奇想詩『アウフヘーベン屋』
アウフヘーベンが三日前から動かなくなってしまった
使い方も間違っていないはずだし
そんなに乱暴に扱ったわけでもない
かと言ってアウフヘーベンを使い慣れているわけでもない
先月買ったばかりなのでまだ保証が効くはずだ
明日にでもアウフヘーベン屋に行くか
いや せっかくの休日に
アウフヘーベンのために時間を費やすだなんて馬鹿げている
アウフヘーベンのひとつくらいなくたって生きていける
あったほうが便利だと言われて買ってみたものの
アウフヘーベンのない生活のほうがもちろん長かったわけだから
アウフヘーベンがなくてもぜんぜん平気だ
まあでもせっかく修理保証があるんだったら
アウフヘーベン屋に電話して家まで来てもらったほうがいいかもしれない
アウフヘーベン屋のおっちゃんはアウフヘーベンに関しては
口うるさいけど根はいい人だからまあいいだろう
翌日アウフヘーベン屋のおっちゃんが来てくれた
どうやらアウフヘーベンのへーベンの部分が
取れかけているらしいのでせっかくだし
アウフもへーベンも全部取り替えてもらうことにした
アウフへーベン屋のおっちゃんは今でも
旧型のアウフヘーベンを愛用しているようで
修理しているあいだずっと嬉しそうにそのことを話していた
おっちゃんはもともとへーベン専門だったらしいのだが
それだけでは食っていけないということで
アウフもするようになったそうだ
じつに世知辛い世の中だ
修理を終えたおっちゃんがやり切った顔で帰っていった
それから三日後に今度はアウフの部分が取れたので
いっそのこと次は新型のルサンチマンを買ってみようと思う
奇想詩『アウフヘーベン屋』
〈あとがき〉
この作品のイメージは、松本人志のMHKというコント番組のなかでやっていた『ダイナミックアドベンチャーポータブル』です。
月刊ココア共和国2021年2月号掲載作品(佳作集)