赤と青のベンチ

01

 家から五分ほど歩いた先にある公園には、赤と青のベンチがある。
 その公園は広々としていて、あるものはブランコ、シーソー、滑り台、と至って普通の公園と変わらない。広々とした砂場から少し外れたところにあるのが、赤と青のベンチ。周りに木々があるので、誰からも見つからないようにとひっそりと佇んでいる。
 私は赤いベンチに座るのがすきだ。用も無いのに、よく座りに行ってしまう。
 見た目も普通。形も普通。色が赤いというだけで何故こんなにも私を引きつけてしまうのかわからないけれど、兎にも角にも、魅力的なのだ。
 然し、このベンチに、赤だけでなく青でさえも、誰も座っているのを見たことがない。強いて云うならば、猫さまが日向ぼっこをしにどちらかに座っているくらいだ。
 何故、誰も座らないのだろう。
 私は常にその疑問を抱いてる。が、かといって来るたびに誰かが座っているほどの人気っぷりがあっても困るだけなので過疎なくらいが私にとって、丁度いい。

 そうして今日も、家から五分ほど歩いてやってきた、のだが。
 どうやら、私史上、いや、ベンチ史上初めての先客が座っていた。
 驚きの余り、暫く立ち尽くしてしまった。
 先客がいたのにただ驚いている訳ではない。

 …その人は、私の特等席に座っていたのだ。


   

02


「……。」

 見続けてしまった。
 どれほど長いこと見てしまっていただろうか。私の中では、時が止まっていた。音も無かった。
 けれどその人は私の方を見て嫌なことをするもなく、只々、私の特等席に座っていた。…いや、私の、等と云っているが、この赤いベンチは一公園の一ベンチなので、当たり前に私の所有物なんかではない。

 私が勘違いしていただけである。

 然し、隣の青いベンチに座ることは何故だか躊躇われた。
 仕方なしに回れ右をして帰ろうとした。その時、

「座らないのかい?」

 後頭部から声がした。私の頭に口がついてしまったのだろうか。
 そんな馬鹿なことを考えるくらいには余裕があった。いや、寧ろ無さすぎて一周回ってしまったようだ。
 兎にも角にも、その人物が声をかけてきたのは事実だったので、踏み出した足を止めて、もう一度振り向いた。

「座りに来たのではなかった?」

 そうだ。当たりだ。
 何故、当てられたのだろう。…まあ、ベンチの前まで来てそこで暫く立ち止まってから帰ろうとした人がいたら、私でも声をかけてしまうだろう。
 答えは至って簡単だったのだ。そんなに驚くことではない。
 そう言い聞かせるように呼吸を整えた。

「…あ、そう、でし、た」

 なんだこれは。
 阿呆丸出しではないか。何故、こんなにもドギマギしているのだ。

「…っふ」

 その人は、吹き出した。続けてあははと笑い出した。
 困惑する私と笑っているその男の人。

 とても、滑稽だった。


 これが、私と彼のハジメテのお話である。


   

赤と青のベンチ

拙い文章を読んでいただき、有難うございました!

赤と青のベンチ

短編小説

  • 小説
  • 掌編
  • 青春
  • 恋愛
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2012-12-27

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