奇想詩『ミルクシェイク工場』
町はずれの森の奥にミルクシェイク工場がある
と教えてくれたのはスエマサツバサでした
スエマサツバサは町でも有名なウソツキでした
スエマサツバサは年中半袖で丸々と太っていました
スエマサツバサは雪が降る日にも半袖でしたが
腕をよく見ると
そこにはくっきりとした鳥肌が
びっしりと浮き出ていました
寒いの? と聞いたら
全然 と答えました
無理すんなよ と言ったら
無理なんかしてない と答えました
スエマサツバサはお金持ちだと言っていました
何度かプラモデルをもらったこともありました
けれども本当にスエマサツバサがお金持ちかどうかが気になって
スエマサツバサのあとをつけて家までついて行きました
スエマサツバサはぼろぼろの木造アパートの一階に住んでいました
玄関前の狭い通路にはチェーンの外れた自転車やら
枯れ果てた植木鉢やら紐で縛った雑誌やらの
ガラクタがたくさん置かれていました
お金持ちから一番遠いと言えるくらいの暮らしぶりに見えました
そんなウソツキのスエマサツバサが
隣町に引越すことになりました
スエマサツバサは引越す間際に
町はずれの森の奥にある
ミルクシェイク工場のことを教えてくれました
最後の最後までウソツキなんだなと思いましたが
スエマサツバサの顔は今までついてきたウソの中でも
一番真剣な表情をしていたので
今回は本当かもしれないと思いました
半信半疑のまま町はずれの森の奥に行ってみました
スエマサツバサの言ったとおり
そこには世界中のミルクシェイクをここで作っていると言われても
納得してしまうくらい巨大なミルクシェイク工場がありました
それ以来ぼくは今でもそこで働いています
奇想詩『ミルクシェイク工場』
月刊ココア共和国2021年1月号掲載作品(佳作集)