶に来る日決まったら、連絡してくれる? 俺も一応、挨拶しときたいし。
娘:あ、そうだね! 大丈夫、坂口さんの事も言ってあるから。「お父さん二人になっちゃうかもしれない」って話したら「そうなんだ。上手く行ったら、男三人で飲んだりもしたいなー」って。
坂口:えーそれは嬉しいな! タケシ君、本当にいい彼氏だよね。うん、あれはいい物件。
娘:でへへ、でしょー? 顔はねぇ、つぶれた大福みたいなんだけど、めっちゃ優しいの!
坂口:なかなかプロポーズしてくれないって愚痴ってたけどねー。
娘:それがね、タケシ君たら。どうしてもサプライズにしたかったらしいの。
で、私の指輪のサイズがどうしても分からなくて、こないだ寝てるときにこっそり計ったらしいよ!
でも、いざ指輪はめてみたら、入らなかったんだけどね!(笑う)
坂口:(笑って)タケシ君らしー! ホントおめでとう。そうだ、今度、ご飯でも行こうよ。お祝いに奢らせて。
娘:あ、いいねー! そうだ、こないだの店で行かない? おいしかったし。
坂口:いやいや、もうちょっとお洒落な店がいいんじゃないかな? お祝いなんだし。
(以下、娘と坂口で盛り上がる)
父:(1人取り残されて)……うーん、時代すごいなー。お父さん、ついてけないなー……ブラウン管のテレビを叩いて直してた時代に戻りたいな……
携帯電話とかなかったから、駅で待ち合わせるときは、掲示板で連絡とって……あれはあれで風情があったよなぁ(ぶつぶつ)
坂口:おっと、目的を忘れるところだった。今日はお父さんに結婚を前提に、交際を申し込みにきたんだった。
父:ぎくっ。
坂口:と言うわけで、お父さん、僕のモノになってください!
父:なりません! お断りします!
坂口:え、どうしてですか?
父:どうしてもこうしても……
坂口:僕はそんなに簡単にあきらめるつもりはありません。
娘:大丈夫だよ、坂口さん。お父さん、照れ屋だし。お母さんも、8回告白してやっと結婚して貰えたって言ってたし。
坂口:そうなんだ。わかったがんばるよ。 典子ちゃんのお父さんを口説いて、典子ちゃんのお父さんになるよ!
父:ややこしいな! がんばらないでくれ……もうお父さん、へとへとだよ?
坂口:お父さん……(じっと見つめる)
父:な、なんだ……
坂口:僕はお父さんのことが好きです。お父さんから見たら僕なんて若造かもしれませんけど、きっとお父さんのことを幸せにします。
父:(やや、動揺して)いや、そういう問題ではなくてだな。
坂口:じゃあどういう問題なんですか? 聞かせてください。
父:なんでこっちに寄ってくるのかな……ちょっと離れよう、ね?
坂口:いやです(壁ドン)だまって俺のモノになれよ。
父:……! これが壁ドンというやつか……まさか、俺が経験することになるとは……さ、坂口くん? その、落ち着こう? 一旦、話そう? な?
坂口:声がうわずってるよ。意識、してるだろ?
父:いや、その……
坂口:ほら、こっち見ろよ。
父:いや、でも……わ、ちょっと、やめ……おい、どこさわってるんだ! あ……
(お父さんが坂口に迫られるアドリブを入れてもよい)
娘:(小声で)いいよ、坂口君、がんばって、その調子!
坂口:(小声で)うん、お父さん、推しに弱いタイプみたいだから、強引に行った方がいいかなって思って。
娘:(小声で)うん、いいと思う! もっと耳元に囁いたりしてみたら?
坂口:(小声で)なるほど、やってみるよ!
父:きこえてるからねぇ! ああ、危ないところだった、危うく持って行かれるところだったぁ! 娘の前だってことを危うく忘れるところだったよぉ!
坂口:え、娘さんの前だからダメなんですか? じゃあ、2人だけになれるところに行きますか?
父:あのさあ、さっきから思ってたけど、なんでそう必死なのかな? もう今日、行こうとしてるよね?
坂口:それは、だって……お父さんも男ならわかるでしょう? 好きな人を目の前にすると、体が……収まりつかないんです!
父:だから娘の前なんだよねぇ! 下世話な話やめてくれるぅ?
坂口:お父さん……
父:な、なんだい……
坂口:でも、さっきから、お父さん一言も言わないですよね。「男は無理」って。
父:ギクっ……
坂口:俺のこと嫌いならそう言ってくれていいんですよ? 諦めますから。
父:そ、それは……その言い方はずるいというか……。
(間)
娘:あーあ、素直じゃないなあお父さん。
坂口:ダメか……しかたない、確かに、性急すぎたかもしれませんね。わかりました、今日のところは引きますよ。
娘:いいの坂口さん?
坂口:うん、また口説きにきていいかな?
娘:もちろんだよ、がんばって坂口さん!
坂口:うん! また作戦会議しようね。
父:ちょっとまってくれ……。これがまだこれからも続くのかな?
娘:それはお父さん次第じゃない? 我慢しないで、抱かれちゃえばいいのに。
父:娘? 自分が何を言ってるかわかってるのか娘?
娘:だって、私は、坂口さんならお父さんを幸せにしてくれるって思ってるからこそ、紹介したの。お父さんだって本当は……まあいいや、じゃあ坂口さん、また遊びに来てね?
坂口:はい、もうこんな時間ですね。遅くまで、お邪魔しました。
娘:玄関まで送ってくる。あ、お父さんが送る?
父:送りません!
(坂口帰る)
父:はあ……疲れた。
娘:よかったの帰しちゃって?
父:俺にどうしろって言うんだ。母さんを亡くしてから、娘を育てることに精一杯だった俺に、娘の彼氏だと思ってたイケメンに迫られるなんて、想定外にも程がある。
娘:んー、お父さん? 言っておくけど、お父さんはまだまだイケてるよ? 今までも結構モテてたのに、お母さんに義理立てして、スルーして来たじゃない。
お母さんだって、お父さんに幸せになって欲しいと思うよ?
父:うーん、でもなぁ。天国でお母さんに会って、男と付き合いましたなんてどんな顔で言えばいいんだ。
娘:じゃあじゃあ、逆だったら? もしも、先立ったのがお父さんで、お母さんが若い美人に言い寄られていたら、どう思う?
父:はあ? そんなこと想像させるなよ……
……まあ、でも、お母さんが幸せなら。……お母さんが残りの人生を1人で生きるよりは、大切にしてくれるパートナーがいてくれた方が、俺も安心できる、かな、きっと。
娘:そういうことだよ。
父:なるほどなあ。
娘:うん……。
父:……さ、もう寝よう。なんにせよ、今日は疲れた。お前も明日仕事だろう?
娘:はーい。
坂口:あのー?
父:わわ!
娘:あれ、坂口さん、帰ったんじゃなかったの?
坂口:実は、終電逃しちゃって。泊めてもらっていいですか?
娘:え、それは大変! すぐにお布団敷くね? お父さんの隣でいいよね?
父:いいわけあるかー! もう勘弁してくれ!
【完】
お父さんをください (2:1)