奇想詩『拳銃のある風景』
日曜日
目覚めてから洗面所へ行く
顔を洗い 口を濯ぎ キッチンへ行く
食パンにバターを塗りチーズをかけて
トースターでこんがり焼く
焼き上がったパンと温かいココアが
その人のいつもの朝食
窓外では小鳥がさえずり
空の雲はゆったりと流れる
いい天気だ
食卓の上にはこんがり焼けたトーストと
温かいココアのカップの他に拳銃が置いてある
重く鉛色をした拳銃
何食わぬ顔でその人は拳銃を見ながら朝食を食べる
習字教室で小学生たちが拳銃を文鎮がわりにして
半紙をおさえている様子を頭に思い浮かべる
みんな黙々と筆を走らせている
拳銃はしっかりと半紙をおさえている
その人は昔 習字を習わなかった
だから今でも字が汚い
その人は朝食を終え 散歩に出かける
それがその人の日課
緑のフリースに黒のチノパン
片手には拳銃
すれ違う近所の人たちと挨拶を交わす
拳銃を宙に挙げながら おはよう
主婦も老人も子供も一人残らず
大小さまざまな拳銃を持っている
パトカーがその人に近づいてくる
パトカーが目の前に停まる
運転席の窓が開いて警官がその人に話しかける
「調子はどうだい?」
「これまでにないくらい気分が良いよ」
その人は片手の拳銃を見せながらそう答える
「それはよかった 道中気をつけて」
警官は笑顔でそう言って窓を閉める
「片手にピストル 心に花束」
その人は小さな声でそう呟く
奇想詩『拳銃のある風景』
〈あとがき〉
BGMは沢田研二の『サムライ』でどうぞ。
月刊ココア共和国2020年11月号掲載作品(傑作集)